日米通商問題―壊滅的打撃は回避、それでも重い15%の現実
片山正則会長(いすゞ会長)はまず、日米通商問題について言及した。米国が4月に自動車、5月に自動車部品への追加関税25%を発動した後、日本政府の粘り強い交渉によって7月に妥結。米国は9月16日から自動車および部品への関税率を15%とする新ルールを適用した。片山会長は「サプライチェーン全体に及ぶ壊滅的な打撃は緩和された」と評価しつつも、15%という負担は「自動車メーカーのみならず供給網全体に依然として大きい」との認識を示した。競合国と比べて「劣後しない水準」としながらも、産業側としては「総力で競争力を高めて跳ね返す」と述べ、政府に対しては「開かれた自由貿易に基づくビジネス環境へ向けた対話継続」を改めて求めた。

令和8年度税制改正要望―環境性能割の単純廃止とユーザー負担の簡素化へ
続いて示されたのは令和8年度税制改正要望である。自工会は、内需拡大と国内生産・雇用の維持強化を最優先課題とし、重点要望として「取得時に課される環境性能割の単純廃止」を掲げた。片山会長は、日本の自動車ユーザーにとって車体課税の負担が依然として重く「健全な需要の妨げ」となっていると強調。ガソリン税の暫定税率廃止に伴う代替財源の議論が進むなかで、車体課税の引き上げで穴埋めする発想には断固反対の立場を表明し、自動車重量税に残る暫定税率の扱いも含めた抜本見直しを求めた。
松永 明副会長(自工会専務理事)は、購入時に消費税・自動車税・環境性能割、保有時に重量税・自動車税が重なる「多重負担構造」を指摘し、需要喚起の観点からも環境性能割の廃止が不可欠だとした。佐藤恒治副会長は「重複課税の認識があり、税のシンプル化・負担軽減が求められる」と述べ、三部敏宏副会長は関税増の影響を踏まえ「内需拡大と車体課税の軽減・簡素化は喫緊の課題」と語った。鈴木俊宏副会長は「取りやすいところから取るのではなく、内需拡大につながる税制を」と訴え、制度設計の方向性を示した。

自動車産業が直面する「7つの課題」―解決に向けてさまざまな業界と議論
また、自工会がこの間注力してきた「7つの課題」についても進捗が示された。正副会長自らがリーダーとなり約2年間取り組んできたこの活動は、「7つの課題」という言葉が世の中に浸透し、自動車産業以外の多様な業界とも議論を交わす契機となった。片山会長は「設定自体が大成功」と総括し、経団連モビリティ委員会との連携を通じて産業界全体の活動へと広がった点を強調した。この秋には、経団連モビリティ委員会においてその進捗を説明する計画だ。

片山会長はそれと並行して、サプライチェーン全体で賃上げの好循環を生み出すために、労務費の価格転嫁や型取引といった従来の商習慣を見直す取り組みを加速させていると説明。自工会と日本自動車部品工業会(部工会)は連携し、400社を超える会員企業に適正取引の推進を求めるメッセージレターを送付した。「サプライチェーン全体の適正な取引は日本経済の好循環につながる」との認識のもと、自工会と部工会が賃上げを含む経済循環をさらにリードしていく決意が示された。
“いくっしょ、モビショー!”が映す未来とカルチャー、そして“現物”の熱
この日の会見で話題の中心となったのが、10月30日に開幕するジャパンモビリティショー2025(JMS2025)だ。「いくっしょ、モビショー!」をキャッチフレーズに掲げ、フューチャー、カルチャー、クリエーションの三本柱を中心に、未来の展示に加えて過去や現在の体験も充実させる方針を説明した。さらに片山会長と各副会長からは、それぞれが抱く思いとメッセージが語られた。

片山会長は「モビリティは単なる移動手段ではありません。人々の心を震わせ、暮らしの記憶や価値観さえも形作ってきました」と述べ、モビリティが持つ力の大きさを強調した。不確実な時代だからこそ、未来への希望を届けたいと語り、多岐にわたる産業との連携を通じて明るい未来を体感できるショーにしていく考えを示した。
三部敏宏副会長(ホンダ社長)は、JMS2025を「みんながワクワクし、一緒に考え、未来を作り上げていく場」であると位置づけ、来場者が一体となって未来を描けるイベントになるとの期待を込めた。ホンダは「夢を形に」をテーマに陸・海・空へ広がるモビリティ像を提示し、小型ビジネスジェット「HondaJet Elite II」の実物大インテリア・モックアップへの搭乗体験を用意するという。
鈴木俊宏副会長(スズキ社長)は、自動車業界が「100年に一度の大変革期」にある今だからこそ、スズキは既存の枠にとらわれない発想と「小さな車づくり」の精神で未来のモビリティに挑戦し、「わくわくのアンサーを進化させる」と力強く語った。さらに軽自動車委員会として、全国の軽トラ文化を発信する「軽トラ市 in ジャパンモビリティショー2025」を初開催することも明らかにし、軽自動車の魅力を広く伝えたいとした。


佐藤恒治副会長(トヨタ社長)は、前回のJMSで寄せられた「車そのものの魅力にもっと触れたい」という声を受け止め、今回は「モビリティそのものが持つ魅力をしっかり発信していく」と意気込みを語った。リアルな現物を通してクルマの本質と、それを愛する人々の熱い思いをカルチャーとして伝えたいと強調した。イヴァン・エスピノーサ副会長(日産社長)は、あらゆる世代の人々にワクワクする未来を感じてほしいとし、「きっとどこかのブースで皆様の描く未来が見えるはずです」と呼びかけた。


二輪分野を代表して設楽元文副会長(ヤマハ発動機社長)は、大きな変革期を迎える中で、JMSでは国内二輪4社合同で「二輪文化の原点であるレースシーン」に焦点を当てた展示を準備していると説明。若い世代にも訴求できるようなコンテンツを通じて、二輪の魅力を改めて示していく姿勢を打ち出した。ヤマハ発動機では人間研究に基づくプロトモデルの出展やボーカロイド「初音ミク」の起用による若年層へのアプローチを目論む。

事務局を代表して発言した松永副会長は、「JMSは単に各社が自社のクルマを展示する会ではありません。各社の垣根を越え、ワンチームとして日本の自動車産業が未来に向かう姿を示すものです」と語り、グリーントランスフォーメーション、デジタルトランスフォーメーション、知能化、そして多様なサービスへと広がるモビリティの可能性を示す場にしていくと強調した。その上で、「ワクワクする未来を、日本のものづくりが持つ底力によって実現していく」と結んだ。
最後に片山会長は、出席したメディアからJMSそのものの未来像について問われた際、「まだ正直言いまして答えを持っておりません」と率直に語りながらも、2023年の刷新で素晴らしいスタートを切れたことを評価。撒いた種が芽を出し、仲間が増え、将来的には「大輪を咲かせたい」という意欲を示し、OEMだけでなくスタートアップや様々なアプリケーションを巻き込むことで、より生活に密着したモビリティ社会の姿を提示できるイベントに育てていきたいと展望した。そして「現物を触っていく、この喜びを忘れてはいけない」と述べ、リアルな体験が持つ価値を改めて強調した。
■ジャパンモビリティショー2025 https://www.japan-mobility-show.com/