小池百合子都知事が「世界に誇る、水素社会・東京」の実現を宣言

「東京は、水素でおもしろくなる」。そんなユニークなキャッチフレーズとともに、東京都が9月3日に発足させたのが「TOKYO H2」プロジェクトだ。トヨタ自動車をはじめとする官民のパートナーと連携し、水素エネルギーの社会実装を加速させるのが目的で、エネルギーの安定供給確保と脱炭素化を目標とし、「水素で世界をリードする東京」の実現を目指している。

今回のプロジェクトの始動に併せて、東京都庁ではプロジェクト発表会が開催された。会の冒頭で挨拶した小池百合子東京都知事は「脱炭素の鍵を握るのが水素」と述べた後、「この取組を皮切りに、都民の皆様に水素のある社会を身近に感じていただきながら、『世界に誇る、水素社会・東京』、持続可能な都市の実現を目指してまいります」と、プロジェクトの抱負を語った。

小池百合子 東京都知事

プロジェクトの柱のひとつが、水素を燃料に用いた商用車の普及である。走行距離が長い商用車で水素を活用することは、運輸部門の脱炭素化と水素利用の拡大のために非常に重要となる。東京都では2030年度に約5000台の燃料電池商用車の普及を目指しているが、そのうち、約600台を占めることとなるのが燃料電池タクシーだ。

トヨタはそれをサポートする形で、2025年度内にクラウン(FCEV)をタクシー仕様として200台導入する。これは、日本で初めての燃料電池タクシーの大量導入であり、現在の水素モビリティの保有台数が8000台であることを考えると、その規模の大きさがわかる。

タクシー仕様のトヨタ・クラウン FCEV

トヨタはカーボンニュートラルの実現に向けて、ユーザーのニーズに応じて多様な電動車両を取り揃える「マルチパスウェイ」戦略を遂行している。その中でも重要な役割を担うと考えられているのが、究極のクリーンエネルギーと言われる水素だ。

水素を燃料とするFCEV(燃料電池車)は、FCスタックに水素と酸素を送り込み、化学反応によって生じる電気を用いて走行する。走行中にCO2を排出しないのはBEV(電気自動車)も同じだが、FCEVは航続距離の長さや充填時間の短さで優位に立つ。

クラウン FCEVのカットモデル

とはいえ、FCEVはなかなか販売台数が伸びていないのが現状だ。高額な車両価格や水素ステーションの不足など、さまざまな課題が存在する中で、水素バリューチェーン推進協議会で会長を務めるトヨタの佐藤恒治社長は「水素を普及させていくにはふたつの壁があると思います。ひとつは認知の壁、もうひとつはエネルギーのコストが需要に見合うレベルになるかどうか。認知の壁については、燃料電池タクシーが都内を走ることによって、これが水素だという気付きが日々得られます」と語った。

佐藤恒治 水素バリューチェーン推進協議会 会長/トヨタ自動車 社長

ちなみに認知という点では、「TOKYO H2」プロジェクトではロゴやデザインで統一されたコミュニケーションを展開し、水素の普及を街中で“見える化”。水素に対する人々の理解と関心を高めていく取り組みを実施する。ロゴの「H」にはHydrogen / Human / Hope / Harmony / Heroといった複数の意味をもたせつつ、様々なモノとつながり(2=to)未来に向かって進んでいくイメージを表現しているそうだ。

「TOKYO H2」ロゴ

また、佐藤社長は「水素を普及させていくカギは、産業を超えた連携を通じて、『つくる』ところから『使う』ところまで、一体となって、水素のバリューチェーンを構築していくことであると思います」と説明。東京都や水素エネルギーを扱う企業や組織といった仲間とともに、“水素で社会をリードする東京”の実現に向けて取り組んでいくことを表明した。

「タクシー業界は、本日から新たな進化への第一歩として、水素タクシーの導入を始めることとなりました。環境対策の推進と公共交通を担う使命を果たし、カーボンニュートラルを次世代へ継承していくことは、私たちの誇りであり責務でもあります」と、プロジェクト参画に関する決意を述べたのは、日本交通の取締役でもある東京ハイヤー・タクシー協会の川鍋一朗会長だ。

川鍋一朗 東京ハイヤー・タクシー協会 会長/日本交通 取締役)

「みなさんには、まず燃料電池タクシーに乗っていただきたい。来年ぐらいから、タクシーアプリでも呼べるようになります。このクルマ(クラウンFCEV)は、めちゃくちゃいい高級車両なんです。本来ならば、タクシーと言うより、ハイヤーのレベル。ですから、非常にお値打ち感があるのではないかと思います」と語り、燃料電池タクシーの幅広い利用を呼びかけた。

確かに、クラウンFCEVは静粛性も高くて乗り心地も良く、後席でゆったりとくつろぐには最高のクルマだ。そんなプレミアムな燃料電池タクシーで移動することが水素の積極的な活用につながるのならば、これぞ一石二鳥というほかない。

また、今回はプロジェクトの発表会に合わせて、東京都庁前の都民広場で「水素エネルギー体験イベント」が開催された。その中では、水素燃料を利用して調理した料理の試食などユニークな取り組みを多数体験することができた。

「へぇ〜」と驚かされたのは、UCCが行っていた「水素焙煎コーヒー」だ。一般的にコーヒーを焙煎する際は、火力の強い天然ガスを用いる。それを水素に置き換えると、大型焙煎機でのCO2発生量を年間570t削減できるという。そうした環境面だけでなく、「味わい」についても水素焙煎にはメリットがある。水素は高温から低温までの温度調整幅が広いため、これまでにない多彩な味覚を生み出すことができるというのだ。

アイスコーヒーを試飲させていただいたのだが、確かに、口の中にはすっきりとしつつ、芳醇な香りが広がった。ちなみにUCCはトヨタモビリティ東京と協働しており、レクサスの一部ディーラーでは、すでに水素焙煎コーヒーが提供されている。その味が気になる方は、一度足を運んでみるといいかも!?

ブースでコーヒーを入れてくれたのは、ハンドドリップの競技会でチャンピオンになった経歴をもつ土井克朗さん。ごちそうさまでした!

水素が環境にいいことはわかるけど、どうすればいいのかわからない。そんな人も少なくないだろう。しかし、燃料電池タクシーの利用をはじめ、身近なところからも脱炭素に貢献できることがある。「TOKYO H2」プロジェクトは、そんなことに改めて気づかせてくれる取り組みでもあるのだ。