カワサキ・ニンジャ7ハイブリッド……1,848,000円

カワサキの先進性と独創性
2輪メディアの仕事を初めてもうすぐ30年、最近の僕はニューモデルの写真やスペックを見た際に、ドキドキ&ワクワクする機会が着実に少なくなっている。
そんな中で、感受性が鈍ってきたオッサンに、若い頃のような夢を見させてくれる貴重なメーカーがカワサキだ。

具体的な車名を挙げるなら、2015年型ニンジャH2(2輪では世界初のスーパーチャージャーを採用)、2020年型ZX-25Rと2023年型ZX-4R(アンダー400ccクラスでは20年以上ぶりの新作4気筒車)、2024年型ニンジャe-1とZ e-1(日本車初の本格的な電動モーターサイクル)が登場したとき、僕の中には猛烈な試乗欲が芽生えて、実際の試乗では新しい世界の訪れを感じた。

というわけだから、世界初のストロングハイブリッドバイクとして、2025年から発売が始まったニンジャ7ハイブリッドとZ7ハイブリッドにも僕は期待していた。
もっともデビューから半年間、この2台を体験する機会は巡ってこなかったのだが、今回のガチ1000kmではニンジャ7ハイブリッドをじっくり乗り込み、前述した車両と互角以上の魅力を認識。
今現在の僕は、カワサキの先進性と独創性に改めて感心しているのだった。
ハイブリッドならではの面白い世界

外観を見てニンジャ400かニンジャ650の派生機種?と誤解する人がいるかもしれないが、ニンジャ7ハイブリッドは主要部品の多くが新規開発である。
451ccのパラレルツインは輸出仕様のニンジャ/Z/エリミネーター500用がベースだが、動力の断続に加えて、エンジンとモーターが生み出すパワーの配分調整を行う電子制御式自動クラッチは専用設計で、トレリスフレームや外装は既存のニンジャ系とは似て非なるデザインを採用している。

パワーユニットの最高出力と最大トルクは、エンジンが58ps/10500rpm・4.4kgf-m/2800rpm、ミッション上部に備わるモーターが12ps/2600~4000rpm・3.7kgf-m/0~2400rpmで、システム全体は69ps/10500rpm・6.1kgf-m/2800rpm(単純な足し算にはならない)。
そしてその数値は、ニンジャ650の68ps/8000rpm・6.4kg-m/6700rpmと大差ないのだが……。

ニンジャ7ハイブリッドのパワーユニットは、ムチャクチャ面白かった。あら、この表現だとニンジャ650のエンジンがつまらないみたいだが、そういうわけではない。
スポーツHV、エコHV、EVという3種のモードを駆使してさまざまな場面を走った僕は、既存のバイクとは異なる新しい楽しさを見出し、“こんなに面白い世界があったのか‼”と、感動してしまったのだ。

逆に言うなら当初の僕はハイブリッドという言葉から、環境問題を意識したエコなバイクというイメージを抱いていたものの、ニンジャ7ハイブリッドからは造り手の遊び心、“エンジンだけでは実現できない面白い世界を構築しよう”という意思が伝わってくる。
以下の文章ではその魅力に関して、モードごとの説明をしたい。
電力を加速に還元するeブースト

まずはメインと言うべきスポーツHVモードの話から始めると、モーターによるアシストと電力を蓄える回生システムの作動があまりにも自然だからか、基本的にはニンジャ650と大差がない?……という印象だった。

とはいえニンジャ7ハイブリッドは、自動クラッチ+左手親指と人差し指によるパドルシフトを採用しているし、ALPF:オートマチック・ローンチ・ポジション・ファインダーを選択すれば、停止前に自動で1速までのシフトダウンが行われるので、操作はニンジャ650よりイージーである。
でもそれが特筆するべき要素かと言うと、僕にとっては必ずしもそうではなかった。

ただし、スポーツHVモードには電力を加速に還元する、eブーストが存在するのだ。この機構には発進用と走行中用の2種が存在し、僕が特に驚いたのは脳味噌が後方にズレるかのようなダッシュ力が味わえる前者。
もっとも高速道路や峠道の直線など、ここぞ‼という場面で有効な武器になる後者も相当に魅力的と思えた。

誤解を恐れずに表現するならeブーストには、ドラッグレースで定番のニトロやサイボーグ009の加速装置を思わせる魅力が備わっていて、この機構を堪能した僕は、電気とモーターの新しい可能性を感じたのである。
エコHVモードでモーターの活躍に感心

続いてはエコHVの話で、アイドリングストップ機能を備えるこのモードの特徴は、電力の存在感が明確になること。
発進時はモーターの力だけでマシンが動き出すし(速度が20km/h前後を超えるとエンジンが始動)、走行中にエンジン回転数が低くなると、ミューンという音と共にモーターのアシストが伝わってくる。

そんなエコHVモードで面白かったのは、市街地の曲がり角や峠道のヘアピンカーブなどで、ミッション段数が理想より低かった際の立ち上がり方。
そういう状況に遭遇した場合、スポーツHVは絶妙のクラッチワークを自動で行いながら、エンジンが主な仕事をするのだが、エコHVではエンジン回転数にほとんど変化はなく、モーターの力でスルスルスルッと加速していく。

もちろん前述したように、ニンジャ7ハイブリッドのメインはスポーツHVモードだろう。とはいえ、モーターならでの滑らかな加速が随所で実感できるエコHVにも、僕は積極的に使いたくなる魅力を感じた。
目からウロコのEVモード

スポーツHVとエコHVに続いて紹介するのは、エンジンを一切動かさず、モーターのみで走行するEVモードとウォークモード。ちなみにEVモードの航続可能距離は10km前後だから、早朝や深夜の住宅街用なのかと思いきや……。
日中の市街地で意外に使えるうえに、峠道でこのモードを選択した際は、木々が鳴らす風の音や川のせせらぎ、鳥の鳴き声などが聞こえることにビックリ。ほぼ無音で走る峠道は、かなり新鮮な体験だった。

一方のウォークモードは、駐車場の出し入れなどで使うことが前提で、前進だけではなく、後進もできることがポイント(速度は、前進が約3km/h、後進が約2km/h)。
このバイクにとっては電動ならではのオマケなのかもしれないが、最近になって体力の衰えを感じている僕は、後進だけでもいいから、ミドル以上のバイクは同様の機構を取り入れて欲しい……と感じてしまった。

さて、パワーユニットの印象を記していたら、すでに通常の1回分の文字数をオーバーしている。何だか尻切れトンボな展開だが、車体に関する話やロングランでの印象は、近日中に掲載予定の第2回目で紹介したい。

主要諸元
車名:ニンジャ7ハイブリッド
型式:8AL-CX500A
全長×全幅×全高:2145mm×750mm×1135mm
軸間距離:1535mm
最低地上高:130mm
シート高:795mm
キャスター/トレール:25°/104mm
エンジン形式:水冷4ストローク並列2気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:451cc
内径×行程:70mm×58.6mm
圧縮比:11.7
エンジン最高出力:43kW(58ps)/10500rpm
エンジン最大トルク:43N・m(4.4kgf・m)/7500rpm
モーター最高出力:9kW(12ps)/2600~4000rpm
モーター最大トルク:36N・m(3.7kgf・m)/0~2400rpm
システム最高出力:51kW(69ps)/10500rpm
システム最大トルク:60N・m(6.1kgf・m)/2800rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
(電子制御式マニュアルモード付きオートマチック)
クラッチ形式:電子制御式
ギヤ・レシオ
1速:2.235
2速:1.8000
3速:1.500
4速:1.240
5速:1.074
6速:0.964
1・2次減速比:2.218・3.071
フレーム形式:ダイヤモンド(トレリス)
懸架方式前:テレスコピック正立式φ41mm
懸架方式後:スイングアーム・モノショック
タイヤサイズ前:120/70ZR17
タイヤサイズ後:160/60ZR17
ブレーキ形式前:油圧式ダブルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:228kg
使用燃料:無鉛プレミアムガソリン
燃料タンク容量:14L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:31.0km/L(2名乗車時・SPORT-HV)
燃料消費率WMTCモード値・クラス3-2:23.6km/L(1名乗車時・SPORTS-HV))

