Nissan GT-R NISMO Special edition(MY24)
Nissan GT-R Premium edition T-spec(MY24)
Nissan GT-R Premium edition T-spec(MY25)
完熟の域に達したMY25モデル

遂にR35型・日産GT-Rが新車ラインナップから消滅してしまった。2007年の登場以来、常に前を見続けて進化を繰り返した約18年に及ぶ旅が終わる。いや、よくよく冷静に考えてみれば、話は2001年の東京モーターショーまで遡らなくてはならない。それはカルロス・ゴーン体制のもとで発表された「GT-Rコンセプト」こそ、このR35の原点だったのだから。
R34までのGT-Rには必ず「スカイライン」の名称が入っていた。あくまでもスカイラインがベース車種として存在し、そのホットモデルがGT-Rの立ち位置だった。けれどもGT-Rコンセプトは違っていた。基本的に日本専用モデルであるスカイラインの文字を取り外し、あえて“GT-R”を全面に押し出した。量産版のGT-Rと出会うことになるのはそれから6年後のこと。開発の舞台のひとつでもあった、今はなき仙台ハイランドだ。アップダウンが連続し、さらに路面が荒れていることが開発には都合が良かったという。開発陣は仙台とニュルとを行き来してGT-Rを仕上げてきた。その舞台での試乗は、いまでも脳裏にはっきりと焼き付いている。
車重およそ1.7t。トランスミッションはトランスアクスルで6速DCT。エンジン出力が一度リヤに行ってから、再びフロント戻されるという複雑な作りが生み出す走り味は、何もかもが以前のGT-Rとは違っていた。ピットアウトでフルスロットルを与えれば無駄なく出力を路面に伝え、低回転から極太トルクで豪快なスタートダッシュを見せた。ローンチコントロールを使えば0-100km/hは2秒台後半。ちょうど今のEVスポーツのような加速感が18年も前に存在していたわけだ。
もはや芸術品と呼べるNISMOのスペシャルエンジン


一瞬、貧血でも起こしそうになるほど頭がクラッとしたことを覚えている。GT-Rは当時、どのクルマも追いつけない領域にいたと言っても過言じゃない。比較されるのはいつもポルシェやコルベット。それもノーマルモデルじゃなく、ターボやスーパーチャージャーを積んだトップグレードが相手だったのだ。日本にもようやく世界を相手にできるクルマが出てきたのだと感動したものだ。
それと同時に、筆者はGT-Rを乗りこなせないと、ジャーナリストとしての仕事を失うかもしれないという危機感があった。そこで購入を決意。当時はスタートプライスが777万円だったこともあり、若造でもなんとかなるかもしれないと、割と楽観的にローンを組んだのだ。
今考えてみればこれほど安価な価格で販売することが出来たのも、GT-Rの他にない功績だったと思える。実は自分のクルマが完成する瞬間を見たいと、日産・栃木工場に潜入させてもらったが、そこで見たのは異様な光景だった。最終組み付けのラインで私のGT-Rは、他の大量生産されているクルマたちに混ざっていた。もちろん、個別のパーツはクリーンルームで仕上げられるエンジンを筆頭に、量産モデルとはやや異なるのだが、最終ラインだけでも混流生産を実現できたことが、あの価格に繋がっていたのだ。
エンジンレスポンスが向上したMY25


ほどなくして届いた愛車のGT-Rは、街乗りでは別の意味で刺激的だった。初期のランフラットタイヤを履くこのクルマは、可変ダンパーを採用しているにも関わらず乗り心地はハード。ワンダリングも常にあり、ある意味緊張感を伴う乗り味だった。加えて6速DCTはまだ調教しきれてなく、ギクシャクとした変速。特に発進時は唐突感があった。その後リプログラミングが行われ、変速がマイルドになっていったが、半クラッチを多めにしてスムーズさを得るというやや気持ちの悪いフィーリングだったことを思い出す。
街乗りでは良い印象がなかった初期GT-R。だがこのクルマの本領はやはりサーキットだ。GT-Rは車載GPSがサーキットにいると認識すると、スピードリミッターを解除できる当時としては画期的な機能を備えていた。ややピーキーだが、狙い通りのラインを走ることができる。きっちりと減速してコーナーを立ち上がれば、アクセルで姿勢をしっかりコントロール可能な仕上がりも満足だった。4WDだがFRらしい走り、かつてのGT-Rと確実に繋がっているアテーサE-TSの乗り味がそこにはあった。
魅力的な専用装備満載のNISMO


その後R35は毎年のように進化を続けて行くことになるのだが、その際よく私の愛車が取材対象となった。初期モデルと走りはどう違うのか? 自動車誌としてはそこに興味があったのだろう。オーナーとしては微妙な気持ちだった。GT-Rは着実に進化を遂げているが、果たしてそれで良いのか? と思うこともしばしば。街乗りでの快適性はどんどん向上していくものの、スポーツ走行時、本来持っていたGT-Rならではの牙を抜かれてしまったというのが正直な感想だった。限界域のピーキーさは消え、扱いやすくなる一方で、マイルドになりすぎたと思えた。もちろん、エンジン出力が向上したため、サーキットのタイムは速いのだが……。
そんなもやもやとした不満が解消されたのはNISMO仕様が誕生した頃だっただろうか? GT-Rとしては王道となるロードゴーイングカーは基準車にまかせ、サーキットを楽しむ人にはNISMOを準備するというラインナップが整えられた。これがGT-Rの魅力をさらに高めてくれた。今、目の前にある最終モデルのTスペック(MY25)とNISMOの2台は、前述した不満を共に解消して完成の域に達した2台である。
やや古さは感じるが操作性に優れたデザイン


正式名称「プレミアムエディションTスペック」は、匠の手によってクリーンルームで高精度重量バランス取りが行われたエンジンを搭載し、価格も約2000万円台に達した1台だ。今回同グレードのMY24と比較してみたが、MY25のエンジンは明らかに滑らかで、そしてリニアに応答する。これには感心するばかり。カーボンブレーキを使うことでバネ下重量を低減し、しなやかに動く足まわりも見逃せない。かつてのワンダリングもどこへやら。とにかく快適にしなやかに走る。けれどもスポーツ性は失ってはいない。ダンパーを引き締めれば、求めた通りにクルマがキチっと動く。これならサーキットでも本領を発揮できるだろう。
一方NISMO(MY24)はサーキットベストのアプローチだ。タイヤはNISMO専用となるダンロップSPスポーツマックスGT600 DSST NR1。NR1と付くところが専用品の証で、タイヤに合わせて足も空力もバッチリとセットされている。しかも見どころはフロントLSDを備えている点だ。コーナー脱出時にスロットルを与えて行くと、ステアリングを切った方向にスッと向きが変わっていくので刺激的だ。以前はNISMOモデルはコーナーがさほど得意ではないと思っていたが、今ではライトウエイトスポーツも真っ青なほど、狙ったラインをトレースできる感覚が堪らない。それでいて日常域ではダンパーを緩めればそこそこ快適に走る。サーキットベストながらも日常もOK。NISMOにもオールマイティなGT-Rらしさが宿っている。
時代のマイルストーン

また、2台ともにエキゾースト系はMY24登場時に規制に合わせ作り直し、BOSEベースのサウンドシステムで外は静か、室内では官能的という環境も作り出した。最後の最後まで規制ときっちり向き合い戦った。だからこその18年なのだ。結果、価格はやや高くなったが、日本の誇りであることに変わりはない。いつの日か復活することを願うばかりだ。
REPORT/橋本洋平(Yohei HASHIMOTO)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
MAGAZINE/GENROQ 2025年11月号
SPECIFICATIONS
日産GT-R NISMO スペシャルエディション(MY24)
ボディサイズ:全長4700 全幅1895 全高1370mm
ホイールベース:2780mm
車両重量:1720kg
エンジンタイプ:直列6気筒DOHCツインターボ
総排気量:3799cc
最高出力:441kW(600PS)/6800rpm
最大トルク:625Nm(66.5kgm)/3600-5600rpm
トランスミッション:6速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前255/40ZRF20 後285/35ZRF20
車両本体価格:──
日産GT-R プレミアムエディション Tスペック(MY25)
ボディサイズ:全長4710 全幅1895 全高1370mm
ホイールベース:2780mm
車両重量:1760kg
エンジンタイプ:直列6気筒DOHCツインターボ
総排気量:3799cc
最高出力:419kW(570PS)/6800rpm
最大トルク:637Nm(65.0kgm)/3300-5800rpm
トランスミッション:6速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前255/40ZRF20 後285/35ZRF20
車両本体価格:2035万円
日産GT-R プレミアムエディション Tスペック(MY24)
ボディサイズ:全長4710 全幅1895 全高1370mm
ホイールベース:2780mm
車両重量:1760kg
エンジンタイプ:直列6気筒DOHCツインターボ
総排気量:3799cc
最高出力:419kW(570PS)/6800rpm
最大トルク:637Nm(65.0kgm)/3300-5800rpm
トランスミッション:6速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前255/40ZRF20 後285/35ZRF20
車両本体価格:──
【問い合わせ】
日産自動車お客さま相談センター
TEL 0120-315-232
https://www.nissan.co.jp
