テストライダーとしてのドヴィツィオーゾの強み

2025年6月20日、ヤマハはアンドレア・ドヴィツィオーゾとヤマハ・ファクトリー・レーシングのテストライダーおよびライダー・パフォーマンス・アドバイザーとして契約した、と発表した。苦戦の時期から光を見出しつつあるヤマハが、また一人、新しい人材を迎えたのである。

ドヴィツィオーゾは2008年から2022年にかけて最高峰クラスを戦ったイタリア人ライダーである。ホンダ、ヤマハ、ドゥカティに所属し、最後のシーズンとなった2022年は、当時のヤマハのサテライトチームだったWithU・ヤマハ・RNF・MotoGPチームのライダーとして戦った。チャンピオンには届かなかったが、2017年から2019年にかけて3シーズン連続でマルク・マルケス(当時ホンダ)に次ぐランキング2位を獲得した。現役時代から、分析的なライダーとして知られている。

そんなドヴィツィオーゾのテストライダー起用について、オーストリアGPでヤマハ発動機モーターサイクル車両開発本部MS統括部MS開発部長、ヤマハ・モーター・レーシング社長の鷲見崇宏さんにお話を伺った。

「彼は我々のバイクでレースをしてきてヤマハのバイクの弱みをよく知っているので、彼のコメントは非常に参考になります」

ドヴィツィオーゾは現在のヤマハYZR-M1について、特にリアグリップの課題を指摘しているという。リアのグリップ不足については、開発陣が挙げ続けているM1の課題である。

「2022年に彼は我々のチームで走っていたので、リアグリップの課題は非常に早い段階で明確に指摘をしていました。そういうところの感度は、現役時代から一貫して持っています。今はレースには出ませんが、当時の記憶と今の状況から、リファレンスを取りながら適切なアドバイスをくれているということですね」

「現役時代から一緒に仕事をしていましたけど、分析的なライダーですね」と、鷲見さんはドヴィツィオーゾを評価する。

「環境や気持ち、タイヤや気温、コンディションはその時々で異なります。ライダーはそうした中で思ったことを我々に伝えてくれます。アンドレアに関しては、そこに対して比較的、落ち着いて事実を伝えてくれる、という感じですかね。エンジニアにとって、理解しやすい言葉です。当然ライダーでもあるので、ライダーとエンジニアをうまくつなぐ役割も担っています」

「ライダーにも様々なタイプがいます。我々としては、正しく伝えてくれたら十分ですが、(ドヴィツィオーゾの場合は、)加えて理解しやすい形でのフィードバックができる。それが、彼の強みだと思っています」

ドヴィツィオーゾという「新たな人材」を迎え、ヤマハの上昇が勢いを増すことを期待したい。

プロフィール

ヤマハ発動機モーターサイクル車両開発本部MS統括部MS開発部長
ヤマハ・モーター・レーシング社長

鷲見崇宏(すみ たかひろ)さん

量産モーターサイクルとYZR-M1の車体設計を主に担当。2019年からYZR-M1プロジェクトリーダーを担い、2022年、MS開発部 部長、(兼)ヤマハ・モーター・レーシング(イタリア)社長に就任。©Eri Ito