ABSはタイヤのロックを防ぐ装置

ご存じの人も多いだろうが、ABSとは、「アンチロック・ブレーキ・システム(Anti-lock Brake System)」の略称だ。ここでいうアンチロックとは、「車輪をロックさせない」という意味。なお、「ロック」とは、ブレーキによって車輪の回転が完全に止まってしまう状態を示す。

要因は、たとえば、走行中に強くブレーキを掛けたこと。とくに、前方からクルマや人が急に飛び出してきたときのパニックブレーキなど、急制動時に起こりやすい。そんなときに、もし車輪の回転が止まってしまうと、おのずと地面と接地しているタイヤが滑り(コントロールを失い)、転倒などの事故につながってしまうことが多い。

ABSは、可能な限り、そんな状況にならないようにするための装置だ。制動時にタイヤのロックが発生した場合、これを検知し、すばやくタイヤの回転速度を回復し車体の安定を保つ役割を担う。

仕組みは、メーカーや機種によっても多少違いはあるが、たとえば、ホンダ車の場合、前後輪に搭載されたセンサーにより前後のタイヤ回転速度を検知し、これらに差がある場合は遅いほうのタイヤがロックしていると判断する。そして、ロックしているタイヤに対してはブレーキを緩めて回転速度を回復させた後、再度ブレーキング。これを1/1000秒単位で繰り返し行うことで制動力を確保し、車体の安定を保つという。

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ABSのシステム例(ホンダ車の場合)

なお、ABSには、ホイールのスピードを読み取るセンサーを使うが、一般的なバイクであれば、ブレーキディスクの中心付近にあるので分かる。円盤状のスリット入りパーツがあり、そのスリットでホイールスピードを検知するセンサーが付いていることが多い。そして、これらを見れば、そのバイクがABS付きかどうかが分かるというワケだ。

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ホンダ・CBR650Rのリアブレーキに付いているABSのセンサー類

ABSの義務化は2018年から

バイクへのABS装着義務化は、2015年1月に、国土交通省が「道路運送車両の保安基準」などの関係省令を2015年1月に改正したことによる。これにより、二輪車の制動装置について「先進制動システムの装備を義務付ける」ことになったのだ。

より具体的には、排気量125cc超の二輪自動車の場合、一定の技術的要件に適合したABSを装着することが必須に。また、50cc超~125cc以下の原付二種(第二種原動機付自転車)も対象で、こちらの場合は、必ずしもABSでなくてよく、CBSの装着でも可能とされた。

ここでいうCBSとは、「コンバインドブレーキシステム(Combined Braking System)」の略。いわゆる前後輪連動ブレーキのことだ。一般的なバイクのブレーキは前後を個別に操作するが、このシステムでは、前または後のいずれか一方のブレーキ操作で、前後輪どちらのブレーキも作動するようしている。

たとえば、ホンダの110ccや125ccなどのスクーターに採用されることの多い「コンビブレーキ」では、左レバー(後輪ブレーキ)を握ると前輪にもほどよく制動力を配分。バランスのいいブレーキングをサポートするという。

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コンビブレーキはホンダ製の125ccや110ccのスクーターに採用例が多い(写真はリード125)

メリットは、複雑な電子制御やセンサー類などが必要なABSと比べ、システムをよりシンプル化でき、コスト面でも優れていることなど。そのため、車体が小さく、価格も比較的安い小排気量のスクーターや、小型バイクなどに採用されることが多いといえる。

なお、ABSやCBSの具体的な適用時期は、新型車が2018年10月1日から。また、継続生産車に関しても、2021年10月1日以降に販売する機種に関して装着が義務化されている。

ABSやCBSにもタイプが様々

このように、バイクに装着が必須となっているABSだが、装着するモデルの性格や性能などに応じて、主に以下のようなタイプがある。

【シングルタイプABS】
タイヤのロックが転倒につながりやすい前輪のみに作用するタイプ。小排気量モデルに採用例が多い

【デュアルタイプABS】
高速域からの安定性を高めるため、前後輪に作用するタイプ。幅広い排気量のモデルで採用

【スーパースポーツ向けABS】
サーキット走行など、よりハードな走りに対応したタイプ。車両の挙動を検知することで、過度なノーズダイブを抑制するほか、コーナリング中のブレーキングなどもサポートする

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スーパースポーツ向けABSは、サーキット走行など、よりハードな走りに対応したタイプ(写真はCBR1000RR-RファイヤーブレードSP)

【オフロード向けABS】
オフロード走行などの状況下で前後ブレーキの使い分けが必要とライダーが判断した場合に、スイッチ操作でリアブレーキのみABSの作動を解除できるシステム

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オフロード向けABSは、スイッチ操作でリアブレーキのみABSの作動を解除できる(写真はCRF1100Lアフリカツイン アドベンチャースポーツES)

【コンバインドABS】
前後輪の制動力を自動で適切に配分するCBSと、ロックを抑制する「ABS」を組み合わせたシステム。大型ツアラーなどに採用例が多い。たとえば、ホンダの「ゴールドウイングツアー」では、フロントブレーキをかけるとリアブレーキにも制動力を配分し、リアブレーキをかけるとフロントブレーキにも制動力を配分。前後輪のブレーキを同時にバランス良く作動させることで、ブレーキングによって発生する過度なノーズダイブを抑制する。また、デュアルタイプABSにより、タイヤのロックも抑制する

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電子制御式コンバインドABSを採用するゴールドウイングツアー

新基準原付にはABSやCBSは付く?

以上が、現在バイクのほとんどに装着が義務化されているABSやCBSの概要だが、従来、50cc以下の原付一種(第一種原動機付自転車)は対象外。装着は義務化されていなかった。

だが、2025年11月から導入される新排出ガス規制の影響で、対応できない50ccバイクは基本的に生産終了となっており、その代わりとして新基準原付が登場した。

これは、最高出力を4.0kW(5.4PS)以下に制限した排気量125cc以下のバイクのこと。排気量125cc以下というと従来の原付二種と同じだが、パワーを抑えることで性能面を50ccバイクと同等としていることがポイント。対応モデルは、原付免許でも運転できるなど、交通ルールや法規上の区分を原付一種と同じ扱いにしている。

では、新基準原付の場合、ABSやCBSの装着はどうなるのか? これに関して、ホンダが発表した新基準原付の4タイプには、基本的にどちらかのシステムを採用している。

まず、ビジネスバイクの「スーパーカブ110ライト」「スーパーカブ110プロライト」「クロスカブ110ライト」。いずれも、110ccの「「スーパーカブ110」「「スーパーカブ110プロ」「クロスカブ110」をベースに、109cc・空冷単気筒エンジンの最高出力を5.9kW(8.0PS)から3.5kW(4.8PS)へ抑えて、新基準原付に対応したモデル群だ。

これらの場合は、前輪ディスクブレーキと前輪のみに作用する1チャンネルABSを採用。原付二種のベース車と同じ設定だ。

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スーパーカブ110ライト
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スーパーカブ110プロライト
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クロスカブ110ライト

また、スクーターモデルの「ディオ110ライト」。こちらは、「ディオ110」をベースに、109cc・空冷単気筒エンジンの最高出力を6.4kW(8.7PS)から3.7kW(5.0PS)にダウン。同じく新基準原付に対応させたモデルとなっている。

このモデルの場合も、原付二種のディオ110と同じで、CBSのコンビブレーキを搭載。前述の通り、左レバー(後輪ブレーキ)を握ると、前輪にもほどよく制動力を配分し、バランスよくブレーキングをサポートするホンダ独自のブレーキシステムを採用している。

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ディオ110ライト

このように、今では新車で買えるほとんどのバイクに標準装備されているのがABSやCBS。タイヤのロック防止や制動の前後バランス最適化などを生む有り難いシステムたちだが、気をつけたのは、これら装置は必ずしも万能ではないこと。くれぐれも、無理をせず、まさかの時には安全に停止できるようなライディングを心がけることが大切だ。