気合い十分! 原チャリの王道を行く。

スズキの原付スクーターと聞いて真っ先に思い浮かぶのは何だろう? 世代によって違うだろうが、現行モデルもあり、『通勤快速』として長年続くアドレスシリーズは間違いないとして、他の候補としてはレッツシリーズ、チョイノリ、ストリートマジック、スーパーモレと枚挙に暇がない。しかし、90年代を駆け抜けた諸君に絶好の一台といえば「セピア」に他ならない!

セピアはHiアップに次ぐスポーツスクーターとして’89年4月にデビュー。モードGTの前傾エンジンを搭載した次世代の“原チャリ”として、すでに地位を確立していたDio(AF18)やタクトフルマーク(AF16)、リニューアルしたばかりの3代目JOG(通称メットインジョグ)に真っ向勝負を仕掛けた。

中~上級クラスはアドレスにまかせて、セピアは若者にも訴求するため安価に設定。さらに当時パラドルとして頭角を現した“井森美幸”を広告塔に起用してアピールした。かくしてスズキ原付スクーターのスタンダードとして矢面に立った。

スタイリッシュな外観は文句なし!

久しぶりにセピアを間近で見たが、非常に丁寧に作られている印象だ。他車を意識してのものだろうが、デザインも含めてスクーターとしてソツがない。画一化されているとも捉えられるが、とくにバブルが弾けた90年代以降は部品を使い回しながら車種を絞っていった時代ゆえ、大胆な博打は避けられた節がある。

撮影車はランブレッタやSYM、ファンティック、電動コミューターなどのインポートモデルを扱う「モータリスト・ファクトリー(東京都大田区)」にてひっそりと販売されているUSED。状態も良好な極上の一台だ。セピアの隣にある薔薇(BARA)についてはこちらの記事をチェック。

今回の撮影車は’90年式(AF50L)で、わりと珍しいパールシルクブルーが爽やかなイメージだ。セピアシリーズは車体色が豊富なのも特徴で、真っ赤な“パールクレムリンレッド”や赤や黒のツートンカラー、部分的に黄色や紫を取り入れた“グレースチャコール”など個性的なボディカラーが揃う。

高さを抑えたアッパーカウル(ライトカウル)やメッシュを備えたアンダーカウル、一体感のあるフォークカバー、標準でクリア仕様のフロントウインカー、サイドまで回りこんだリヤウインカー(実際は反射板)など凝った作りだ。

出足も強いスズキならではの特性!?

車重は63kg(乾燥)で軽めなうえ、シート高が675㎜と低いから足を降ろしやすいのもポイント。

もちろん走行性も抜かりがない。モードGT譲りの空冷2スト49㏄ピストンリードバルブエンジンは6.8PSまで引き上げられ、低中速に振ったパワー特性もあってシグナルダッシュや坂道発進でもあまりもたつかない。なお初期型は駆動系の機械式リミッターだから、その気になれば最高速を伸ばすことも可能だ。

また機能面でも原付スクーターとしては、プッシュキャンセルウインカーやチューブレスタイヤ(ダンロップK655A)を早めに採り入れていたのも特筆点!

速度計と燃料計、インジケーターのシンプルなレイアウト。カスタムではアドレスV100用の100km/hスケールに入れ替えるのが鉄板だ。

収納もばっちり! ただ一つ問題が……。

日常使いとして重要なシート下スペースも当然備えている。ジェットヘルや小型のフルフェイスヘルメットならすっぽり収まり、余スペースにはグローブなどの小物が詰められる。この収納部を触るとわかるのだが“硬い”のだ。

シート下のトランクには照明も付いているから夜間での荷物の出し入れもしやすい。

セピア及び兄弟車のアドレス(2st)はシート下収納がフレーム一体のスチール製となっている。多くの車種は収納部のカバー(マット)を外すとエンジン直上にアクセスしてプラグ交換などができるのだが、セピアはこのような構造のため整備性に少し難があり、これに泣かされた人も多いのでは? かくいう私もその一人だ・・・・・・。

セピアのベースにもなりプラットフォームを共通とするアドレスシリーズ。写真はV50をベースに排気量アップしたV100で、『元祖・通勤快速』として15年以上に渡って販売されたロングセラー!
フューエルリッドやオイル注入口はシート後方のカバーを開けると現れる。見た目もスマートだし、腰をかがめなくても給油できるのは嬉しいところ。

スポーティーな“セピアZZ”も仲間入り

早々に定番スクーターとして地位を築いたセピアは、デビュー翌年の’89年にスポーツグレードのセピアZZが追加された。セピアZZは最高出力が0.2PS増しの7PSを発揮し、チャンバータイプのマフラーやボトムリンク式フロントサスペンション&ディスクブレーキを備えた上級版だ。また、視覚的にもキャリアと入れ替えられたリヤスポイラーが存在感を示している。レーシーなスタイルとパワーを求めた若者にとって“ZZ”は魅力的に映った。

このセピアZZは’93年のモデルチェンジで最高出力が7.2PSにパワーアップ! ’83年発売のホンダ・ビート以来、原付スクーターとしては10年振りのフルパワーを実現した。ほぼ同時期にライバルのホンダ・Dio-ZXやヤマハ・JOG ZRが足並みを揃え、各車ともチューニングパーツも豊富にリリース。セピアZZも含めて90年代のスポーツ原付はこの3車が三つ巴の関係を築いた。

年次改良で見た目も使い勝手もアップ

さて通常版のセピアに話を戻そう。ZZも追加されて勢いを増したセピアは’92年にマイナーチェンジを施して主に外観を変更。フロントインナーラックが追加されているのも見どころだ。

’92年式(AF50N)からはフロントインナーラップが追加(通称:中期型)。モデルチェンジされた’93年以降も後期型と併売された。なお後期からはディスクブレーキ仕様となったセピアRSも仲間入り!

その翌年の’93年にセピアZZ共々大きく仕様変更がなされてボリューム感のあるフォルムに。燃料タンク容量は3.7ℓ→4.2ℓに拡大され、バッテリー位置を前方から車体中央に移設したり、プラグ整備用のリッドが設けられるなど利便性が高められている。

姿を消しても受け継がれるセピア色!

しかし、先述した通りセピアZZがスタンダード版を凌駕する勢いで人気が高まり、“日常の下駄”としてもレッツ/2が台頭するなどオーセンティックなセピアは居所がなくなったのか、’96年には姿を消してセピアZZへと集約。このセピアZZは’99年まで発売された後に『ZZ』へと進化を遂げた。

写真は2000年発売のZZテレフォニカモビスターカラー。ロードレース世界選手権(WGP500)のスズキワークスマシン(RGV-γ)のレプリカだ。

排ガス規制でエコな4スト化の波が押し寄せてスポーツスクーターの需要が衰えた世紀末~21世紀初頭にもかかわらず、ZZは2ストフルパワーをキープし、エンケイ製12インチホイールなどハイエンドな装備を奢るなどして、ヤンチャ盛りのヤング層から支持を得た一台だ。ある意味、原付スクーターの一つの完成系と言えるだろう。

車名こそ違えどセピアの系譜は80年代後半に始まり、2007年のZZの生産終了まで18年続いたと考えれば、最初に言った通り「スズキの原付スクーターと聞いて真っ先に思い浮かぶ」に相応しい一台に違いない。

●SPEC 【 】内はZZ
■型式:A-CA1EA【A-CA1EB】 ■全長×全幅×全高(mm):1640×605×975【1660×635×995】 ■軸距:1140mm【1165㎜】 ■最低地上高:90mm【110㎜】 ■シート高:675mm【695㎜】 ■乾燥重量:63kg【65kg】 ■排気量:49㏄ ■エンジン:空冷2スト単気筒リードバルブ ■内径×行程:41×37.4㎜ ■圧縮比:7.4:1【7.6:1】 ■最高出力:6.8ps【7.ps】/7000rpm■始動方法:セル/キック ■燃料タンク容量:6ℓ■タイヤサイズ:(前後)3.00-10【(前)80/90-10(後)90/90-10】■ブレーキ:(前後)ドラム【(前)ディスク(後)ドラム】■車体価格:12万9000円【14万6000円】 ※スペックや価格は'90年時のものです