臨場感あふれるサウンドとレスポンスで、ドライバーの気持ちを盛り上げる
新型プレリュードはホンダ独自のハイブリッドシステムであるe:HEVを進化させているのが特徴だ。サイクルスポーツセンター(静岡県伊豆市)の5kmサーキットで行なわれた先行試乗会でちょっとだけ触れることができたので、動力性能面での最大の特徴である「Honda S+ Shift(エスプラスシフト)」を中心に印象をお伝えしていこう。

センターコンソールの中央部にはP/R/N/Dのギヤセレクターがあり、その左側にドライブモードを切り換えるトグルスイッチが配置されている。ドライブモードは「SPORT」「GT」「COMFORT」の3種類。デフォルトはGTで、レスポンス、サウンド、燃費、トルクフィール、乗り心地、ハンドリングの6項目がバランスされた状態で仕立てられている。

COMFORTはGTに対してレスポンス、ハンドリング、サウンドを控え目にし、乗り心地とトルクフィールを引き上げた格好。「エンジン回転を抑え、トルクで走るイメージ」と開発担当者は話す。SPORTはハンドリングとレスポンス、サウンドが強調される。

ドライブモードのスイッチの前方に「S+」と記された丸いボタンがある。このボタンを押すと各ドライブモードがS+シフトに切り替わる。S+という単独のモードが用意されているわけではなく、SPORTのS+、GTのS+、COMFORTのS+が選択できる。SPORTのS+はレスポンスとサウンドが極限まで強調され、GTのS+はレスポンスとサウンドがやや引き上げられる。いっぽう、COMFORTのS+は乗り心地とトルクフィールが強調される。3種類のドライブモードそれぞれにS+シフトが選択できるので、合計で6つのモードが存在することになる。

短い周回数で「全部確認できるかなぁ」と弱音を吐いたところ、「SPORTとSPORTのS+だけでも試していただければ」との助け船を出していただいたので、そこだけに集中して走ることにした(他のモードもチラッと試したが)。
S+シフトを選択すると、視覚の面でも、機能の面でも変化がある。まずメーター。通常時、左側はパワーメーターとなっているが、S+シフトを選択するとタコメーター(エンジン回転計)に切り替わる。仮想のエンジン回転数ではなく、リアルなエンジン回転数を表示する。タコメーターの中央にはギヤ段を表示するが、こちらは仮想のギヤ段で8速である。また、タコメーターの右下にS+と表示される。
機能面では、左右のパドルが減速セレクターからシフトパドルに切り替わる。まず、ドライブモードをSPORTにしてS+ボタンを押し、パドルは使わずにクルマ任せで走ってみる。走行中にS+ボタンを押すと、押した途端にエンジンサウンドが一段と高まるのがはっきりわかる。アクティブサウンドコントロール(ASC)の効果だ。素のエンジン音に対し、そのエンジン(2.0L直列4気筒自然吸気)が持つ爽快さを感じさせる成分を上乗せした格好で、気分がより高揚する。

通常のSPORTモードに対しS+シフトにすると、制動時のダウンシフトが早めに行なわれ、エンジン回転を高く保つ。念のためにお伝えしていくと、走行用と発電用のふたつのモーターを持つe:HEVは基本的にモーターで走り、エンジンは発電に徹する。エンジン直結で走ったほうが効率のいい状況でのみクラッチをつないでエンジンで走る。シビックでの経験上、車速を上げていくと70km/h程度の定常走行時にエンジン直結モードに切り替わるイメージだ。タイトなコーナーを縫うように走るシチュエーションでは、シリーズハイブリッドとして機能する。では、なぜ減速時にエンジン回転を高めておくのか。

次の加速のときに、瞬時に駆動力を発生させるためである。エンジン回転を高めておき、発電出力を高めておくのだ。そんなことをしたら燃費が…と考えるのは野暮というもので、走りを楽しんだぶん、相応の燃費の悪化は覚悟しなければならないだろう。ただし、e:HEVのエンジンはいわゆる燃費の目玉、すなわち燃費率の良好なゾーンが広いで、エンジン回転の高い領域を使い続けても通常時との落差はそれほど大きくないものと想像する。このあたりは長い時間つき合った際に確認したい。

ちなみに、プレリュードのWLTCモード燃費は23.6km/Lだ。GTモードでの計測値だという。シビックe:HEVのWLTCモード燃費は24.2km/Lである。1.5L直4ターボエンジンを積むシビックのWLTCモード燃費は15.7km/L(CVT)、15.3km/L(6速MT)。2.0L直4ターボエンジンを積むシビック タイプRのWLTCモード燃費は12.5km/Lである。
SPORTモードのS+シフトでパドルを使って走ると、キレのあるエンジンの回転変化と圧倒的な変速レスポンスが楽しめる。パドル操作にともなってエンジン回転は変化するのだが、回転変化とシンクロさせてモーターを制御することで、変速ショック(Gの変動)を作り込んでいる。実際にはモーターで駆動しているのだが、純エンジン車を操っている感覚だ。パドルの応答性はNSXを上回るという。

アクセルペダルとエンジンが直結したような鋭いレスポンスはモーター駆動車だからこそ、だ。現在のクルマはほとんどが、アクセルペダルの動きを電気信号に置き換えてスロットルの開閉を行なうドライブバイワイヤ(DBW)を適用しているが、開発担当者はDBWが普及する以前に長らく主流だったアクセルペダルとスロットルが機械的につながった「メカスロ」をイメージして制御を作り込んだという。
SPORTモード×S+シフト選択時は、それこそレーシングエンジン並みの鋭いレスポンスで、ラグ(応答遅れ)がない。ミリ単位のわずかな踏み増し側の動きと戻し側の動きが、瞬時に車速の変化となって返ってくる。モーター駆動なのでエンジンのような荒々しさはないが、トルクのレスポンスは秀逸で、左右のパドルを駆使したドライブ、病みつきになること間違いなしだ。
仮想ギヤ段は8速選択時に100km/hで2250rpmになる設定だという。いまどきのクルマは8速で1500rpm程度であることを考えると、だいぶクロースレシオの設定。ダウシフトに関しては、レブリミットの6000rpmに当たることが想定されるようなケースでも、ある程度は受け付ける設定。いっぽう登坂路での全開加速時は、エンジン車なら上の段に上がった直後に回転が落ちて息つきしてしまうところ、駆動力を確保する変速線に載せることで、息つきせずに加速する制御としている。リアルなギヤを持たず、制御で作り込めるメリットを活かした格好だ。

朗報なのはこのS+シフト、プレリュードを皮切りに今後日本で投入予定の次世代e:HEV搭載車全機種に順次適用していくとのこと。ならばわざわざプレリュードでなくても…と考えそうになるが、プレリュードだから存分に楽しめるとも言える。
まず、乗り込んだときに目に入る景色がいい。水平基調のインパネはシビックやアコードなどとも共通するが、インパネ下部からセンターコンソールにかけてに(樹脂ではなく)表皮素材を採用しており、より上質なムードが漂う。フロントウインドウ越しに左右フェンダーの峰が見え、車両感覚がつかみやすいのもいい。

ハイバックのシートは運転席と助手席で同一イメージに見えるが、運転席と助手席で作りをわけている。運転席のパッドは助手席よりも硬くし、サイドサポートの土手部分にはワイヤーを入れてサポート性を高めている。いっぽう、助手席はクッション部の高さを運転席より低くし、乗降性を高めている。見た目はスマートな印象だが、サポート性は上々。シビックと乗り比べを行なったが、プレリュードのシートはサイドのサポートでしっかりと脇を支えてくれる。


シビックに乗った際も高いボディ剛性と、ワイドなタイヤを履いているにもかかわらず脚がよく動き、不快な振動やショックを伝えないしなやかな乗り味に感動したものだが、プレリュードはしなやかさを受け継ぎつつ、キビキビと動き、しっかり感が増している。技術的には、究極のピュアスポーツ性能を追求したシビック タイプRのシャシーコンポーネントを多く受け継いでいるのが特徴。フロントはデュアルアクシス・ストラットサスペンションである。このサスペンションは転舵した際に旋回外側のタイヤ接地面積を充分に確保するジオメトリーとなっており、グイグイ曲がる方向の仕立てだ。
減衰力可変制御のショックアブソーバーを採用するのもタイプRと同じ。ばね、ブッシュ、スタビライザーはコンフォート寄りに諸元を設定した。ストロークしやすい方向に仕立てたため、バンプストッパー(ウレタン製)の諸元も変えたという。ロール剛性はタイプRとシビックの中間程度の位置付けだという。
EPS各部を高剛性化したステアリングシステムを搭載するのも、タイプRと同じ。VGR(可変ステアリングギヤレシオ)はタイプRよりも少しだけクイックな設定とした。コーナリングパワー(CP)の高いタイプRのタイヤ(265/30R19、ミシュラン・パイロットスポーツ4S)に対し、プレリュードは相対的にCPの低いタイヤ(245/40R19、コンチネンタル・プレミアムコンタクト6)を履くため、VGSをややクイックにしてヨー応答を補っている。

アジャイルハンドリングアシスト(AHA)は旋回内側の車輪に軽くブレーキをかけることで旋回立ち上がり時のライントレース性を高める技術である。これまではブレーキングをともなう減速領域では機能させていなかったが、プレリュードでは減速領域まで作動領域を拡大させた。電動サーボブレーキシステムを適用しているe:HEVはペダルとブレーキユニットは機械的につながっていないので、制動時に制御が介入してもペダルにダダダダという液圧の変動は伝わらない。
ところが純ガソリン車はペダルからブレーキユニットまでが機械的につながったコンベンショナルなブレーキシステムを適用しているので、液圧の変動がペダルに伝わってしまう。同一機種での整合性をとるためにシビックでは減速領域の作動を見送ったそう。プレリュードはe:HEVのみの設定なので、心置きなく(?)適用したというわけだ。AHAの介入タイミングが早くなっているので、旋回時の回頭性・挙動安定性はより高まっているはずである。
シビック・タイプRのシャシーコンポーネントを多く受け継いでいるとはいえ、プレリュードは究極のピュアスポーツを追求したクルマではなく、あくまでスペシャリティスポーツ。ストイックにタイムを詰める走りではなく、高いポテンシャルをマージンとしてとっておき、心にゆとりを持って臨む走りが似合いそうだ。



