MotoEの充電事情

電動バイクレースFIM MotoE World Championshipは、2019年に始まった電動バイクによって争われるチャンピオンシップである。現在のマシンはドゥカティがMotoEのために開発した電動レーサーV21L、タイヤはミシュラン(サスティナブル素材を使用)のワンメイクだ。

1戦2レース開催で、2025年シーズンはフランス大会(フランスGPに併催)を皮切りに、最終戦のポルトガル大会(ポルトガルGPに併催)まで、全7戦14レースが予定されている。MotoEが併催されるのはヨーロッパのMotoGPで、これまでに海を渡ったのはイギリス大会(2023年)のみだ。

そんなMotoEマシンのレース後のバッテリー残量はどのくらいなのだろうか。MotoEの充電事情を、8月15日から17日にかけてレッドブル・リンクで行われたオーストリア大会(MotoGP第13戦オーストリアGP併催)で取材した。

ドゥカティの電動レーサーV21Lは、最高出力110kW(150hp)、最大トルク140Nmを発揮する。2025年型は、出力は変わらないままバッテリーパックが進化した。従来の4.2Ahから5Ahにエネルギー密度が向上したセルが採用され、バッテリーパックを構成するセルは1152個から192個減少し、960個となった。この結果、バッテリーパックで8.2kgの軽量化を実現している。

充電システムの変遷にも軽く触れておこう。MotoEマシンV21Lは、1台あたり20kWの出力を必要とする。参戦台数は18台なので合計360kW、さらにスペアマシンなどのもろもろを含めて400kWが必要だ。

MotoEがスタートした2019年以前、MotoEのエグゼクティブ・ディレクター、ニコラ・グベールさんはサーキットに供給可能な電力を尋ねたところ、「400kWは絶対に無理だ」と、断られたという。このため、2019年からタイトルスポンサーを務めたEnelがバッテリーを備えた特別な充電器を作った。Enelの充電器によって、どのサーキットでもピットとグリッド上、それぞれでの充電が可能となった。

しかし、2025年にこの状況が変わった。初年度の2019年から2024年にかけてタイトルスポンサーを務めたEnelが撤退したからだ。Enelの筆頭株主はイタリア政府の経済財務省(23.6%の株式を保有)であり、民営化されてはいるが政府が影響力を持つ会社だ。イタリア政府が変わったときにEnelの経営陣も変わり、現在のトップはサッカーのスポンサーをする意向を示した。

2025年、Enelが撤退したことで、MotoEはEnelの充電器を失った。だが、6年の間にサーキットの状況は変わっていた。今季のカレンダーについては、このような状況、つまりサーキットに供給可能な電力があるのかが考慮されている。このために2025年シーズンのカレンダーは、2024年よりも1戦少ない7戦の開催なのである。

今季については、アメリカのバッテリー技術企業であるPower SonicのEV充電およびエネルギー・ストレージ部門、EVESCOの充電器が使用されている。この充電器はバッテリーを内蔵しておらず、サーキットの送電網からEVESCOの充電器を介して充電が行われる。

レース後のバッテリー残量は

さて、それでは第3戦オーストリア大会、レッドブル・リンクでの実際のバッテリー消費量はどのくらいなのだろうか。

なお、MotoEのレース周回数は7~8周で設定されている。オーストリア大会は、7周だった。これは、ライダーが電費をマネジメントすることなくスタートからゴールまで全力で攻め、争うことができる周回数として設定されている。これがMotoEのコンセプトだからだ。MotoEはバッテリー残量を考えて走るレースではないのである。

また、2024年まではサイティングラップ後、グリッド上でEnelのポータブル充電器によってサイティングラップで消費した分を充電することができたが、今季は前述の通り、そのポータブル充電器を使用できなくなったため、グリッド上での充電は行われない。

グリッド上では小さなバッテリーによってタイヤウオーマーに電力を供給する。右の青い箱がバッテリー。マシンへの充電は行われない

土曜日、12時10分スタートのレース1後、優勝したマッテオ・フェラーリ、2位のエクトル・ガルソ──2024年のチャンピオンである、3位のエリック・グラナドのバッテリー残量を確認した。

レース1はトータルタイムが約12分、フェラーリのベストラップは1分38秒146、ガルソのベストラップは1分38秒220、グラナドのベストラップは1分38秒133である。このサーキットでのMoto3クラスにおけるオールタイム・ラップ・レコードが1分39秒639、ベスト・レースラップが1分40秒048なので、Moto3クラスよりもやや速いラップタイムである。

7周のレース後、フェラーリは27%、ガルソは23%、グラナドも23%というバッテリー残量で充電が始まっていた。

優勝したフェラーリのバッテリー残量は右側。左側はチームメイトのバッテリー残量。トップ3よりもピットに戻ってくるのが早いので、先に充電を始めており、残量に違いがある
ガルソのバッテリー残量は左側。23%くらいから充電が始まっていた
グラナドのバッテリー残量は左側。トップ3のライダーのバッテリー残量は、ほぼ同じであることがわかる

これについてEパドックにいたドゥカティのスタッフに確認したところ、レッドブル・リンクはあまり電費が悪いサーキットではないので、バッテリー残量20%くらいが普通だそうだ。確かに、他のサーキットで確認したときは残量が10%を切っていたところもあった。

充電時間は約1時間である。バッテリーのセルの数は減ったがエネルギー量は変わっていないので、充電時間も従来から変わっていない。MotoEは土曜日に2レースが開催されるが、レース1は12時10分スタートでレース時間は12~13分。13時前には充電が始まるので、遅くとも14時には充電が完了していることになる。レース2は16時10分スタートだから、十分に間に合うのである。

レース後、まずはメカニックがマシン整備

オーストリア大会から連戦で行われる第4戦ハンガリー大会は、少しだけ充電事情が異なっている。というのも、サーキットの電力が少し足りなかったからだ。

このため、バッテリー・ストレージ・システム(BBS)を10個、使用する。これは1個あたり100kWhのバッテリーストレージで、車輪がついており、サーキットの外でこれに充電をして戻り、大きなバッテリーに電力(100kWh×10個=1MWh)を移す。そしてEVESCOの充電器を介して充電が行われるということだ。これはハンガリー大会だけの対応だという。

今回は、MotoEの充電事情と実際のバッテリー残量に焦点を当ててご紹介した。MotoEは電動バイクというまさにこれから発展しようとしているモビリティを使用しているために様々な「課題」が立ちはだかるのも事実だが、年月をかけて追いかけていると、そこには確実な進歩があるのだとわかる。そしてそれは、サーキットだけに限らないはずだ。

MotoEのピットが集まる「Eパドック」はコースから少し離れているので、こうしてマシンなどを手押しして移動する
各ピットの裏にEVESCOの充電器が設置されている。各チーム2台のマシンにつき充電器は1台