マツダ「MX-30 R-EV」の開発者がレースに参戦

2025年10月4日、5日の2日間開催された「MAZDA FAN FESTA 2025 at FUJI SPEEDWAY」は、初日1万1140名、2日目9923名、トータルで2万1063名と多くの来場者を迎え幕を閉じた。トランプ関税を始めとして、決して順風満帆という状況ではないはずだが、それでも富士スピードウェイでのファンへの感謝、そしてファンとの接点を絶やさないようにと開催した勇気に対しては、ファンならずとも拍手を送りたくなる。

オープニングセレモニーに登壇した毛籠勝弘社長。

その中で開催されたレース「第3回マツダグループチャレンジカップ」に注目したい。

マツダグループチャレンジカップ(通称:マツチャレ)は、マツダ車を4クラス(スポーツ/コンパクト/ミドル/SUV)に区分し、それぞれのカテゴリーで競技を実施。
180分間で富士スピードウェイのレーシングコースを何周したのか周回数を競うレースだ。

ここに、現在世界で唯一のロータリーエンジン車であるマツダMX-30 R-EVが「ワークスチーム」として参戦したのだ。

マツダMX-30 R-EVは、ロータリーエンジンを発電専用に搭載し、モーター駆動で走行する。

「マツダグループチャレンジカップ」とは?

通称「マツチャレ」と呼ばれるこのレースは、JAF が承認する模範走行行事として、国際自動車連盟(FIA)の国際モータースポーツ競技規則に準拠したJAF国内競技規則およびその細則、本競技規定およびサーキット規定に従って開催される。要するに、「ちゃんとした公式レース」なのだ。

参戦チームは、マツダ販売会社を中心に、マツダ本体からの有志、マツダ関連会社の面々が参加し、多くのマツダグループ社員に、耐久レースの魅力を体感してもらうことを開催の趣旨としている。

MX-30 R-EVのステアリングを握るのは、MX-30の主査を始め、R-EVやロータリーを愛する個性溢れる社内の4銃士。以下に紹介すると、

■森谷直樹/現在は北米専用車CX-50の開発責任者。「MX-30は車両開発を最初から担当して、このクルマにマツダのチャレンジング スピリットをぎっしり詰め込みました」

■岡留光代/MX-30 三代目主査。「REが持つ挑戦と信念の志を胸に、MX-30だけが持つREVを初めとするオンリーワンの魅力を世の中に伝える事に奮闘中!」

■柏木慶司「現在は車両開発推進部でNew CX-5の実研推進を担当。「MX-30には技術開発段階から携わり、MHEV/BEV/R-EV全て量産まで育てたのは私です・・・ちょっと言い過ぎ!? 2年前からR-EVのオーナーです!」

■前田多朗「Mazda3、CX-30、OEM車などの開発責任者。「“なんでも承ります”がモットーです。MX-30/CX-30に*SeDVバージョン(SeDV: Self-empowerment Driving Vehicle=手のみでも運転可能な車両)を設定したのは私です」

ロータリーエンジン搭載車でメーカー本体が公式にレースに参戦するのはルマンで優勝した787B以来ではないだろうか!? ちなみに、岡留主査はまったくのサーキット走行未経験。このために社内ライセンス(マツダにはD〜Sライセンスがあり、社内ドライビングスクールを受講して取得できるのがC、B、A、特A、Sライセンス)のCライセンスも取得したという。

燃費の良さが勝負のカギとなる!

レースの決勝は、1周4.563kmの富士スピードウェイ国際レーシングコースを、180分間の周回数を競い合うことになる。燃料は、スタート時点に満タンにしてその後の給油は認められないので、勝負は燃料タンク容量と燃費が大きな鍵となる。

今回のマツチャレのクラス分けは、
①スポーツ( ロードスター、RX-7、RX-8 )
②コンパクト( A~B セグメント )
③ミドル( C~D セグメント )
④SUV ( CX 系 MX 系車両 )
とされているが、半分くらいはロードスター、残りの殆どがマツダ2(デミオ)、それにマツダ3やアクセラといったところで、SUVクラスはMX-30 R-EVのみの参戦となった。

さて、MX-30 R-EVは無事予選をクリアし、決勝へ進出。目標周回数は60周だという。

MX-30 R-EVによる耐久レースでの走行は、SOC(バッテリー残量)を目標値の間に収めながら、と回生ブレーキによるエネルギー回収でトータル燃費を悪化させずに速度もキープすることにある。

そのため、走行中はスピードメーター以外にもSOC、パワー/チャージメーターなどに記しを入れ、独自の「レッド/イエローゾーン」を設定して走っていたという。

レースリザルトは、目標の60周をきっちり完走でき、クラス1台中1位のクラス優勝!(笑) しかし、ビリではなく、もう一台59周の車両があったためトータルでもブービー賞となった。

やはり、レース参戦によって、減速時の効率的なエネルギー回生方法、スポーツ走行に向けた加速など、改めて得るものがあったという。理論上起こりうることはテストコースでも再現可能だろうが、人間の感性にあった走り方や他車との混走による影響など、レース参戦により得られたものは「ロータリーEV」にとっても「岡留主査」にとっても初体験だったわけだ。

サーキット走行から得たものは?

サーキットもレースも初体験だった岡留主査は何を感じたのだろうか?

「今回、ここに来て感じたのは、言っていることは実現するんだな、言ってなきゃダメだなということ。昨年のマツダファンフェスタでは『ここにMX-30でチャレンジできたらいいね』と言っていたんです。それが言い続けたことで実現したんです。それが私にとって大きな収穫でした」

岡留主査が今もっとも力を入れているのは「ロータリーの火を消さない」こと。大先輩が培って、築き、育んできた志を、何としても絶やしてはいけない。そのためには、何にでもチャレンジしていく、というわけだ。

岡留主査は、その「志」を、参戦車両に命名し、ゼッケンの横に大きく記すことで、サーキットにいるマツダファンや関係者に対し、目前で「志の火を消さない」と誓ったわけだ。そして、この経験から得たものは、発売が待たれて止まないロータリー搭載スポーツ「ICONIC」の開発に生かされていくものと期待したい。そのためにも、岡留主査にはそれを言い続けてほしいと願う。