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今日は何の日?■ダイムラー・クライスラー社の燃料電池システムを搭載したMFCV発表
2003(平成15)年9月17日、三菱自動車はミニバン「グランディス」に究極の環境対応車として注目される燃料電池システムを搭載した「MFCV」を発表した。燃料電池システムは、ダイムラー・クライスラー社とのアライアンスのメリットを活かして、ダイムラー・クライスラー社のFCEVシステムが流用された。

ダイムラー・クライスラー社から支援を受けることになった三菱自動車
三菱自動車は、2000年7月にダイムラー・クライスラー社と資本提携を締結した。これにより、ダイムラー・クライスラー社が三菱の株式の34%を出資して筆頭株主となり、また三菱は192億円の支援を受けることになったのだ。
1990年代中盤まで「パジェロ」に代表されるRVブームに上手く乗って絶好調だった三菱だったが、2000年代初頭の三菱はRVブームの衰退やリコール問題などで業績が急激に悪化。自社単独での再建が困難となり、経営再建のためには外部資本の導入と技術支援が急務だったことが背景にある。
小型車やSUVに強みがある三菱と、高級車や大型車に強みを持つダイムラー・クライスラー社が提携することで、世界市場で両社の存在感をより高めることができ、さらに両社の技術を融合することで車両開発の効率化やコスト削減、すなわちシナジー効果が期待できる。
さらに、ダイムラー・クライスラー社は三菱への支援を行なうことで自社のアジア戦略を強化でき、三菱にとっては資本投入によって開発リソースの確保や財務基盤の安定化が図れるのだ。
MFCVのベースとなったグランディス
MFCVのベースとなったのは、2003年5月に発売されたミニバン「グランディス」だが、もともとは1983年2月に誕生した「シャリオ」から数えると4代目に相当する。

シャリオは、3列シート7人乗りのミニバンで、広い室内空間を生かし、2列目と3列目を向かい合わせるシートバック反転機構、フルフラットシートなど多彩なシートアレンジが可能なミニバンの先駆的なモデルである。当初はFFレイアウトだったが、翌年には4WDの追加やエンジンを増強するなどして、マルチパーパスなクルマとしてヒットモデルとなった。
1991年5月には初めてのモデルチェンジで2代目に移行。1997年10月には、3代目「シャリオ・グランディス」にモデルチェンジ。フロントコーナーを大胆にカットしたスタイリングで、力強さと高級感を演出。3ナンバーサイズとなったゆとりある室内は、これまでの7人乗りに加え新たに6人乗りを設定し、上級ミニバンであることをアピールした。

そして2003年5月、4代目となったモデルはシャリオの名をはずして、「グランディス」の単独名となって発売された。チップアップ&ロングスライド可能なセカンドシートと、分割して収納可能なサードシートの組み合わせにより、多彩なシートアレンジが可能な上質のミニバンだった。
パワートレインは、新開発の最高出力165ps/最大トルク22.1kgmを発揮する2.4L 直4 SOHC MIVECエンジンと、INVECS-IIスポーツモード付4速AT、4WD車にはマルチセレクト4WDシステムを搭載し、優れた低燃費と動力性能が実現された。
ダイムラー・クライスラー社の燃料電池システムを搭載したMFCV完成
2000年初頭は、本格的なFCEVの開発が始まった時期で、ダイムラー・クライスラー社はダイムラー・クライスラー社設立前の1991年から、ダイムラーベンツとして燃料電池車の開発に取り組み、当時すでにメルセデス・ベンツ「Aクラス」ベースの「F-Cell」や燃料電池バスなどによる公道実験が行なわれていた。一方日本では、2002年にホンダ「FCX」とトヨタ「FCHV」が日米でリース販売を始め、実用化を目指していた。


グランディスをベースにした三菱MFCVの基本的なシステムは、ダイムラー・クライスラー社が開発したF-Cellと同じ。この分野で世界をリードするカナダのバラード社がつくった燃料電池と最高出力65kW/最大トルク210Nmのモーターを使用。350気圧の高圧水素タンクやニッケル水素の二次電池などを加え、車重はベース車より約400kg重い2000kgとなったが、最高速度140km/h、航続距離は150kmを記録した。
なおMFCVは、同年11月に国土交通省大臣認定を取得し、公道試験が可能となった。
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三菱とダイムラー・クライスラー社との提携は、2005年にダイムラー・クライスラー社が三菱の株式を売却して終了した。ダイムラー・クライスラー社が三菱の経営や戦略に強く介入して企業間に摩擦が生じ、期待されたシナジー効果が発揮できず、また三菱の再建もうまく進まなかったためで、ダイムラー・クライスラー社が三菱との提携から撤退する形で終了した。結果として、三菱のMFCVの開発もこれをもって終了することになったのだ。
毎日が何かの記念日。今日がなにかの記念日になるかもしれない。


