7代目ムーヴは軽自動車の枠を超えてオススメできる
7代目となったダイハツ「ムーヴ」に試乗した。先代モデルの登場は2014年だから、なんと11年ぶりのフルモデルチェンジだ。

そして今回はその試乗記を前半でNAモデル、後半でターボモデルと2回に分けてお伝えして行くつもりだが、まず結論から先に述べてしまおう。今度のムーブは、とてもいい。いまあるコンパクトカーのなかで、軽自動車の枠を超えてお勧めできるモデルだと、筆者は感じた。
電動化しなかったことが逆に素性の良さを際立たせる
新型ムーブの構成は前述の通り、NAモデルとターボモデルの2種類だ。このご時世に「電動化」が一切なされなかったのは、 2023年の認証申請のおける不正問題が、新型車の開発をストップさせたためだという。
しかし筆者はそのアクシデントが、かえって新型ムーブの素性を際立たせたと感じた。結果論だが走行用のバッテリーやモーターが加わらないことで、よりクルマの本質があらわになった。また車両重量も抑えることができた。

そのパワーユニットは658ccの直列3気筒「KF-VE」ユニットを引き継ぎ、NAモデルのパワー&トルクは52PS/60Nmで変わらず。しかしその発生回転数が、最高出力側では6800rpmから6900rpmへと100回転増えている。
興味深いのは最大トルクの発生回転数が、5200rpmから3600rpmと大幅に引き下げられていることだ。そして気になる燃費は、最もベーシックなグレード「L」(2WD)で比べると先代モデルの20.7km/Lに対し、新型は22.6km/Lに向上している(ともにWLTC値)。
| 世代 | 新型 | 先代 |
| エンジン | KF-VE型 直列3気筒DOHC12バルブ | |
| 排気量 | 658cc | |
| 出力 | 52ps/6900rpm | 52ps/6800rpm |
| トルク | 60Nm/3600rpm | 60Nm/5200rpm |
| 燃費(WLTC) | 22.6km/L | 20.7km/L |
ターボモデルは最高出力こそ自主規制値いっぱいの64PS/6400rpmから変わりはないが、最大トルクが92Nm/3200rpmから、100Nm/3600rpmへと引き上げられた。
そして燃費もベーシックモデル「Xターボ SAⅢ」の18.8km/Lから、新型「RS」は21.5km/Lまで向上した(駆動方式はともにFF。WLTC値)。
| 世代 | 新型 | 先代 |
| エンジン | KF-VE型 直列3気筒DOHC12バルブ インタークーラーターボ | |
| 排気量 | 658cc | |
| 出力 | 64ps/6400rpm | 64ps/6400rpm |
| トルク | 100Nm/3600rpm | 92Nm/3200rpm |
| 燃費(WLTC) | 21.5km/L | 18.8km/L |

「カスタム」を廃したシンプルなグレード構成
ちなみにグレード構成も、先代からシンプル化されている。
これまであった「カスタム」は廃止となり、NAモデルは「G」「X」「L」の3種類に。そしてターボモデルは「RS」のみに一本化された。トランスミッションは全車CVTで、駆動方式はFF/4WDの2本立てだ。
| グレード | エンジン | トランスミッション | 駆動方式 | 価格(円) |
| L | NA | CVT | 2WD | 135万8500円 |
| 4WD | 148万5000円 | |||
| X | 2WD | 149万500円 | ||
| 4WD | 161万7000円 | |||
| G | 2WD | 171万6000円 | ||
| 4WD | 184万2500円 | |||
| RS | ターボ | 2WD | 189万7500円 | |
| 4WD | 202万4000円 |
スライドドアを採用しながら重量増を最小限にとどめる
さて新型ムーブで最も大きなトピックは、これまで見送られてきた「スライドドア」が、しかも両側に採用されたことだろう。

ちなみにそのボディサイズは全長3395mm×全幅1475mm×全高1655mm(4WDは1670mm)と、スライドドア分だけ全高のみが25mm高くなった。とはいえ全高を1700mm以下に抑えたそのボディスタイルは、これまで同様に「ハイトワゴン」の域にある。
対してホイールベースは、2455mmから2460mmへと僅かだが伸ばされている。ちなみに居住空間は室内長2140mm×室内幅1335mm×室内高1270mmと、先代の2080mm×1320mm×1280mmに対して室内高以外は広くなった。

ボディサイズをほぼ変えず、室内空間を広げることができたのは、そのプラットフォームに「DNGA」(ダイハツ・ニュー・グローバル・アーキテクチャ)が採用されたからだろう。そして室内高が10mm低くなったのは、スライドドア装着の影響だと思われる。

その車重はNAモデル「L」グレード同士で+10kgの830kg、ターボモデルでは+40kgの890kgに抑えられている。
| 世代 | 新型 | 先代 |
| 全長 | 3395mm | |
| 全幅 | 1475mm | |
| 全高 | FF:1655mm 4WD:1670mm | FF:1630mm 4WD:1645mm |
| ホイールベース | 2460mm | 2455mm |
| 室内長 | 2140mm | 2080mm |
| 室内幅 | 1355mm | 1320mm |
| 室内高 | 1270mm | 1280mm |
| 車重(※) | 830kg(NA) 890kg(ターボ) | 820kg(NA) 850kg(ターボ) |
「X」でも十分だが、さらにベーシックな「L」もアリ?

まず最初に相対したのは、NAモデルの「X」グレード(149万500円~)だ。
外観は「フロントブラックグリル」と呼ばれるシンプルなグリルと、フルホイールキャップを装着した14インチのスチールホイールが特徴で、ピラーだけはターボモデルの「RS」や上級グレードの「G」と同じ、ブラックアウトタイプになっている。

インテリアでは「マルチインフォメーションディスプレイ」にタコメーターがなく、ダッシュボードもエアコンのルーバーまわりなどはシルバートリムされていない。ファブリックシートもステッチが入っておらず、パーキングブレーキは足踏み式だった。
便利な装備としてはオートエアコンと、左側パワースライドドア、そしてキーフリーシステムが着いている。

とはいえスライドドアは十分軽いし、小さな子供がいなければ電動じゃなくても良さそうだと筆者は感じた。またキーフリーシステムも、車外を少し歩き回るだけでロックとアンロックが繰り返されるから、一長一短だ。
とことん安く済ませるのもこうした小型車では楽しいし、それならいっそ、もっともベーシックな「L」(135万8500円~)でも良さそうだと感じた。
DNGAのボディで乗り心地は◯
そんなNAモデルを走らせると、転がりだしから「いいクルマ」感がにじみ出た。要となっているのは、前述したDNGAプラットフォームだ。ボディの基盤がしっかりしているから、ふっかりしたシートの乗り心地や、足周りのしなやかさがスッと体に入ってくる。単にフワフワしているのではなく、質感を伴う乗り心地だ。
足まわりがソフトな分だけ、操舵感まったりとした印象だ。正直このボディならば、もう少しダンパーの減衰力を上げて、操舵レスポンスを高めても乗り心地は悪くならないと思う。しかしそれをしないのは、これが長らく続くNAモデルのハンドリングキャラクターなのだろう。

とはいえムーブは”スーパー”じゃないハイトワゴンだから、きちんとステアリングを切り込んで行けば、普通にカーブを曲がって行く。またブレーキのタッチが良好だから、荷重移動もしやすい。

それだけにドライビングポジションの幅が狭いのは残念で、コストの関係で厳しいのはわかるがテレスコピックはなんとしても付けて欲しいと感じた。アップライトポジションを強いられる軽自動車にこそ、きちんと最後までステアリングを切れる運転姿勢が必要だ。そうすれば非力なエンジンでも、リアクションタイムが早くなって安全性も上がる。

モアトルクとパドルシフトが欲しくなる
660ccの自然吸気エンジンは正直、もう少しだけトルクが欲しい。アクセル開度が小さい状況でもCVTがかなり上手に加速しようとしてはくれるのだが、街中の早い流れのなかだとやや機敏さが足りない。

当然ここ一番加速が必要なときには、アクセルを一杯に踏み込む必要がある。そしてこのときのレスポンスも、とりわけ良いというわけではない。もちろんSモードに入れれば瞬発力は高まるが、とっさにATレバーをガチャリと動かすのは少々億劫だ。

こうした特性を考えれば、NAモデルにACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)が標準化されていないのには納得できる(※)。もちろん高速道路を走ることは十分可能だが、想定ステージやはり街中だ。
※「G」にメーカーオプション。「X」「L」には設定なし。

だからこそ気になったのは、エンジンブレーキがかなり弱いこと。コースティングで燃費を向上させるためだろう、通常時モードでアクセルをオフにすると、思ったよりもクルマが滑走してしまう。Sモードに入れてもまだ減速Gが弱く、Bモードだと効き過ぎてしまってスマートに運転できない。

厳しい環境性能のハードルをクリアするためにこうしたコースト制御は、他社も含めて今後もっと増えて行くことだろう。減速したいならブレーキを踏めと言われればそれまでだが、なんとかもう少し使い勝手を高めて欲しいところだ。パドルシフトはコスト増につながるけれど、AT車にとってはそれが現状一番近道だと思う。もしくは街中を主体に走るモデルなら、やはりここに回生ブレーキがあると良いのかも知れない。

とはいえこうしたパワーユニットの特性を心得れば、ムーブのNAモデルは気持ち良く、そして平和に走ってくれる。何度も言うがその決め手は、DNGAボディの剛性だ。高級車のようなとまではいわないが、とても品質の良い軽自動車になったと言える。









