Ferrari 812 Superfast & Ferrari 12Cilindri
7年を経た2台のフラッグシップ

ここは嵐山高雄パークウェイのパーキング。鮮やかな赤と染み込む緑にそれぞれペイントされた2頭の跳ね馬が連なってやってきた。2頭の嗎(いななき)は微妙に違っている。聞こえてくるサウンドはいかにも合奏的で、異なる2つの楽器による演奏を聞いているかのようだ。
2頭とは、2017年にデビューした812スーパーファスト(SF)と、その7年後、2024年に登場したドーディチ(12)チリンドリである。7年という歳月が長いか短いか。昨今、電子制御や生産システム、マテリアル選択のテクノロジーは日進月歩であり、マラネッロの矢継ぎ早なニューモデル攻勢を見るにつけ、新技術を満載したニューモデルの投入を惜しんではいられない状況であることを考えれば、大いに長いというべきかもしれない。つまり、想像するに隔世あり。
パーキングという名の馬場に入り、鼻先を並べて2頭は静かに並ぶ。なるほどスタイルもまるで違えば、それぞれから受ける見た目の印象もまるで異なっていた。ほとんど同じボディサイズだというのに、緑の12チリンドリはより平べったく、赤の812SFはより肉厚である。その色合いが象徴するかのように、デザインそのものに洗練と躍動の対比があった。
V12エンジンをフロントミッドに押し込んだ2シーターFRのベルリネッタ&スパイダーシリーズ。この世代の始まりは実は12年のF12(クーペのみ)で、その誕生年と名称に必ず“12”を含んできたことから筆者は勝手に「12ジェネレイション」と呼んでいる。
名機F140系が辿る進化

812SFはエンツォ用を祖にもつ名機F140系エンジンの6.5リッター時代の幕開けであった。すなわち6.3リッターのF12用F140FCから、シリーズモデル用として初めて800PSを超えたG世代へとこのとき交代したのだ。F140GAを積んだ812SF以降、モンツァSP1&SP2にはF140GC、812コンペティツィオーネにはさらに世代が進んでF140HB、デイトナSP3にF140HC、そして今号の主役である12チリンドリにはF140HDがそれぞれ搭載されてきた。ちなみにプロサングエ用はF140IAと、すでに「I」世代となっている。
本稿の取材対象として高性能版の限定モデルを入れなかった理由は、シリーズモデルにこそマラネッロのロードカー戦略が如実に現れるということを私たちは経験上知っているからだ。F12tdfや812コンペティツィオーネといった高性能版は確かに人気だ。けれどもこれらの志向はパフォーマンス追及型という点で常に同じベクトルにあって、代ごと経験を重ねた知見による技術の進化というキャラクターがまずは際立つ存在である。ある意味、ブランドにとっての“飛び道具”、決して“主力兵器”ではない。ベースモデル無くして特別仕様は成立しないのであって、そういう意味ではシリーズモデルであるF12や812SF、12チリンドリのポジションこそ、その時代におけるブランドの戦略を理解する上で最も重要なファクターになるはずだ。
実を言うと、パークウェイでの取材の前日、私は東京から京都までのおよそ450km、12チリンドリをドライブした。その印象をひと言で表せば“洗練”だ。エンジンのフィールとサウンド、ミッションやサスペンションの動き、すべてがそれ以前の跳ね馬とは別次元のスムースさで、いい意味で“眠気を誘うほど”だった。快適かつ上質なグランドツーリングカー。天候が悪かったこともあって(実は嫌いではない)ウエットモードを多用したが、その落ち着きぶりはもはや超ラグジュアリーブランドのそれと匹敵する。ADASも当然ながら間違いなく作動する(ため、お節介に感じた場面も多かった)。京都までの5時間半、休憩はランチに一度きりで済ますことができた。
軽やかで洗練された走りの12チリンドリ

心配された雨も止み、路面もドライになってきたタイミングで、まずは12チリンドリでパークウェイを軽く攻めてみる。モードはレース。遠くで静かに嘶(いなな)いていたF140HDのV12サウンドもようやく“響く”ようになり、乗り手の心を前へ前へと突き動かす。アクセルペダルのプッシュをねだる観衆の掛け声のようだ。
右足に力を込めれば、一瞬にして車重が軽くなった。調律の効いたサウンドがボリュームを上げていく。マニュアル操作のアップシフトもまさに電光石火。感覚的にはダイレクトな変速フィールであるにも関わらず、実のところシームレス感も際立つ。変速感はあるのにショックがないのだ。エンジンの回転は実にスムース、そして精緻。レッドゾーンまで潔く、ストレスなくデジタルの針が駆け上がる。
そして特筆すべきは実に軽やかなハンドリングだった。タイトなコーナーでも車体を持て余すということがない。タイトであればあるほど、コーナーを思い通りに駆け抜けてくれるという感覚もまた新しい。最新馬の面目躍如ということか。そして勢い余った時の制動フィールもまた強力でしかもコントローラブル。加速、減速、コーナリング、すべてにわたって“思い通り”という印象が深まった。
アナログ感が心地いい812スーパーファストのインテリア


ロッソ・スクーデリアの812SFに乗り換える。コクピットはいかにも前世代デザインで、ローマ以降の新世代を見慣れた目には懐かしささえ覚える。それでも中央に鎮座するタコメーターには針が残っており感動した。余談だがマラネッロには是非ともアナログメーターを、せめて回転計だけでも復活させてほしい。多くのユーザーがそれを望んでいる。
赤いプッシュボタンを押した(これは最新モデルで復活した!)。最初の嗎からしてラウドだ。そして少々荒々しいが、それがいい。驚いたのはステアリングホイールが12チリンドリのそれと比べかなり小径だったこと。そのぶん、走り始めると車体を大きく感じる。もちろんホイールベースが2cm長いという意味ではそうなのだが……。
それにしても回転半径の大きいことよ。12チリンドリのリヤステア機構は正常進化であったと同時に、きっとカスタマーの要望に応えたものでもあったに違いない。
まずはウェットモードで走り出したのだが、それでも大きな嗎と硬派な脚のセッティングに驚く。正確には12チリンドリに比べてすべてがスパルタンである。ピレリPゼロの新品を履いていたので、ゴツゴツとした印象を少し差し引いたとしても俄然、ハードボイルドだ。
モードを先ほどと同じくレースにして速度を上げてみた。F140GAのサウンドは12チリンドリ用のHDに比べてかなりの轟音だ。エンジンの回転フィールには微かなフリクションさえあって、回転の上昇もリニア感でHDに劣る。けれどもそれがまた味わい深いのも事実。高回転域では微かに力を落とすあたりはご愛嬌か。変速ショックもわずかにあって、その刻みがかえって心地よい。
12チリンドリなら片手かつ鼻歌まじりでこなしたコーナーであっても812SFではそうは問屋が卸さない。より丁寧なアクセルワークが求められ、積極的な修正舵も必要だ。制動にはちょっとした重量感さえ伴う。ゆえに同じ速度域で攻めたにも関わらず、息を詰めることになった。812でワインディングを攻め込めば、そこらじゅうで格闘になるのだ。
12チリンドリが優雅なスラロームなら、812SFは過酷なモーグル。それくらいこの2台のキャラクターは異なっている。
極右スポーツの812、GTキャラの12チリンドリ


12チリンドリはマラネッロの理想とするオールマイティなのだろう。サーキットでは812コンペティツィオーネ譲りのパフォーマンスをみせ、オンロードではプロサングエも真っ青のグラントゥーリズモになる。一方、812SFにはデザインにも性能にもスポーツカーの匂いが濃く漂っている。
そういえばマラネッロは最近になって“12チリンドリはブランドのコアモデルである”と主張するようになった。スポーツ系は296シリーズや849テスタロッサ、GT系はプロサングエやアマルフィである。一方、812SFは現役時代、V8ミッドシップと並んでスポーツを代表するモデルであった。
812スーパーファストからスポーツの極右というべき812コンペティションが生まれ、そこからもう一度、GTキャラクターを加えて誕生したのが12チリンドリだったとすれば、この2台の明らかな違い、なんなら同じガレージに並んでいてもおかしくないくらいの相違も大いに納得できるというわけだった。
そして現実にはこういうことだろう。多くの12チリンドリカスタマーのガレージにはすでに812シリーズが収まっている。

REPORT/西川 淳(Jun NISHIKAWA)
PHOTO/タナカヒデヒロ(Hidehiro TANAKA)
MAGAZINE/GENROQ 2025年12月号
SPECIFICATIONS
フェラーリ12チリンドリ
ボディサイズ:全長4733 全幅2176 全高1292mm
ホイールベース:2700mm
乾燥重量:1560kg
エンジン:V型12気筒DOHC
総排気量:6496cc
最高出力:610.5kW(830PS)/9250rpm
最大トルク:678Nm(69.1kgm)/7250rpm
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボンセラミック)
タイヤ&ホイール:前275/35ZR21 後315/35ZR21
0-100km/h加速:2.9秒
最高速度:340km/h
車両本体価格:5674万円
フェラーリ812スーパーファスト
ボディサイズ:全長4657 全幅1971 全高1276mm
ホイールベース:2720mm
乾燥重量:1525kg
エンジン:V型12気筒DOHC
総排気量:6496cc
最高出力:588kW(800PS)/8500rpm
最大トルク:718Nm(73.2kgm)/7000rpm
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボンセラミック)
タイヤ&ホイール:前275/35ZR20 後315/35ZR20
0-100km/h加速:2.9秒
最高速度:340km/h
車両本体価格:──
【問い合わせ】
車両協力 RESENSE KYOTO
オフィシャルサイト フェラーリ・ジャパン https://www.ferrari.com/ja_jp/

