Porsche Taycan Turbo GT
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Porsche Macan Turbo Electric
エンジン車とBEV車が併売されているマカン

「よろづのことは恃(たの)むべからず」ちょっと説教じみているけれど、将来のことが当てにならないのは兼好法師が生きた700年前も今も変わらない、としみじみ感じさせられる昨今である。大人ならば誰でも、すべて思い通りになることはない、と分かっているはずなのに、こうすれば絶対だ、間違いなくこうなる、という類の短絡的で扇動的な主張は分かりやすく、しかも声が大きいので、不安な時代になるとついつい乗っかってしまいがちだ。右か左か、白か黒かなどという二元論には注意しなければならない。
新型マカンはBEVのみなので、本来ならば「マカン ターボ」という車名で十分なのだが、その後ろに「エレクトリック」と付くのは、エンジンを積む従来モデルもいまだに併売されているからだ。欧州などマーケットによってはもうEVマカンしか買えないところもあるけれど、何しろポルシェのビジネスを支える大黒柱の一本であるだけに、そしてEV化の歩みが減速していることに鑑みて、まだ十分に売れている人気モデルをスパッと廃止するわけにはいかない、ということだろう。とはいえ、日本でも従来モデルが買えるのは今年いっぱいと見られている。
販売台数が半減したタイカン


ポルシェにしても現在の世界情勢の中、順風満帆ではないことは皆さんご存知の通り。コロナ禍を乗り越えたと思ったら、ウクライナ侵攻(エネルギー価格上昇)にトランプ関税と暗雲は次々と湧いてきた。その中でもポルシェは堅調であり、右肩上がりに販売数を伸ばしてきた。2024年は足踏みしたもののそれでも年間世界販売台数は約31万1000台(前年比マイナス3%)に踏みとどまった。そのうちSUVのカイエンが約10.3万台、一部デリバリーの始まったEVモデルを含めたマカンが8.3万台、ということはこの2種のSUVで全体の6割ほどを占めていることがわかる。一方BEVのタイカンはおよそ2万台、一時は911(昨年約5万台)を凌ぐほどの勢いを見せていたものの、前年比でほぼ半減しているのはEV化の減速だけでなく、北米と並ぶ大マーケットの中国での急ブレーキが要因だろう。ピーク時には年間約10万台を売ったポルシェだが、昨年はその半分に留まり、今年はさらに減速すると見られている(2025年上半期の世界販売はマイナス6%だが中国市場はマイナス28%)。
新型マカンがタイカンに続く第2弾としてBEVに生まれ変わることは、実はずいぶん前に公表されていた。主力モデルだけに、タイカンの知見も活かして満を持して昨年投入されたというわけだ。日本仕様のマカン エレクトリックは「マカン」「マカン4」「4S」「ターボ」がラインナップされており、ターボはもちろんその中のトップモデルである。マカン4以上は前後2モーターを搭載するAWDであり、マカン ターボはトータルで通常時584PSの最高出力と1130Nmの最大トルクを生み出すモンスターである。とはいえ、普通に走る限りは、EV専用のPPE(プレミアム・プラットフォーム・エレクトリック)にエアサスペンション&PASMを標準装備するマカン ターボは、フラットでスムーズな挙動を乱さない。4桁のトルクをアピールするというより、エンジン車から乗り換えた人に違和感を抱かせないように洗練されていると言っていい。もちろん、床まで踏めば0-100km/h加速3.3秒の実力は、運転している本人が気持ち悪くなるほどの凄まじさである。SUVのEVは数あれど、完成度の高さは頭抜けている。
セダンだけで8つのグレード

ポルシェ初のBEVであり、EVスポーツカーのパイオニアでもあるタイカンは2019年に登場したスーパーEVである。完成度はその当初から非常に高く、ほとんど弱点が見当たらないほどだった。ただし、航続距離が実質400km程度とポルシェ乗りにはちょっと物足りないこと、そして800Vの高電圧システムを備える車両側は270kW(新型は350kW)までの大容量充電を受け入れるのにもかかわらず、国内では充電環境がそこまで対応していなかったことが問題だったが、昨年春にマイナーチェンジを受けて、パフォーマンスと航続距離がさらに向上している。日本仕様はセダンとクロスツーリスモに分かれ、セダンだけでも8モデルものラインナップである。すなわち「タイカン」「タイカン4」「4S」「GTS」「ターボ」「ターボS」「ターボGT」「ターボGT withヴァイザッハ・パッケージ」となる。ただしヴァイザッハ・パッケージは後席を取り去った上に、専用エアロパーツ装備の軽量武闘派モデルであり、このターボGTが事実上のトップモデルと言っていい。
最大パワーは1034PS


ターボGTの2基のモーターのトータル最高出力は通常時789PSだが、ローンチコントロール使用のオーバーブースト時は1034PS、同最大トルクは1240Nmと途方もなく、当然ポルシェ市販車史上最強である。駆動用バッテリーがこれまでの93.4kWhから105kWhに大容量化されたことに加え、リヤモーターの高出力化、サーマルマネジメントやインバーターの改良などの結果だという。WLTCモードの航続距離は638~677kmとされている。0-100km/h加速は2.3秒、最高速は290km/hという超弩級の怪物をどうしたものかと悩んでいるうちに、なんと豪雨に見舞われてしまった。諦めきれずに一度だけローンチコントロールも試したが、水溜りができるほどの路面にもかかわらず、ホイールスピンさえほとんど見せずにさらりととんでもない加速をする。緻密な駆動力制御はEVならではである。0-100km/h加速3秒台でも軽々しく試さない方がいいのに、ドライ路面のターボGTがどんな加速を見せるのかを想像するだけで恐ろしくなる。
そんな途轍もない性能を持ちながら、乗り心地の良さにも感心する。普通のEVはバッテリーの重さのせいで、荒れた路面ではブルブルとした振動が残ったり、ピッチングが気になるクルマもあるが、エアサスペンションと可変ダンパーを備えるタイカンはそもそも別格で、路面を問わずほぼ完璧にしなやかでフラットな姿勢を保つ。しかもこのクルマには新たにポルシェ・アクティブライドという個別に油圧を供給して姿勢を制御する、いわゆるアクティブサスペンションも備わっていた。このシステムは昨年春に発売された新型パナメーラのPHVモデルにも搭載されているように高電圧システムを前提とするようだが、おかげで驚くほどスムーズでフラットである。それでいながら踏めば異次元の加速を見せるのだから、やはりポルシェはやる時は情け容赦なしに徹底的だ。
脱エンジンの流れは変わらない

多少の揺り戻しはあるだろうが、世界的な脱内燃エンジン車の流れは変わらない。性急にEV転換を急いでビジネスが揺らいでは元も子もないが、ポルシェの場合はEVスポーツカーの頂点たるタイカンとともに、プランBもCも用意しているように見える。パイオニアこそ最も遠くまでを見通すことができるからである。



REPORT/高平高輝(Kouki TAKAHIRA)
PHOTO/篠原晃一(Koichi SHINOHARA)
MAGAZINE/GENROQ 2025年11月号
【SPECIFICATIONS】
ポルシェ・タイカン ターボGT
ボディサイズ:全長4970 全幅2000 全高1380mm
ホイールベース:2900mm
乾燥重量:2300kg
エンジンタイプ:モーター
最高出力:760kW(1034PS)
最大トルク:1240Nm(77.5kgm)
トランスミッション:前1速 後2速
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボンセラミック)
タイヤ&ホイール:前265/35ZR21 後305/30ZR21
0-100km/h加速:2.3秒
最高速度:290km/h
車両本体価格:3144万円
ポルシェ・マカン ターボ エレクトリック
ボディサイズ:全長4785 全幅1940 全高1620mm
ホイールベース:2893mm
乾燥重量:2420kg
エンジンタイプ:モーター
最高出力:470kW(639PS)
最大トルク:1130Nm(91.8㎏m)
トランスミッション:1速
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前235/55R20 後285/45R20
0-100km/h加速:3.3秒
最高速度:260㎞/h
車両本体価格:1541万円
【問い合わせ】
ポルシェ コンタクト
TEL 0120-846-911
https://www.porsche.com/japan/
