新しいほうが断然いい! フルモデルチェンジと見紛うデザイン変更

2025年6月12日から全国のルノー正規販売店で販売が開始された「新型ルノー・キャプチャー」は、実質的にキャプチャー2のマイナーチェンジ版だ。フルモデルチェンジ?と感じて不思議でないのは、フロントマスクが激変しているからだ。シトロエンとプジョーでキャリアを重ねたフランス人デザイナー、ジル・ヴィダル氏がルノーのデザインダイレクターに就任したのは2020年7月のこと。そのヴィダル氏がマイナーチェンジ版キャプチャーのデザインを手がけた。

リヤランプのグラフィックにルノー各車の特徴であるCの字は残っているが、フロントからは消え、ヘッドライトは切れ長になり、バンパーサイドに特徴的なグラフィックのデイタイムランニングライト(DRL)が配されている。DRLはルノーのブランドロゴであるロザンジュがモチーフだそう。ポリカーボネート製のフロントグリルには、中央のロザンジュが水面に落ちた際の波紋のように模様が広がっている。


マイナーチェンジでよくある「前のほうが良かった」の感想は、新型キャプチャーを目にしても浮かんでこなかった。新しいほうが断然いい。モダンで先進的だ。デザイナー本人はとくに意識していないようだが、フレンチタッチ(フランス車らしさ)を感じる。














インテリアは7インチタッチディスプレイが、縦型の10.4インチに大型化されたのが目を引く。従来もApple CarPlayとAndroid Autoに対応していたが、新型は従来のUSB接続に加え、ワイヤレス接続にも対応するようになった。リヤ席は従来どおり160mmのスライドが可能。BセグメントのコンパクトSUVだが居住性は充分に確保されており、身長184cmの筆者が運転席でドラポジをとった状態でリヤに移動しても、ひざ前に空間が残る。ヘッドスペースも充分だ。
パワートレーンは2種類。1.6L直列4気筒自然吸気エンジンに走行用と発電用のモーターを組み合わせるフルハイブリッドE-TECHと、1.3L直列4気筒ターボエンジンと7速DCTのパワートレーンに12V駆動のBSG(ベルト・スターター・ジェネレーター)を組み合わせたマイルドハイブリッド仕様(MHEV)である。従来の純ガソリン仕様(1.3Lターボ+7DCT)は廃止され、MHEVに置き換わった格好だ。

ルノー・キャプチャー esprit Alpine FULL HYBRID E-TECH
エンジン
形式:直列4気筒DOHC
型式:H4M型
排気量:1597cc
ボア×ストローク:78.0mm×83.6mm
最高出力:94ps(69kW)/5600pm
最大トルク:148Nm/3600rpm
燃料供給:PFI
燃料:プレミアム
燃料タンク:48L
メインモーター5DH型交流同期モーター
最高出力:36kW(49ps)
最大トルク:205Nm
サブモーター3DA型交流同期モーター
最高出力:15kW(20ps)
最大トルク:50Nm

ルノー・キャプチャー esprit Alpine マイルドハイブリッド
エンジン
形式:直列4気筒DOHCターボ
型式:H5H型
排気量:1333cc
ボア×ストローク:72.2mm×81.4mm
最高出力:158ps(116kW)/5500pm
最大トルク:270Nm/1800rpm
燃料供給:PFI
燃料:プレミアム
燃料タンク:48L
BSG::3AA型交流同期モーター
最高出力:3.6kW(5ps)
最大トルク:19.2Nm
フルハイブリッドE-TECHはエスプリ・アルピーヌのモノグレード。MHEVはエスプリ・アルピーヌとテクノの2グレード構成である。エスプリアルピーヌは2024年に発売されたアルカナのマイナーチェンジ版から導入された新グレードで、スポーティさと上質さを兼ね備えたスポーツラインの位置付けだ。
タイヤ&ホイールはキャプチャー初の19インチ(タイヤサイズは225/45R19)となり、フロントフェンダーに専用バッジがつき(意外と目立つ)、インテリアでは運転席が電動シートになってアルミペダルが付き、インパネがブルーの加飾になり、ダッシュボードの助手席側にフランス国旗の縫い込みがさりげなく施され、シートベルトにブルーの差し色が入る。ステアリングホイールの縫い目は赤白青のトリコロールだ。
フルハイブリッドE-TECHは制御が洗練された

フルハイブリッドE-TECH、MHEVの順に乗った(どちらもエスプリ・アルピーヌ)。フルハイブリッドE-TECHのシステム構成に変更はない。詳細は明らかにされていないが、制御の最適化は行なわれているようで、WLTCモード燃費は従来の22.8km/Lから23.3km/Lに向上している。先に試乗時の燃費をお伝えしておくと、377.1km走って21.6km/Lだった。相変わらず、気持ち良く走って燃費がいいクルマ、の印象だ。
走りが洗練された印象なのは、フルハイブリッドE-TECHの制御が洗練された影響が大きいように思う。簡潔に言えば、エンジンは4段、走行用モーターは2段の変速ギヤを持ち、変速にドッグクラッチを用いて、回転合わせは発電用モーターで行なう。従来はエンジン回転高め、かつ変速スピードを重視したスポーツモード選択時に、低中速コーナーが連続する区間で加減速を繰り返すようなシーンで、金属的なギヤの歯当たり音や前後Gの過度な変動が感じられることがあったが、新型では皆無だった。変速はシームレスに行なわれ、音やショックは一切発生させない。

あのメカっぽさも良かったんだけどなぁと思わなくもないが、商品としての完成度は間違いなく新型のほうが高い。システムは完全に黒子に徹しており、ドライバーの意思に忠実に力を出してくれる。とくに、ちょっと踏み増したときにモーターアシストで間髪入れずグッと背中を押し出してくれる頼もしさがいい。

ちなみに、今回のマイナーチェンジで車両接近通報装置の通報音が変更され、フランス人アーティストで作曲家、そして作家のジャン=ミシェル・ジャール氏が開発に携わったバージョンが追加されている。誰?と思うかもしれないが(筆者もそのひとり)、フランス人なら誰でも知っているアーティストだそうだ。なかなか幻想的なサウンドなのだが、幻想的な点では「表現豊か」や「ノーマル」のサウンドも共通している。そもそも通報音が切り換えられるって、なかなかフレンチタッチではないか。





MHEVは動きが軽快


MHEVは車重がフルハイブリッドE-TECHより90kg軽い(1330kg)こともあって、乗り換えた直後に「あ、軽い」と実感するくらい動きが軽快だ。オルタネーターがBSGに置き換わっただけではなく、専用のバッテリーを搭載するだけあり、走りの面では純エンジン車との変化が大きい。
センターのタッチディスプレイで設定を切り換えられるが、「クルージング」をオンにすると、アクセルペダルをオフにしたときにエンジンは停止し、クラッチを切って、コースティングに移行する。エンジンブレーキはかからず、ひたすら空走する。燃費のためだ。市街地を走行しているシチュエーションでも、高速道路を巡行している状況でもアクセルペダルを戻すとコースティングに移行する。
市街地で先行車に追従しながら走っているシーンでは、車速が落ちず(下り勾配ではむしろ車速が上がる)、車間が詰まってやむを得ずブレーキを踏むシーンが出てくる。燃費にどれだけの差が生じるのかはわからないが、エンジンブレーキが効いてくれたほうが車速のコントロールはしやすい。市街地走行ではクルージング機能はオフにしたほうがストレスは軽減されるだろう(そのぶん燃費は悪化するだろうが)。
いっぽう、高速道路でACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)を作動させて走行するシーンでは、車速のコントロールはシステムが自動で行なってくれるので、「クルージング」機能はオンでもストレスがない。いろいろ試しながら385.9km走り、燃費は17.8km/Lだった。WLTCモード燃費は17.4km/Lである。
スターターモーターではなくBSGでエンジン再始動を行なうので、再始動自体はスムースだ。ただし、オートブレーキホールド(をオンにした場合)は駆動力が出てから唐突に解除するため、ロケットスタート気味の急発進になりがち。これを回避するにはアクセルをそっと踏んで解除し、クリープに移行したのを確認してからアクセルを踏み込む繊細な(面倒な)操作を強いられる。この点、要改善ポイントと感じた。



































Qレスキュー・ルノーとは?
マイナーチェンジ版キャプチャーで個人的に強く関心を引いたのは、Qレスキュー・ルノー(QRESCURE RENAULT)だった。新しいキャプチャーのフロントウインドウとリヤウインドウの左側下端にはQRコードが貼られている。本国では2022年から順次導入されているもので、これをスマホのカメラで読み込むとレスキューシートにアクセスすることが可能。高圧バッテリーがどこにあるのか、エアバックはどこにあり、強度の高いスチールはどこを通っているのか、事故の際に乗員をレスキューする際に役立つ技術情報がグラフィックで表示される(誰でも読み取れるので、お試しあれ)。

ルノーによると、このQRコードがあることにより、「人命にとって大事な時間が最大15分節約できる」という。役立つときが来ないことを祈るばかりだが、そこまで考えてくれているルノーには感謝しかない。

【海外技術情報】ルノーのハイブリッドシステム「E-TECHテクノロジー」開発秘話 前編|Motor-FanTECH[モーターファンテック]