スポーツバイクのような前傾ポジションでも、クルーザーのように足を前に投げ出したフォワードステップでも自由自在。コーナリング性能は一般的なスクーターとは一線を画している。

デザインを一新、足回りと電制も一段と進化

ヤマハのプレミアムスポーツスクーター「TMAX560 TECH MAX」に、2025年モデルが登場した。ヨーロッパで圧倒的な人気を誇るこのシリーズは、スポーティな走行性能とツアラー級の快適性を兼ね備えたフラッグシップとして進化を続けている。
初代TMAXが登場したのは2001年。従来のビッグスクーターとは一線を画す“オートマチック・スーパースポーツ”という独自路線を打ち出し、走りの性能を徹底的に磨いてきた。2020年には排気量を拡大したTMAX560を投入し、同時に豪華装備を備えた上級仕様TECH MAX」を設定。2022年の改良を経て、2025年モデルではデザインを刷新するとともに、コーナリングABSやブレーキコントロール(BC)、スマートフォン連携機能の強化など、安全性と利便性を大幅に高めている。

心臓部は水冷並列2気筒DOHC 4バルブ・560ccエンジン。ユーロ5+規制に適合しながら、低中速域のトルクを緻密にチューニングし、CVTと組み合わせることで滑らかかつ力強い加速を実現。アルミ製ツインスパーフレームがもたらす剛性感もスポーツライディングを後押しする。足まわりも41mm倒立フォークとリンク式リヤサスペンションを採用するなど本格的。減衰特性を見直すことで、タンデムや高速域でも高い安定性を発揮する。フロントはダブルディスク+ラジアルマウントキャリパーに最新世代のABSとBCを組み合わせ、路面状況やリーン角に応じて制動力を最適化。スポーツとセーフティを高次元で両立した。
電子制御もさらに進化した。2種類のライディングモード(Tモード/Sモード)はより扱いやすくなり、高精度トラクションコントロールがシーンに応じて出力制御を最適化。新設計の7インチTFTディスプレイはフルマップナビや通知カスタマイズに対応し、専用アプリを通じて走行ログや車両状態もチェックできる。USB-Cポートも追加されるなど、最高峰モデルにふさわしい実用性を手に入れた。

スポーツバイクと張り合える走り

見た目はよりシャープに精悍になった。LEDヘッドライトはスリムかつ鋭く、エッジを効かせたボディラインと流麗なサイドビューがスポーツバイクを思わせる。都会的で洗練されたプレミアム感はTMAXならではだ。

そして跨がった瞬間、従来のスクーター観は覆される。水冷並列2気筒560ccエンジンは、360度クランクによるクリアな鼓動感と厚みのあるトルクを発揮。大柄でボリューム感のある車体ながら、低中速域トルクとCVTのスムーズさが相まってストップ&ゴーも軽快。
自動遠心クラッチのつながりがダイレクトなので、スロットルオンでの加速にタイムラグが少ないのも良い。故に市街地ではキビキビと扱いやすく、加速レスポンスの良さと持ち前のパワーも相まって、幹線道路での追い越しも実にスムーズだ。体感的にはミドルクラスのスポーツバイク並みの力強さ、しかも操作がイージーなのでぱっと乗って速い。
また、剛性感のある車体と大径ホイールにより、スポーツツアラーを思わせる安定感と快適な乗り心地を提供してくれる。ライディングモードも実用的で、“スポーツ”と“コンフォート”の特性はさらに明確になり、シーンに応じた走りを自在に楽しめるのも魅力。コーナリングABSやブレーキコントロールも新たに搭載され、安心感のあるスポーツライディングを支えてくれる。
ちなみに一般的なスクーターはセンターフレームを持たない構造ゆえ剛性に限界があり、小径ホイールやエンジンと駆動系がいっしょになったユニットスイング方式によるバネ下重量の大きさも、安定性やハンドリング面ではネガ要因となる。これに対し、TMAXはアルミ製のツインスパーフレームとスイングアームに、前後15インチホイールを備えるなど車体構成は通常のスポーツバイク並み。まさにスクーターの枠を超えたスポーツマインドを味わわせてくれるのだ。

クルーザーにもツアラーにもなる万能マシン

TMAXにかかればワインディングも得意なステージへと変わる。高剛性な車体に加え、41mm倒立フォークとリンク式リヤサスペンションがしなやかに路面を捉えてくれる安心感。ライポジは腕をたたんで前傾気味に構えても収まりがよく、シート側面を使った外足ホールドにより、スポーツバイクのような一体感のあるコーナリングが可能。一方で、ステップボード前方に足を伸ばせばブレーキングで踏ん張れるうえ、クルーザー的な快適姿勢にも対応できる。厚みのある広いシートとバックレストが体重を分散してくれて長距離移動も苦にならないなど、まさに万能マシンと言える守備範囲の広さだ。
電子制御もさらに充実した。高精度のトラクションコントロールは濡れた路面でも確かな安心感をもたらし、スイッチひとつで素早く調整できる電動スクリーンやクルーズコントロール、シート&グリップヒーターといった快適装備がロングライドの疲労を大幅に軽減してくれる。進化した7インチTFTディスプレイはフルマップナビに対応し、スマホ連携機能USB-Cポートの追加で利便性も一段と高められた。
また、ヘルメットに加え小荷物も収まる大容量シート下トランクの便利さはスクーターなら
では。その一方で、シート高はどうしても高めになりがちだが、それは利便性とのトレードオフと割り切りたい。むしろ、新デザインによるスタイリングやプレミアム装備、さらにスポーツとツアラー双方の魅力を高い次元で融合させた完成度こそ、TMAX560 TECHMAXの真骨頂。そこに価値を見出せるライダーにこそ、ふさわしい一台だ。

スポーツバイクのような前傾ポジションでも、クルーザーのように足を前に投げ出したフォワードステップでも自由自在。コーナリング性能は通常のスクーターとは一線を画している。
パワフルでレスポンスに優れるエンジンや剛性感のある車体と足まわりが、街中のちょっとしたカーブでもスポーツマインドを感じさせてくれる。

スタイリング

走りの性能を誇示するだけではなく、大人が乗ってもサマになる品位やエレガンスを感じさせるシルエット。大型スポーツツアラー並みの堂々たるサイズもまた、このジャンルで唯一無二の存在感を際立たせている。

ライディングポジション(ライダー身長179cm)

ライポジは従来型を踏襲する。通常のスクーターに比べてハンドルはやや低く、ステップ位置は高めのスポーティな印象。シート高は800㎜で数値的には普通だが、車幅があるので足着きは多少犠牲になっているかも。ライダー身長179cm、体重73kg。

ディテール解説

特にフロント周りをブラッシュアップ。シャープさはそのままに、より落ち着いた大人っぽい雰囲気に洗練された。TECH MAX専用装備の電動スクリーンは左グリップ手元のスイッチひとつでスムーズに高さ調整が可能だ。
シート座面は広くフラットで安定感がり、側面はタンクや車体とも一体感のある形状でホールドしやすい。バックレストも大きく実用的で長距離での腰のサポートも心強い。TECHMAXはシートレザーも専用、シートヒーターも装備する。
シート下ラゲッジスペースは容量35Lで、ヘルメット1個と雨具などは余裕で収まるサイズだ。純正オプションで45Lのトップケースも用意されている。
フラッシャーをテールランプに統合したデザインは従来モデルを踏襲しつつより精悍に。フロント同様、リア側もTモチーフとすることでTMAXらしさを強調している。
最高出力48psを発揮する排気量561ccの直列2気筒エンジンは従来どおり。360度クランクには水平対向で配置された独自の往復式ピストンバランサーを組み合わせることで、低振動とスムーズな回転を実現。排気システムも改良された。
φ41㎜径インナーチューブの倒立式サスペンションおよび、対向4ピストン式ラジアルマウントキャリパー×ダブルディスクを装備するなど、足まわりからも“本気の走り”を志向したマシンであることが分かる。
リアブレーキはシングルディスクタイプ。ディスク前方斜め下にあるのがブレーキキャリパー。後方斜め上にあるのがパーキングロックで、左グリップ近くにあるレバーで操作する。
リア側は通常のバイクと同じスイングアームにリンク式モノショックを組み合わせる。駆動方式もベルトドライブなのでメンテナンスフリーだ。
7インチTFTのディスプレイを採用。表示パターンは3種類のテーマから選択でき、直感的に走行状況が分かるデザインになっている。スポーツモード(S)とツーリングモード(T)の2つの走行モードを選択できるD-MODEを採用し、走行環境やライダーの好みに合わせて選択できる。
ディスプレイの表示切り替えなどの操作は、左ハンドルスイッチのジョイスティックで直感的に行うことができる。TECH MAXにはクルーズコントロールも搭載。
右サイドにはフラップ付きの小物入れを装備。USB電源の他、ETC車載器を設置できるコンパートメントが設けられている。

スペック

全長/全幅/全高: 2,195mm/780mm/1,415mm
シート高: 800mm
軸間距離: 1,575mm
最低地上高: 135mm
車両重量: 221kg
定地燃費値: 35.5km/L(60km/h)2名乗車時
WMTCモード値:21.3km/L 1名乗車時
原動機:水冷・4ストローク・DOHC・4バルブ
気筒数配列: 直列, 2気筒
総排気量 561㎤
内径×行程: 70.0mm×73.0mm
圧縮比 :10.9 : 1
最高出力: 35kW(48PS)/7,000r/min
最大トルク:55N・m(5.6kgf・m)/5,250r/min
始動方式: セルフ式
潤滑方式: ドライサンプ
エンジンオイル容量: 3.50L
燃料タンク容量: 15L(無鉛プレミアムガソリン指定)
吸気・燃料装置/燃料供給方式: フューエルインジェクション
1次減速比/2次減速比: 1.000/5.771 (52/32×36/23×59/26)
クラッチ形式: 湿式, 遠心、多板
変速装置/変速方式 :Vベルト無段変速/オートマチック
変速比: 2.041~0.758:無段変速
フレーム形式: ダイヤモンド
キャスター/トレール: 26°00′/98mm
タイヤサイズ(前/後):
120/70R15M/C (56H)(チューブレス)/ 160/60R15M/C(67H)(チューブレス)
制動装置形式(前/後): 油圧式ダブルディスクブレーキ/油圧式シングルディスクブレ
ーキ
懸架方式(前/後):テレスコピック/スイングアーム(リンク式)
ヘッドランプバルブ種類/ヘッドランプ LED
乗車定員: 2名