「目的地モビリティ」という新しい概念
UNI-ONEは従来のクルマやバイクの延長線ではなく、あくまで「目的地での移動」を前提に開発された。テーマパークや観光施設、商業施設の広い敷地を歩き回るには負担が大きいが、車やカートを導入するほどでもない。その間を埋める存在がUNI-ONEである。ホンダはASIMOの研究で培ったロボティクス技術を応用し、歩行者の流れに溶け込みながら自然に共存できることを目指した。
UNI-ONEの駆動方式は「Honda Omni Traction Drive System」だ。前後進用と左右移動用のタイヤを組み合わせ、全方位に移動できる。前進・後退・左右平行移動・その場旋回・斜め移動も自在だ。操作は体重移動に任せる。上体を前に傾ければ進み、戻せば止まる。最高速度は6km/hで、安全性を考慮して1.5、3、4.5km/hの速度設定が選べる。
ローポジション時のサイズは全長787×全幅662×全高710mm、重量は約80kg。搭乗者の最大体重は110kgで、背面には交換式リチウムイオンバッテリーを搭載する。型式認証は「移動用小型車」を取得しており、歩道での利用が可能だ。

みんなが「乗ってみたい!」と思えるデザインが大切

外観デザインは、従来の介護用品やシニア向け商品、医療機器的という印象を避け、公共空間に置いても威圧感がなく、むしろ「乗ってみたい」と思わせるスタイルに仕上げられている。存在感はあるが浮きすぎない。利用者が誇りを持って乗れるデザインであることが、UNI-ONEの普及に大きく寄与するだろう。
また、転倒リスクへの備えとして、車体が大きく傾くと自動で座面が下降し、補助輪が接地して安定を保つ。センサーはあえて最小限に抑え、人との接触を避けるのではなく、人と接触しても安全な設計となっている。過剰な自動制御で混雑時に挙動が不自然になることを避け、人とモビリティが共存する現実的な設計思想が貫かれている。


座って体重を少し傾けるだけ、直感的な操作方法
乗車はローポジションから始まり、腰を下ろすと座面がゆっくり上昇し、ハイポジションになる。この動きに不自然さはなく、周囲の歩行者と目線を合わせられるため孤立感がない。シートの座り心地も快適で、長時間の使用にも耐えそうだ。操作は直感的で、体重を少し傾けるだけで前後左右に滑らかに移動できる。最初は加減が難しいが数分で慣れ、歩く感覚に近い自然な挙動が得られる。加減速も唐突ではなく、特に低速域では安心感が高い。

UNI-ONEの真価は全方位移動にある。斜め移動や横移動がスムーズで、歩行者の列に沿って並進することも可能だ。人混みの中で歩行者と同じ速度で移動しても違和感は少なく、手が自由に使えるため荷物を持ったりスマートフォンを操作したりも容易である。静粛性も高く、商業施設や病院など静かな空間での利用に向くのではないだろうか。

商業施設やテーマパークなどで運用が開始される
UNI-ONEは法人向けのサービス契約で提供される。契約期間や台数に応じて月額費用が設定され、整備や保険も含まれる。短期レンタルも用意され、イベントでの利用は1日5万5000円から可能だ。初の導入事例として、大分県のサンリオキャラクターパーク「ハーモニーランド」で2025年10月から運用が始まる予定である。ホンダは今後5年間で1000台・売上40億円の目標を掲げている。
UNI-ONEは「歩くことと乗ることの中間」を埋める新しいモビリティである。手を使わずに移動でき、歩行者の流れに溶け込みながら自然に共存する。従来の車椅子や電動カートとは異なる次元で、人の移動の自由を広げる存在だ。公共施設や観光地、テーマパークなどでの導入が進めば、「歩くことをあきらめない選択肢」として社会に定着していくだろう。

