妻の愛車Z31を了承無しにフルカスタム!?
大病を乗り越え、職人としてのこだわりを全投入!
岩手県矢巾町のカスタムショップ「鈴木オート」の代表・鈴木さんは、知る人ぞ知る“伝説のワークスフェンダー職人”。ネットのなかった時代、雑誌のわずかな情報を頼りに独学でFRPや溶接をマスターし、自分や仲間のクルマをカスタムしてきた。20代の頃にはVIPカーのチーム「VIPファンタジー」を仲間と立ち上げ、鈑金担当として活躍。90年代には100名を超える仲間とともに県内全域にその名を轟かせた。
やがてその技術は、リバティーウォークの加藤社長にも認められる。大阪オートメッセでの出会いをきっかけに、鈴木オート製作のワークスフェンダー仕様UCF30セルシオを気に入られ、「同じ感じで作ってほしい」と180系クラウンの製作依頼を受けるほどだ。

そんな職人の手腕に惹かれてセダン乗りが集う鈴木オートだが、現在の看板車は奥様のために製作されたZ31。Z31ファンのハルカさんに免許を取らせるために用意したクルマで、「カクカクした前期が好き」「2シーターが絶対条件」「Tバーは雨漏りするからNG!」という強いこだわりの末に見つかったのが、ボディとフロアに穴が開いた不動車のZR-1だった。25万円という価格を高いと見るか安いと見るかは意見の分かれるところだろう。
ふたりでコツコツと約3ヵ月かけてレストア。元々はZに思い入れがなかった鈴木さんも、作業の中で愛着を深めていった。本来ならレストア完了の時点で奥様にプレゼントする予定だったが、フェンダー職人の血が騒ぎ、いつの間にかカスタムがスタート。「朝起きたらフェンダーが飛び出していたし、気づいたら色も変わっていた!」と、ハルカさんの了承なしにフルカスタムされてしまった。免許を取得したものの、完成から8年が経つ今でも、彼女がこのZ31を運転したことは一度もないという。

さらに鈴木さんには大病の経験がある。左半身麻痺で2年近く車椅子生活を強いられたが、病院の駐車場で“リハビリ”と称してクルマ弄りを続けた結果、担当医から奇跡と言われるほどの回復を遂げた。そんな背景があるからこそ、クルマへの情熱が人一倍強いのも納得だ。
オリジナルのオーバーフェンダーと加工エアロが絶妙なラインを描くこのZ31は、職人技が炸裂した作品。ワイドすぎないフェンダー造形はバランスを崩さず存在感を演出する。塗装は鈴木さんの得意分野で、「隙あらばオールペン」と奥様に呆れられるほど。だが、今のソリッドグレー×パールはお気に入りで、珍しく塗り直していない。

アクリルのライトカバーとフォグのカバーは自作品。カーボンボンネットをあえて塗装したり、USマーカーやベンツEクラスのフォグ流用、NISSANロゴの浮き文字塗装など、各部に細かい技が盛り込まれている。

リヤにはアイローネゲートとダックテール風リヤウイングを装着。S130後期をイメージしてラインを追加したカミナリのガーニッシュと、パンチングメッシュをあしらったセダン用の横置きサイレンサーが個性を演出する。

アイローネゲートの裏面はスムージング後、奥さんのリクエストでベティちゃんをモチーフにしたブラシアートを施した。ロックフォード・パンチ(12インチ)のウーファーボックスは実は小型で、周囲のFRPカバーを空けると中は収納ボックスになっている。

エンジンは、C33ローレルのRB25DEを搭載。これは、直6のNAサウンドへのこだわりからだ。イベントで魅せることを意識して、手曲げのエキマニやメッキ加工したサージタンクをチョイス。黒いFRPパネルはワイヤータック要らずの配線隠し用に製作したが、エンジンルーム内の整流効果なのか水温が安定するという思わぬ副産物もあったそう。

足回りは、300ZRのハブを移植してシルビア用の6ポットキャリパーと330mmローターを装着。エアバッグが取り付けられた車高調は、ムーブ用をベースに純正スピンドルを溶接したワンオフ品だ。

リヤの車高調はY33用を加工装着。エアバッグは周囲をカットして固定されている。独特なレイアウトのワンオフマフラーは、40φと50φのステンパイプを組み合わせて左右の長さを調整し、共鳴による甲高いサウンドを狙って製作した。


室内は、ベージュとブラウンに張り替えたレカロSR-7に合わせて、ダッシュやコンソールにアルカンターラを張り、インパネやドアにもFRPパネルを製作してカラーコーディネート。窓の手巻きハンドルをモーターで回すパワーウインドウキットや、フジダイナミック・インディ500のホワイトハンドルなど、オーナーの若かりし頃が蘇るパーツチョイスだ。

アリものの車高調とエアバッグで製作したワンオフエアサスで全面着地させているが、走行中の車高もかなり低め。エンジンマウント加工でエンジンを2cmほど上げてメンバーより低いオイルパンを逃がしたり、車高ダウンで極端に変化するフロントのキャスターをワンオフしたテンションロッドで対策したりなど、昭和車には想定外のシャコタンゆえに必要となる対策も施してある。
Zオンリーイベントに積極的に参加し、存在感を広めたことで、今では鈴木オートに旧車乗りが集まるようになったという。まさに職人の人生と情熱が詰め込まれたZ31だ。
⚫︎取材協力:鈴木オート 岩手県紫波郡矢巾町南矢幅煙山11-10 TEL:019-618-0987
