Aston Martin Vantage Roadster
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Porsche 911 Carrera GTS Cabriolet

オープンカーには2種類ある

ヴァンテージ・ロードスターのドライブモードは「ウェット」「スポーツ」「スポーツ+」「トラック」「インディビジュアル」の5つで、スポーツがデフォルト。DB12のような「GT」モードはない。試乗車のタイヤはアストンマーティン承認のミシュラン・パイロットスポーツS5だ。
ヴァンテージ・ロードスターのドライブモードは「ウェット」「スポーツ」「スポーツ+」「トラック」「インディビジュアル」の5つで、スポーツがデフォルト。DB12のような「GT」モードはない。試乗車のタイヤはアストンマーティン承認のミシュラン・パイロットスポーツS5だ。

ドロップヘッド、ロードスター、カブリオレ、スパイダー、コンバーチブル、バルケッタ等々。呼び名は数あれど、オープンエアモータリングは2つの流れに集約できるはずだ。攻めるためのモデルか、優雅さを享受するための1台か。攻めのモデルはミニマリズムの観点でも、昔からオープンが重宝されてきた。トップがない分だけ軽く、ドライバーの視界も良かった。そんな伝統は現代のフォーミュラカーにも色濃く残っているのである。

一方「優雅」なそれは、パートナーの髪が乱れない程度で流して走ることで成立する。リヤシートにVIPを乗せるパレードカーなどがそのわかりやすい例かも知れない。

さてイギリスとドイツ出身となる今回の2台はもちろん前者である。アストンマーティン・ヴァンテージ・ロードスターはリヤタイヤがドライバーのお尻にくっつきそうなくらいの2シーターだし、ポルシェ911カレラGTSカブリオレも、4名乗車で屋根を開け優雅に旅するクルマでないことは確かである。

「ヴァンテージ」は古くからアストンマーティンが使ってきた名称だが、その昔は特別なチューンドエンジンに冠されるサブネームに過ぎなかった。そんな背景を考えれば現行型はV8エンジンを搭載した2シーターとなってから2世代目。それが昨年ビッグマイナーチェンジを受け、後期型になっている。

先代からターボの大型化やカムプロファイルの見直し、圧縮比の最適化などを実施。665PS/800Nmを得たヴァンテージの4.0リッターV8ツインターボ。ベースユニットはAMGのM177型。
先代からターボの大型化やカムプロファイルの見直し、圧縮比の最適化などを実施。665PS/800Nmを得たヴァンテージの4.0リッターV8ツインターボ。ベースユニットはAMGのM177型。

その特徴は復活した大きめのグリルと眼を見開いたようなヘッドランプだ。ひと目で伝統的なアストンとわかる顔立ちだが、その改変が見栄えをよくするためだけではないというあたりも素晴らしい。

メルセデスAMG製の4.0リッターV8ツインターボの最高出力は前期型の510PSから実に155PSも引き上げられ665PSを実現。これほどの大幅なスープアップとなれば当然冷却性能が不足するので、ラジエーター本体とその開口部の改変が避けられなかったのだろう。

対するポルシェ911はいわゆる992II型なのでこちらも後期型。しかもGTSということでシリーズ初のハイブリッドモデルという話題性も秘めている。ポルシェ開発陣が911に込めた電動化は巧妙で、電気を前面に押し出すことも、飛び道具的に使うこともしていない。

新開発の3.6リッターフラット6ターボの「隙間」を補完するためだけに入念に編み込まれているのだ。そんなスペックを知らずに乗ったとしても、大排気量の自然吸気エンジンを疑ってしまうほどの抜けのいい快速モデルというキャラを存分に味わえるはずだ。

ポルシェ911初のハイブリッドとなるGTSは、3.6リッター水平対向6気筒の電動シングルターボを積む。モーターはエンジンと8速DCTの間に搭載。システム総合スペックは541PS/610Nmだ。
ポルシェ911初のハイブリッドとなるGTSは、3.6リッター水平対向6気筒の電動シングルターボを積む。モーターはエンジンと8速DCTの間に搭載。システム総合スペックは541PS/610Nmだ。

エンジンの搭載位置や乗員の数といったものはブランドの成り立ち通りに異なっているが、動力性能やオープントップボディ、そして“格”といった逐一は拮抗しており、真っ向勝負に相応しいペアであることがわかる。さあ幌もサイドウインドウも下ろして走り出してみよう。

ヴァンテージ・ロードスターはまずオープンありき?

早朝の都心で新型ヴァンテージ・ロードスターと対面したとき、これほどスタイリッシュなスポーツカーが他にあるだろうかと強く思った。2007年に登場した初代のV8ヴァンテージもアストンの魅力をギュッと凝縮したような決定的な外観を与えられていたが、最新モデルはそれ以上のイケメン。歴代アストンの中では限定77台のスペシャルモデル、one-77をブラッシュアップしたようなフロントマスクになっている。また抑揚のある前後のフェンダーフレアと21インチ径のミシュランのバランスも見事だ。

幌を下ろしたシルエットを真横から見ると、ボンネット上端のラインがひと筆書きのようにリヤエンドまでつながっており、クーペに負けず劣らずのインパクトを備えている。

まるで最初にオープンモデルがデザインされ、あとでクーペが生まれたようにすら感じられるヴァンテージ・ロードスター。それと比べるとポルシェ911カレラは歴代クーペのルーフラインの印象が強すぎることもあり、カブリオレは派生モデルの印象がぬぐえない。それでもリヤシートを残したまま幌をパワートレインの真上に収納してみせ、しかもルーフ上面の丸みをそのままリヤエンドのラインと合わせ込んだ991以降のカブリオレは、若干スピードスター的な美しさを身につけることに成功しているように思う。

目新しいヴァンテージを先にドライブした。コクピットはシートも内張も上質な革で覆われているが、全体的にタイトな空間になっており、スポーツモデルの血統が窺える。

電動となっている幌の開閉は僅か6.8秒と素早い。だが傾斜したフロントウインドウとAピラーが頭部に迫っていることもあって、静的な解放感はそこまで強くない。

走り出してみて感心させられたのはボディのしっかり感だった。以前箱根で試乗したクーペとほとんど変わらないカッチリとした印象。アルミニウム接着のフロアモノコック的な構造はルーフの存在にそこまで頼っていない。それに加え最新のヴァンテージ・ロードスターはパワートレインやアシの動きまでトータルに煮詰められた感じが伝わってくる。

首都高速でペースを上げてみると、トランスアクスルによる重量バランスの良さもしっかりと感じ取ることができた。ここまで完成度が高ければクーペの出る幕がない? そんなロードスターの出来栄えである。

その点、ポルシェ911カレラ・カブリオレはこれまで通りのドライブフィールだった。オープンエアの開放的な感じはヘッドレストのすぐ後ろにロールバーがグッと迫るヴァンテージとは対照的。そして段差を乗り越えた時などフロアやスカットル付近が微かに振動する感じもヴァンテージとは異なる。補強を含んでもなお、伝統的にカレラ・カブリオレのハンドリングはカレラ・クーペよりも優しく設えられているのだ。つまりワインディングを走り回って遊ぶだけ、もしくは内外装を眺めて楽しむといった部分において、ヴァンテージ・ロードスターは911カレラ・カブリオレよりも優れていると言っていいだろう。

その点ポルシェ911も代変わりする毎に特に内装部分のプレミアム感を増してきているのだが、そもそも「貴族的なスポーツカー」であることをブランドの核としているアストンとは成り立ちが異なるのだ。

走りに関しても、911カレラ・カブリオレが目指しているのは「点よりも線」と言った方がいい。経験則から言うのだけれど、カレラ・クーペとは異なるカレラ・カブリオレ独特のやさしいドライブフィールは、ロングドライブで真価を発揮する。幌を閉じていても開けていても、ガソリンの残量がある限りドライブし続けようという気にさせてくれるし、結果的に疲れることなく目的地に速く辿り着くことができる。

911が支持される理由

縦に配される5本のアクティブエアフラップがGTSの証。911のドライブモードは「ウェット」「ノーマル」「スポーツ」「スポーツプラス」の4種だ。写真のカーボンブレード付き「カレラ・エクスクルーシブデザイン」ホイールはオプションで、タイヤはピレリPゼロRを装着。
縦に配される5本のアクティブエアフラップがGTSの証。911のドライブモードは「ウェット」「ノーマル」「スポーツ」「スポーツプラス」の4種だ。写真のカーボンブレード付き「カレラ・エクスクルーシブデザイン」ホイールはオプションで、タイヤはピレリPゼロRを装着。

「オープンエアだからではなく万能だから」、カレラ・カブリオレがリピーターに支持される理由は本質的なキャラの部分が大きいと思う。また今回、快適ロングツアラーの体躯と、すこぶるパワフルで滑らかなGTS(ハイブリッド)パワートレインの相性の良さも確認できた。

プロレスでもボクシングでも、優勢な側が絶えずリングの中央を陣取って、たびたび相手をコーナーに追い詰めるシーンがよくある。今回のオープンエア対決でいえば、自信を持ってリングの中央で身構える911カレラGTSカブリオレに対し、その周囲をグルグルと駆け巡りながらカウンターのチャンスを狙うヴァンテージ・ロードスターという構図が透けて見えていたように思う。

それは快適な走りだけでなく使い勝手や伝統的なスタイリングといった多様性で訴えかけるポルシェと、豪奢な質感とスポーティな走りにフォーカスしたアストンマーティンと言い換えてもいいだろう。

結局のところ、商業的に成功するのはいつものようにポルシェなのだろう。だが一方では、稀少性の部分がアストンマーティンというブランドの神話性を高めていることも事実。この勝負、実は根っこのところに違いを孕んでいるのである。

ただ個人的には大いに見栄えのするアストンより実は100kgも軽く、電動化によって走りの質をグッと高めた911カレラGTSカブリオレの方が強く印象に残ったことは記しておかなければならない。

REPORT/吉田拓生(Takuo YOSHIDA)
PHOTO/篠原晃一(Koichi SHINOHARA)
MAGAZINE/GENROQ 2025年10月号 

SPECIFICATIONS

アストンマーティン ヴァンテージ ロードスター

ボディサイズ:全長4495 全幅1980 全高1285mm
ホイールベース:2705mm
車両重量:1730kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3982cc
最高出力:489kW(665PS)/6000rpm
最大トルク:800Nm(81.6kgm)/2750-6000rpm
モーター最高出力:─
モーター最大トルク:─
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前275/35R21 後325/30R21
最高速度:325km/h
0-100km/h加速:3.6秒
車両本体価格:2860万円

ポルシェ 911 カレラ GTS カブリオレ

ボディサイズ:全長4553 全幅1852 全高1293mm
ホイールベース:2450mm
車両重量:1675kg
エンジンタイプ:水平対向6気筒DOHCターボ
総排気量:3591cc
最高出力:357kW(485PS)/6500rpm
最大トルク:570Nm(58.2kgm)/2000-5500rpm
モーター最高出力:40kW(54PS)
モーター最大トルク:150Nm(15.3kgm)
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前ストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前245/35ZR20 後315/30ZR21
最高速度:312km/h
0-100km/h加速:3.1秒
車両本体価格:2633万円

【問い合わせ】
アストンマーティン・ジャパン・リミテッド 
TEL 03-5797-7281 
https://www.astonmartin.com/ja

ポルシェ コンタクト 
TEL 0120-846-911 
https://www.porsche.com/japan/

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