シーズンを戦いながらまったく新しいバイクをつくる
2024年9月、ヤマハ・モーター・レーシングのマネージング・ディレクター、リン・ジャービスさんがV4エンジンを開発中であると認めた。以降、ヤマハがV4エンジンをテストしていることが度々ニュースになっている。
ヤマハは、現在のMotoGPにおいて並列4気筒エンジンで戦っている唯一のメーカーだ。他の4メーカー、ドゥカティ、アプリリア、KTM、ホンダのバイクにはV4エンジンが搭載されている。そんなヤマハは、2022年シーズン以降、ヨーロッパメーカーの後塵を拝している状況だ。
2002年に始まった4ストロークエンジンのMotoGPの時代から並列4気筒エンジンを貫いてきたヤマハが、V4エンジンへ転換するのか。オーストリアGPの木曜日、ヤマハ発動機モーターサイクル車両開発本部MS統括部MS開発部長の鷲見崇宏さんにV4エンジンの開発状況について話を聞いた。
「将来に備えた、完全に新しい挑戦です。一大決心をもって取り組んでいます」
「シーズンを戦いながらまったく違うバイクを開発するというのは、現在のMotoGPを見渡しても、過去を振り返ってもなかなかない、かなり大きな挑戦だと思っています。そんな中で今までのやり方は通用しないものですから、いろいろとやり方を変えて、この並行開発をなんとか進めている状態です。もちろん、技術的には明確な分析と確信を持って取り組んでいますけれどね」
V4エンジンを開発するということは、シャシーもその周りの部品も空力デバイスも、すべてが変わる。つまり、まったく新しいバイクを開発していることになる。しかも、現行の並列4気筒エンジンのYZR-M1の改善、進化を同時に行っているのだ。
「予想がつかない。我々にとっては初めてなものですから、それが本当に機能させられるのかは、まだ手探りの状況です」
「もちろん、テストは順調に進んではいます。ただ、『来年にただV4が走ればいい』というわけではありません。勝つための新しい道具として開発をしているので、少なくとも今の(並列4気筒エンジンの)マシンに対して、『優位性が確認できること』が最初の目的になります」
「まだたくさんやることが残っています。今その時点では確信が持てるところにはありませんが、来季に向けて、開発の佳境を迎えている状況になります」
最終的な決断を下すタイムリミットについては「早ければ早いほうがいいですし、マシンパッケージとしての性能の優位性が確認できればいいのですが、まだそこまでは至っていないので、いつ、ということは明言できません」ということだった。
このインタビュー後の8月25日、ヤマハ・モーター・レーシングのマネージング・ディレクター、パオロ・パヴェジオさんがSNS上で、サンマリノGPでV4エンジンを実戦投入すると明かした。
これが、ヤマハのV4エンジンのバイクが公に姿を現す最初となる。そのパフォーマンスに注目だ。
プロフィール
ヤマハ発動機モーターサイクル車両開発本部MS統括部MS開発部長
ヤマハ・モーター・レーシング社長
鷲見崇宏(すみ たかひろ)さん

