歩行領域モビリティ「e-SNEAKER」とは何か?

フロントタイヤは8インチの大軽タイプを採用、エアータイヤとサスペンション構造との組み合わせで快適な乗り心地を実現

ダイハツが送り出した歩行領域モビリティ「e-SNEAKER」は、歩くことの延長線上にある新しい移動手段だ。最高速度は6km/hに制限され、道路交通法上は歩行者扱い。免許が不要で、誰もが日常に取り入れられる仕様である。価格は41万8000円。軽自動車で培ったコンパクト設計のノウハウを活かしながら、都市や観光地の「ラストマイル」を支える存在を狙っている。

最高速度は6km/hに制限されている。インターフェイス内の速度切替スイッチで、速度を1~6km/hの6段階調整可能となっている。

外観はシニアカーの印象を払拭するスタイリッシュさで、低重心のフォルムが安定感を与える。シート高は身長に合わせて3段階に調整可能で、歩行者と目線を近づけることができるので、日常の延長として自然に座れる点も印象的だ。

身長や好みに応じてシートの高さを3段階(700mm/630mm/555mm)に変更可能。

満充電での航続可能距離は12kmとなっている。この数字は短いように感じるが、最高速度の6km/hで走行すると2時間は走ることができる。近所のスーパーに買い物や通院、友人とのお出かけなど、歩行圏内の移動をカバーするには十分なスペックといえるだろう。

連続走行距離は、満充電で12km。脱着式リチウムイオンバッテリーは、2.5kgと軽量で持ち運びがしやすい。

直感的な操作系、低重心の四輪レイアウトが生む安定感

実際にハンドルを握ると、操作は驚くほど直感的だった。誰もが馴染みのある自転車やバイクのようなハンドル型の操作インターファイスを採用していて、右手のスロットルをひねればスッと前に出る感覚があり、回生ブレーキが効くと同時に速度が落ちる。基本的には右手のスロットル操作のみで加減速を行う。初めは加速の鋭さに身構えたが、慣れてくると歩くスピードに合わせて自在に調整できる。

2輪車に近いハンドルとインターフェイス周辺に操作系を集中させ、シンプルな操作で運転が可能。

屋内試乗では体感として4km/h前後で流すことが多かったが(一般的な歩行速度は約4km/h、少し早歩きで約6km/hだそうだ)、人の歩調に寄り添う速度域だからこそ安心感がある。左手のブレーキレバーは緊急時のみ使用する。アクセル操作の感覚がバイクに近く、従来の介護用モビリティにはない楽しさがあるのも印象的だ。

坂道や旋回時に自動的に減速する速度抑制機能を搭載している。加えて、傾斜センサーが登坂、降坂、左右の傾斜を検知することで、急な坂道や斜面では、警告メッセージと警報音を発する急斜面検知機能を備える。
最大7.5cmの段差※3(助走ありの場合)や最大10cmの溝の乗り越えが可能。

段差越え性能も確認した。縁石や床の段差を助走付きでスムーズに乗り越える様子は頼もしい。最大7.5cmの段差対応力は日常生活に十分で、連続した段差ではやや衝撃が伝わるものの、前ブッシュ式と後独立式サスペンション、そしてエアタイヤがしっかりと衝撃をいなしてくれる。走行中の安定感は想像以上に高く、低重心設計と四輪レイアウトの恩恵を強く感じた。回転半径は1.43mと小さく、狭い通路でも切り返しが容易で、日常の買い物などシーンでも不満はなさそうだ。

回転半径は1.43mと小回りが効くため、ハンドル切れ角も大きい。

親しみやすいデザインが普及のカギ?

従来のシニアカーのイメージを変えるスタイリッシュで親しみのあるデザインを採用した。

試乗を終えて強く感じたのは、e-SNEAKERが「移動弱者のための道具」にとどまらないということだ。デザインは親しみやすく、若い世代も抵抗なく受け入れられる洗練さがある。みんなが乗ってみたいと思えるデザインであることが普及の鍵で、特別な乗り物という感覚が薄れることで、より多くの人が自然に使い始めるだろう。オプションの前カゴをあえて標準化しないのも“自分のスタイルで使う”という自由度を示している。大阪・関西万博でのレンタル利用でも幅広い年齢層が体験していると聞くが、まさに誰もが歩くように乗れる“ちょっと先の足”としての姿がそこにあると感じた。

歩行者や自転車とほぼ同じ目線の高さでスタイリッシュに乗ることができる。 画像:ダイハツ

さらに社会的な視点で見れば、e-SNEAKERは高齢化社会や都市交通の課題を解決する一助になり得る。高齢者の免許返納後の移動手段として安全性を担保しつつ、洗練されたデザインがシニアカーのような限定的なイメージを払拭することができるからだ。また、観光地でのレンタルや都市部でのシェア展開が進めば、歩行と自動車の隙間を埋める新しいモビリティ文化を築く可能性もある。歩道や公共空間での利用ルール作りなど課題は残るが、“歩行を拡張する技術”は日本の社会構造に大きな意味を持つはずだ。