ボディ剛性の向上がすべての要素に好影響を与えている

スバル・ソルテラがフルチェンジ並みの大改良を実施! 顔がガラリと大変身、航続距離も最長746kmに

その中身はフルモデルチェンジ級に新しい。スバルの電気自動車(EV)「ソルテラ」の改良型を称するには、そんな言葉がピッタリだ。プラットフォームと電動系コンポーネントを刷新され、最大航続距離は746kmを実現。新しいフロントマスクも大いに魅力的だ。

プラットフォームもeアクスルも、内外装も一新した改良型のスバル・ソルテラに、ひと足早く試乗することができた。場所は群馬サイクルスポーツセンター。タイトなコーナーとアップダウンが複雑に組み合わさった難易度の高いコースである。路面は適度に荒れており、乗り心地を確認するのに最適。ところどころ、ガツンと大きな入力が入るスポットがある。

新型ソルテラはフロントマスクを一新。グリルレスとなり、6ポイント・シグネチャーランプが組み合わされる。
プラットフォームと電動系コンポーネントを刷新するなど、見た目以上に中身の変化が大きい。

そんなコースで、新旧ソルテラを乗り比べた。改良型で走った後で初期型に乗り換えたのだが、違いは歴然。改良型を良く感じてもらうために「初期型は意図的にくたびれた個体を用意した?」と勘ぐりたくなった。試乗後に確認したが、「そんなことはない。無作為に抽出した」との回答。ごもっともである。

筆者は群馬サイクルスポーツセンターを初めて走った。にもかかわらず(後から気づいてみれば)、改良型ソルテラで臨んだ際は何の不安もなく、気持ち良く走らせることができた。初期型を走らせた頃にはコースにある程度慣れているはずだったが、自分でもおっかなびっくり運転しているのがわかった。改良型は自信を持って切り込んでいけるのに対し、初期型は探り探り。この違いはどこから来るのだろう。

従来型ソルテラ。新型の後に乗ると、操舵の安定性や乗り心地など違いが歴然としていた。

「ボディ剛性が上がったことがすべて」と技術者。「プラットフォームの良さを極めていかないと、その後いくらチューニングしても、制御でなんとかしようとしてもうまくいきません。まず目指したのは、素の良さです」

改良型ソルテラはバッテリー容量を上げるためにプラットフォームを刷新した。ついでにというわけでもないだろうが、どうせ刷新するならと、ボディ剛性の向上に取り組んだ。具体例をいくつか挙げると、ラジエーターアッパーサポートとサイドメンバーのつなぎの部分の板厚を上げている。また、ステアリングギヤボックスは4点でフレームに締結するが、前側2点をフローティング構造からリジッドに変更した。さらに、サスペンションアーム取り付け部のブッシュの剛性を上げている。

群馬サイクルスポーツセンターを気持ち良く走ることができた新型ソルテラ。

入力を受け止める土台、さらには入力伝達経路の局部剛性を上げると、応答が良くなる。入力を受け止める部分で力が逃げるとそれが遅れにつながり、小さな遅れが積み重なって大きな遅れになる。運転が探り探りになるのは、リズムが合わないからだ。向きを変えてほしいタイミングで向きが変わらず、遅れを見込んで早めに操作しなければならない。早めに操作できない場合は思ったように曲がってくれずに慌てて切り足さなければならず、そういう経験があると次はマージンを持って臨むようになり、運転のリズムが乱れるし、気持ち良く運転できない。

誇張気味に表現すれば、そして比較の問題でもあるが、初期型ソルテラの走りは「遅れ」に支配されていた。動きが落ち着かずに常時揺れているような感覚も、集中したい気分の邪魔をした。もっとも、先に初期型に乗った人は「これで充分」との感想を漏らしたそうなので、筆者も初期型を先に乗っていれば同じ感想を漏らしたかもしれない。

右に左にとコーナーが連続するコースでも、新型では一体感のある走りが味わえる。

剛性を上げる(変形しにくくする)と、背反として乗り心地が悪化するのが一般的傾向だ。ところがソルテラの場合は、剛性を上げた改良型のほうが明らかに乗り心地はいい。ボディ剛性を上げたので、サスペンションが狙いどおりに動くようになったのが、乗り心地に良さに結びついていると考えられる。減衰タイプの接着材の適用範囲を増やした効果もあるのだろう。

サスペンション剛性を上げることで、タイヤのグリップ感が向上。乗り心地を向上させつつ、狙いどおりのラインをトレースできるようになった。
ロール/ピッチを抑制するサスペンション特性とし、重心と乗員位置が高いBEVでも快適な乗り心地を確保。

「こだわりの走りはもちろんですが、お客様全員に楽しんでいただきたいという思いがあり、とくに後席の乗り心地の改善に取り組みました」と技術者。「(22年に)ソルテラを出したことで、EVの特性が見えてきました。EVはバッテリーを床下に搭載するため重心は低くなります。いっぽうで、乗員の重心は変わりません。クルマの重心が低くなったぶん、乗員の重心と離れてしまい、頭が揺さぶられやすくなることがわかりました。それに対する手当として、初期からしっかり減衰を出すようアブソーバー(ダンパー)をチューニングし、フラットな乗り心地を実現しています」

大きなギャップを越える場面では、新型の足の動きが明らかにスムーズなのが実感できた。

ピッチング周波数の観点から、フロントのばね定数は上げ、リヤは下げたという。改良型ソルテラは確かに、フラット感が強い。やや高い車速で突起を乗り越えた際のガツンという入力は上手に丸め込まれており、その後の揺れの収束は早い。対して初期型はガツンとダイレクトに響くし、常に細かく揺れている印象がある。総じて、改良型のほうがより上質な乗り味だ。

後席乗員に対しては静粛性の面でも改善が行なわれている。改良型ではリヤのホイールハウス内に静粛性を高める材料を追加。リヤホイールハウスから車室内に侵入する音を抑えている。ドライバーだけでなく、後席乗員の快適性、さらには、前席乗員と後席乗員の会話がしやすくなるような手を打ったのも改良型ソルテラの特徴だ。

3つあるドライブモードの特性も変更。「ECO」「NORMAL」「POWER」のキャラクターをより明確にした。
パドルシフトで選択可能な回生強度も拡大。ドライバーの好みや状況に応じた走りをしやすくなった。

スバルのお家芸であるAWD(4WD)の制御にも手が入っている。「予見性」がキーワードだ。クルマの動きが予想しやすくなると、結果としてドライバーの意図どおりに動かしやすくなる。そこを狙った。

「例えば低μ路(滑りやすい路面)で旋回加速していくときに、従来のソルテラだと外にふくらんでいく。あるいは、外乱の影響を受けてふらつくまではいかないにしても、わずかにドライバーの狙いどおりにいかないところがありました」

従来型が車体情報を用いた制御だったのに対して、新型は運転手の操作情報を用いた制御に変更。より早いタイミングで制御できるようになり、コントロール性が格段に向上した。

その原因は、Gセンサーを使って車両の荷重状態を推定し、その推定に基づいて前後の駆動力配分を行なっていたためと考えられた。この制御では、ドライバーが挙動の変化を感じ取って修正操舵を入れると、そのタイミングで制御が入ることになる。それでは遅い。そこで改良型ではドライバーの操作に基づいた駆動力配分に変更した。具体的には、Gセンサーではなく、アクセルペダルの踏み込み量から前後のタイヤに掛かる荷重を予測する方法に変更。さらに、ステアリング操舵角から車両に掛かる横Gを推定する制御を加えた。

これにより制御の介入が早くなるため、ドライバーの意図どおりのラインをトレースできるようになるという。スバル側が説明するように、μの高い乾燥舗装路よりも雪道のような低μ路でより違いが実感できる変化点である。という効果を知ると改良型ソルテラ、2WDの進化幅も大きいが、安心・安全のポテンシャルがより高いAWDを選びたくなるというものだ。

今回の取材会では、ラリードライバーの新井敏弘選手によるタイムアタック対決も実施された。車両は新型ソルテラとWRX STI。1周約6km、高低差約42mのコースを走ってのタイムは、WRX STIが3分50秒だったのに対して、ソルテラ(AWDモデル)は3分53秒とわずか3秒差! 「速いよ、このクルマ! 電気自動車、恐るべしだな…」と、新井選手も新型ソルテラのポテンシャルに驚いた様子でした。

スバル・ソルテラ ET-HS 主要諸元

■ボディサイズ
全長×全幅×全高:4690×1860×1650mm
ホイールベース:2850mm
室内長×室内幅×室内高:1935×1500×1160mm
車両重量:2000kg
乗車定員:5名
最小回転半径:5.6m
最低地上高:210mm

■パワートレーン
モーター種類:交流同期電動機
モーター定格出力:フロント64kW/リヤ71.9kW
モーター最高出力:フロント167kW/リヤ88kW
モーター最大トルク:フロント268Nm/リヤ169Nm
総電力量:74.69kWh
総電圧:91V
一充電走行距離(WLTCモード):687km

■シャシー系
サスペンション形式:Fマクファーソンストラット・Rダブルウイッシュボーン
ブレーキ:Fベンチレーテッドディスク・Rベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:235/60R18