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今日は何の日?■尿素SCRシステム搭載の欧州向けCX-7を初公開
2009(平成21)年9月15日、マツダはこの日から開催された第63回フランクフルトモーターショーで、クロスオーバー「CX-7」のマイナーチェンジモデルを出展。最大のトピックは、2.2L 直4「MZR-CD」エンジンに、国内メーカー初となる尿素水を用いたNOxを低減する尿素SCRシステムが採用されたことだ。

2000年代の加速するディーゼル排ガス規制
2000年を迎える頃には、欧州では燃費に優れるディーゼル車が50%近いシェアを占め、世界的にもディーゼル車が人気を集めるようになった。一方で、新型車について欧州は2009年10月からEuro5規制、日本でも同じくポスト新長期規制、米国ではTire2-Bin5といった排ガス規制をクリアしなければならなかった。

厳しい排ガス規制に適合するためには、高圧のコモンレール噴射システムを使い、PM(粒子状物質)はDPF(ディーゼル・パティキュレートフィルター)で、NOxはNOx低減触媒(NOxトラップ触媒または尿素SCR)を使って低減するのが一般的だが、制御を含めて技術的なハードルは非常に高い。
欧州の乗用車は、尿素SCRシステムを採用していたが、日本では2004年に世界に先駆けて日産ディーゼル工業(現UDトラックス)がディーゼルエンジン車に搭載し実用化された。その後、トラック用ディーゼル車をはじめ、船舶や火力発電所などの排気ガス処理のために使用されている。
しかし、ディーゼル乗用車では当時採用された例はなく、ポスト新長期規制適合のために日産「エクストレイル」は2009年、三菱「パジェロ」は2010年にNOx吸蔵触媒を採用して市場に投入された。
ディーゼルエンジンのNOxを低減するNOx吸蔵触媒と尿素SCR
ディーゼルエンジンの燃焼はガソリンエンジンと異なり、希薄(リーン)燃焼なのでガソリンエンジンのように三元触媒が使えず、希薄燃焼下でNOxを下げるNOx低減触媒(NOx吸蔵触媒、あるいは尿素SCR)の採用が必要となる。

・NOx吸蔵触媒
NOx吸蔵触媒は、まず排出されたNOをNO₂に酸化して触媒の吸蔵材に吸蔵。十分に吸蔵した時点でリッチスパイク(定期的、かつ一時的にリッチ燃焼にする)を行ないHC、CO、H₂を供給する。これらが還元剤となり、吸蔵したNO₂をN₂に還元するという手法である。

・尿素SCR
尿素SCRシステムは、尿素水を高温の排気ガス中に噴射し加水分解によってアンモニアを生成し、アンモニアを還元剤として、NOxをN₂に還元する手法である。
NOx吸蔵触媒よりも浄化効率は高いが、システムが複雑でコストは高くなる。一方、NOx吸蔵触媒は還元剤として燃料を余分に供給するため、燃費悪化(CO₂の増加)を伴う。尿素SCRはアンモニアを還元剤とするため、燃費悪化しないというメリットがある。
2000年以降、メルセデス・ベンツやフォルクスワーゲン、アウディなど欧州車は積極的に尿素SCRを使っていたが、日本ではトラックなど大型商用車の一部で採用例はあったが、乗用車では使われていなかった。
マイナーチェンジで欧州向けCX-7に尿素SCRを採用

ポスト新長期規制対応として、日産と三菱がNOx吸蔵触媒を採用したのに対し、マツダはNOx低減触媒を使わず、SKYACIV-Dでポスト新長期規制に適合した。SKYACTIV-Dは、低圧縮比ディーゼルエンジンと独自の予混合燃焼を採用した燃焼制御技術でエンジンから胚珠されるNOxの低減に成功したのだ。

一方欧州のEURO5規制については、ポスト新長期よりより実用的な高速域のNOx低減が必要なことや尿素水の供給体制が整っていることなどから、尿素SCRの採用に踏み切ったと思われる。

マツダは、2009年3月に日本メーカーとして初めて乗用車用に小型化した尿素SCRシステムの開発に成功し、2009年後半から欧州市場で発売予定の「CX-7」ディーゼルエンジン車に搭載ずることを発表。そして、同年9月のこの日に開催されたフランクフルトモーターショーでCX-7を展示したのだ。

尿素SCRシステムを搭載するCX-7のマイナーチェンジモデルでは、マツダが新開発したクリーンで高効率な 2.2L 直4(MZR-CD)ターボディーゼルと組み合わせることによりEuro5規制に適合した。
ただし、マツダはあくまで国内についてはSKYACTIV-Dの技術にこだわり、国内モデルへの尿素SCRシステムは採用していない。
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現在、尿素SCRシステムを採用している乗用車は、2015年にデビューした「ランクルプラド」であり、以降トヨタはランクル系で採用中。また、三菱は2018年に「デリカD:5」のマイナーチェンジでNOx吸蔵触媒から尿素SCRに変更。採用例は以上の2例である。電動化が進む中で、排ガス規制適合のためにコストが高くなるディーゼルエンジンの人気は低迷、多くのメーカーがディーゼル車から撤退しているのが実状だ。
毎日が何かの記念日。今日がなにかの記念日になるかもしれない。

