セミキャブオーバー型になって安全性と乗降性の向上を実現
トヨタがジャパンモビリティショー2025で公開したハイエース コンセプトは、前回ショーで発表された「KAYOIBAKO」の思想を受け継ぎながら、日本の建築・建設・設備業といった現場を重視して開発されたモデルだ。労働人口の減少や、女性・高齢者の現場進出といった社会変化を見据え、誰もが快適に働ける車両を目指している。

最大の特徴は、現代の衝突安全基準に対応するために従来のフルキャブオーバー形式から脱却し、ショートボンネットを持つセミキャブオーバー形式を採用した点だ。エンジンを運転席下から前方へ移動させたことで、前輪位置も運転席より前に配置。これにより従来の「よじ登って飛び降りる」ような乗降動作が不要となり、ステップを利用したスムーズな乗り降りが可能になった。体格の小さいユーザーや女性にとっては朗報だろう。

もちろん、ハイエースの命ともいえる荷室空間も犠牲にしていない。床面も大幅に…とまではいかなかったようだが低くなっている。セミキャブオーバーとなったことで荷室長が心配だが、助手席は取り外せる構造として、さらに運転席後方を完全にフラットな荷室としたことで、8尺(約2.4m)の脚立はもちろん、3mの長尺物も余裕を持って積載可能な空間を確保。ちなみにシートレイアウトは、用途に応じてさまざまなバリエーションの設定を想定している。

コンセプトモデルではBピラーレスの観音開きドアを採用しているのも目を引く。横からの荷物の出し入れや長尺物の積載が格段に楽になりそうだ。ただし市販化に向けては、耐久性との両立が課題となるだろう。
ユーザー自身の手によるカスタマイズ性も重視している。荷室の天井や床にあらかじめボルト穴を設置することで、ユーザーは棚などを自由な位置に固定できる。メーカーが完成形を押し付けるのではなく、仕事やライフスタイルに応じて空間を創造できるプラットフォームを提供する思想だ。

コクピットまわりもコンパクトに設計され、アタッチメントを取り付けたりできる拡張性を確保。横一文字のデジタルディスプレイには、次の現場への到着時刻やタスクリストなど、仕事に必要な情報を表示する機能も想定されている。商用車ユーザーが最も重視する「ダウンタイム(車両の稼働が止まっている状態)」をなくすための配慮だ。

ハイルーフ/スーパーロング/ワイドのメディカルムーバーも登場
標準モデルが「物流」を主眼に置く一方、ハイルーフ/スーパーロング/ワイドを想定したコンセプトモデルは「人流」、特に医療・福祉分野での活用を想定したもの。メディカルムーバーの進化形として位置づけられ、車椅子用リフト、各種センサーによる体調モニタリング、オンライン通信を利用した医師の遠隔診療機能などを装備。地方や過疎地に住む人々が、どこにいても質の高い医療・福祉サービスを受けられることを目指している。
パワートレインはトヨタが掲げるマルチパスウェイ戦略に則って、特定の方式に限定せず、各地域のエネルギー事情やニーズに合わせた「ベストなユニット」を搭載する方針だという。
今回の発表はユーザーからのフィードバックを収集するための重要な機会と位置づけられている。現行ハイエースが20年を超えるロングライフモデルであることから、次期モデルも長期にわたって使われることを前提に、寄せられた意見を反映させながら慎重につくり込んでいく方針だ。信頼性・耐久性の確保も開発における重要なテーマとなっている。市販化の具体的な時期は明言されていないが、トヨタの次世代商用車戦略の本気度が伝わってくる、注目のコンセプトカーだ。