TRWPとは

自動車の走行時にタイヤと路面の摩擦によって発生する微細な粉じんで、主にタイヤのトレッド部材と道路舗装材からなる混合物。タイヤは自動車部品で唯一路面と直接接触し、車両と乗員の荷重を支えながら、「走る(発進する)」「曲がる」「止まる」といった、安全な走行を支える基本的な機能を担っている。これらの機能を成立させるには、タイヤと路面の間に適切な摩擦が生じていることが不可欠となる。ただし、自動車の走行に伴いTRWPが①発生、環境中に②拡散、さらに③蓄積することで、環境にさまざまな影響を及ぼす可能性が指摘されている。

TRWPの発生・拡散・蓄積を示す(イメージ図)

TRWPに対するアプローチ

住友ゴムは、TRWPの発生から環境中での挙動までを包括的に捉え、外部の研究機関や企業と連携しながら、①発生、②拡散、③蓄積の各段階に焦点を当てた研究を進めている。

① 発生:TRWPの形成メカニズムの解明
総合的な道路インフラソリューション企業であるニチレキグループ株式会社と協力し、TRWPの発生メカニズムに関する調査を進めている。2025年3月に開催された「Tire Technology Expo 2025」※1および8月に開催された「第30回舗装工学講演会」※2にて調査手法や構造など、形成メカニズムの解明に重要な情報を得たことを発表。引き続きメカニズムの解明に取り組み、タイヤと路面の両面からアプローチすることで、TRWPの発生を抑制する技術の開発を目指す。

② 拡散:TRWPの特性解明と拡散抑制の研究
空気力学の専門家であるドイツ・オストファリア応用科学大学のFalk Klinge教授と共同で、走行中のタイヤ周辺に生じる空気の流れを利用したTRWP回収装置の開発に取り組んでいる。また、タイヤのゴム配合や走行条件と、回収されたTRWPの特性との関係を解析することで、拡散の低減につながる知見の確立を進めている。

2025年6月に開催された「EuroBrake 2025」※3にて、Klinge教授との共同研究において、風洞実験によるタイヤ周辺の空気の流れ(エアロダイナミクス)の可視化に成功したことを発表。さらに、プロトタイプでの実験により、回収装置のコンセプトが実証された。回収装置は二重構造になっており、外から風を送り込むことでタイヤと路面近くの風の流れを変える。その力を利用し、高効率にTRWPを装置内に回収。同様の回収装置は前例がなく、本研究における大きな成果と位置付けている。

回収装置の有無で変化するタイヤ周辺の風の流れ(イメージ図)

③ 蓄積:環境中のTRWPとマイクロプラスチックの定量分析
TRWPはマイクロプラスチックの一種として分類されることがある。しかし、その物理的・化学的性質や環境中での挙動には大きな違いがあると考えられている。住友ゴムは、京都大学大学院の田中周平准教授と共同で、TRWPとマイクロプラスチックを区別して定量分析する手法を開発し、環境中におけるTRWPおよびマイクロプラスチックの存在量の把握を進めている。また、TRWPの拡散や蓄積の予防・抑制に向けた基礎的な知見の確立にも取り組んでいる。

【注釈】

  1. 2001年より欧州で開催されている、タイヤ製造等に関する技術発表および展示会。タイヤメーカーのほか、素材メーカーや公的研究機関などが参加し、研究成果の発表が行われる。
  2. 土木学会が開催する研究発表会。大学、官公庁、道路建設会社、舗装材料メーカーなどが参加し、舗装工学に関する学術成果の発表や討議が行われる。
  3. 欧州を中心に開催されている、ブレーキ技術に関する国際会議・展示会。自動車メーカーやブレーキ部品メーカー、研究機関などが参加し、技術発表や情報交換が行われる。