軽量化によるピーキーさを重量バランスで改善

焦点は追走を勝つための総合力の高さ

ロータリーエンジンでのドリフト挑戦は、ロータリーが不得意とする中低回転域でのトルクとの戦いだった。2004年にRE雨宮がFD3SでD1GP参戦を開始して以降、しばらくは2ローターターボで十分に勝負ができる時代が続いた。その理由は、中低回転域を排気量アップに近いフィーリングでカバーできるNOSの存在があったからだ。

2011年から2013年までは、RX-8に2ローターターボ×NOSという組み合わせで戦ったが、2014年からはD1GPのレギュレーション変更によりNOSの使用が禁止に。失われるトルクを補うため、RE雨宮は3ローター20Bターボの投入を決断し、新たに製作したFD3Sで末永正雄選手をドライバーに起用。2014年はシリーズ2位を獲得する。

一方で、その年にシリーズを制したのは3.4Lの2JZ-GTEエンジンを積んだ高橋邦明選手のマークXだった。翌年以降はタイヤメーカーによるグリップ競争が激化。競技ドリフトの世界では、マシンが横を向いたどんな瞬間でもアクセルを踏めばトラクションが掛かり、さらに踏み込めば自在にホイールスピンさせられるようなハイパワーが求められるようになった。

シリーズチャンピオンを獲得するには最低でも3.4L以上の2JZ-GTEが必要、というのがチーム間の共通認識となっていく。そうした中、2016年からは松井選手がドライバーに。3ローター20BターボのFD3Sは700ps&70kgm超を発揮し、2019年には2度のラウンド優勝を果たすも、シリーズランキングは惜しくも2位に留まった。

満を持してRE雨宮が4ローターターボFDを投入したのは翌2020年。約800ps&80kgmを発揮し、大排気量レシプロ勢に対抗できるポテンシャルを得たものの、同時に4ローター化によるネガも浮き彫りとなった。

それがパッケージングだ。4ローター化による重量増で、車重は1300kgを超えてしまったのである。ドライバー込みで1285kg以上ならレギュレーション上限のタイヤ幅が使えるため、理論上は約100kgの軽量化余地があるが、FD3Sの狭いボディに競技用ロールケージを組み込んだ後では大きな改善は難しかった。

さらに、3ローターでも限界に近かったクーリング環境は、4ローター化でレイアウトが厳しくなりトラブルが頻発したのだ。

2021年第9戦オートポリスで4ローター仕様のFD3Sは初優勝を果たし、シリーズ6位を記録。しかし、総合的な完成度では3ローター時代の方がバランスが良かったという。それでも他チームが進化を続ける中、3ローターへ戻す選択肢はなかった。なぜなら、バランスが良くなり単走予選通過は増えても、リザルトにつながる追走での勝ち目が薄くなるからだ。そこでチームはボディを新規製作するという進化を選択する。

それが今回取材した、2023年に新投入されたFD3Sである。レギュレーション範囲内で可能な限りの軽量化を施し、バラスト込みで1220kgを目安に設計。4ローターエンジンはドライサンプ化も行われた。

しかし限界性能が高まる一方で、もともとFD3Sが持つドリフト中のピーキーさが際立ち、扱いにくいマシンとなった。松井選手のテクニックと細かなセッティングで乗りこなせはしたものの、しばらく苦戦が続く。

当初の2年間は重量バランスの最適化に取り組み、最終的にリヤ寄りに振ることでピーキーさの改善を模索。今シーズンはさらに踏み込んだ大幅モディファイを実施。リヤウイング撤去、ショック仕様変更、エンジン搭載位置の上方シフトによる重心アップ、リヤタイヤの大径化(18インチ→19インチ)などが行われた。

また、冷却効率を高めるためリヤゲートには大型ダクトを追加。昨年までのGTウイング装着をやめ、前後バランス改善を優先してウイングレス仕様とした。

ラジエターとオイルクーラーが配置されたトランクに向けて、リヤゲートにはダクトを大幅に追加した。

軽量化によって生まれたピーキーさを減らすべく、現在はなるべくリヤに重量バランスを配置する方針。4ローターは油圧管理が難しく、フロントにエンジンに向けた1コア1系統、リヤにはドライサンプのオイルタンクから回す2コア1系統の合計3コアの冷却システムを組む。

ペリフェラルポート仕様の4ローターにGCG-G42タービンを組み合わせ、ブースト1.0キロで常用830ps、ハイブーストで950psを発揮。トルクも常用域で80kgmを超える。しかし特性は高回転寄りで、低中回転から厚みのあるトルクを出せる2JZ-GTEなどと比べると不利になる。タービンを小型化したりポート形状を変えれば低回転域は改善できるが、高回転での伸びが犠牲になるため現状が最適解だという。

吸気温対策もシビアで、ARC製GT-R用コアを2基組み合わせた大型インタークーラーを採用。さらにフロントバンパーからタービンへ直接ラムエアを導入するインテークダクトを設置。内部には保護布を入れているものの、飛び石によるタービンブローのリスクと隣り合わせだ。サージタンクはボンネット下に収まる最大サイズをワンオフ製作している。

油圧の安定化に向けて導入されたドライサンプシステム。タンクはエンジンルーム助手席側に合計10Lを配置。待機時間の多いD1GPでは混合オイルによるカブりの心配があり、メタリングオイルポンプを使用している。

純正の足回りでは干渉による切れ角の限界が早く訪れるため、ワイズファブ製のアングルキットに換装。車高を上げる目的で一部を加工しており、リヤ荷重によるストローク量の増加でクルマの動きがマイルドになると同時に、姿勢変化が大きくなることでDOSSの評価点にも影響すると言う。

リヤは純正調整式トーロッドのみを装着し、アームは純正を使用した上でピロ化。社外製のロワアームも試したが、アームロックが頻発し、最終的には純正が最も良い動きをするとの結論に至った。デフはクイックチェンジを採用し、PPFレスでメンバーに直接取り付ける方式となっている。

また、フロントに19インチ・285幅タイヤを装着するには、リヤのインナーフェンダー加工が必須。フロント側も切れ角アップのため、ライトなどのパーツがスポイルされている。オレンジのダクトはクラッチまでつながっており、トランクからファンで導風した空気によって冷却を行う構造だ。

コクピットにはワンオフのカーボンダッシュボードを装着し、スパルタンな印象に。痩せ型の松井選手でもシートのアンコ抜きを施しているのは、FD3S特有の悩みである、天井の低さとロールケージ・ヘルメットの干渉を避けるためである。

松井選手によれば、これまで乗ってきたロータリーマシンの中でも、現在の仕様が最も優れたフィーリングを得られているという。RE雨宮がD1GPシリーズチャンピオンを狙う挑戦の象徴、その進化はまだ終わらない。

●取材協力:RE雨宮 千葉県富里市七栄439-10 TEL:0476-90-0007

「人生の全てを捧げD1GPへ挑み続ける!」シルビアで競技ドリフトを戦い続けるプライベーターの物語

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