壇上では三菱ふそうトラック・バス代表取締役社長のカール・デッペン氏がスピーチ。


同氏がまずアピールしたのは、日本初の量産型電気小型トラック「eキャンター」をベースにした、デジタルソリューションモデルの「COBODI(コボディ)」だ。
物流業界が直面する人手不足の問題や労働負担を軽減すべく、クルマのメカニズムに工夫を凝らした・・・のではなく、荷箱の方に大きな工夫を与えたクルマだ。
同氏は「このコンセプトは、スマートかつ人の動きに即したデザインになっており、ルート計画と荷役作業を最適化する」と語る。

スマートな配送業務ができるよう、荷室に工夫が施された「COBODI(コボディ)」。

もうひとつ、カール氏が紹介したのが、水素駆動の大型トラック2台だ。

なぜ2台なのか?

「カーボンニュートラルな輸送の実現には万能なソリューションは存在しないと考えている。顧客のニーズ、社会全体にとって最適なソリューションを見つけ出すには、複数の技術を吟味する必要があるが、問題はその選択で、外的要因に大きく左右され、水素の供給やその可能性、インフラの成長や顧客のニーズにもよっても変わるし、時間によっても変わってくる。先々どうなるのか、誰にも予測できないことから、われわれは2つの水素技術を併行して開発した(同氏)」と。
つまり、水素駆動の大型トラックの未来を、近未来と遠未来(?)の2段構えで考えているわけだ。

三菱ふそうトラック・バスの代表取締役社長CEO カール・デッペン氏。

まず近未来型は、「H2IC(エイチツーアイシー)」だ。

水素ガスを燃料に走る「H2IC(エイチツーアイシー)」。

これは水素ガスをエネルギー源とする大型トラックで、最大航続距離700kmを誇る。
実績のあるディーゼルエンジンをベースに水素で走れるようにアレンジ。既存のエンジン部品の8割を流用している。
顧客にとっての何よりもの大きなメリットは、水素で走るといっても、実績が立証ずみのエンジン技術を流用しているから初期投資(イニシャルコスト)が安く済む点だ。
実際にハンドルを握るドライバーからすると、いままでのディーゼルエンジンと同様だから安心して使えるのもメリットだ。
このことから、「業界全体の水素技術へのシフトがより迅速に、かつスムースになるはずだ」と同氏は期待する。

同じようなスタイルを纏いながらまったく異なるアプローチで隣に並ぶのが、遠い未来を向いた「H2FC(エイチツーエフシー)」だ。

こちらは液体水素を駆動源とする、燃料電池大型トラック「H2FC(エイチツーエフシー)」。
H2FCの運転席。

こちらは燃料電池システムを持ち合わせ、より高い効率性と運用コストの低減を実現する。
というのは、最大航続距離は1200kmで、水素の充填時間がたったの15分! だからだ。
HFICに対して水素タンクが荷室容量を減らさずに済む2本なのもメリットだろう。
これら数字は、分刻みで動く運送業界に対しても大きな説得力を持つ。
燃料電池は新しい技術だけに価格を押し上げるが、1200kmの航続距離からわかるように、燃費がいい・・・すなわち運用コスト=維持費・ランニングコストが安いのが利点だ。

H2FCの維持費安の秘密はもうひとつあって、H2FCはサブクール液体水素を使用している。
このことにより、水素輸送コストの大幅低減、簡単な充填作業、シンプルなインフラ(=水素ステーション)の構築が可能となるという。
これらに「長い航続距離」と「短い充填時間」が組み合わされば、1つの水素ステーションがカバーする走行エリアが広がるのと同じになるわけで、それはつまり「結果的に水素ステーションの数が少なくてすむということにつながる」と同氏は口調を強くする。

EVシフトだ、水素で走ろう、ガソリンスタンドが減っているとはいっても、いま街を走るクルマを見れば、ガソリン車やディーゼル車がまだまだ主流だ。

これらを一挙に新エネルギー源に置き換えようというのは無理がある。

三菱ふそうトラック・バスが、直近は顧客に大きな負担を強いらずに済む、既存技術ベースの水素ガスで走らせ、やがてはより低燃費性と使い勝手に優れる燃料電池車にと、大型トラックの水素駆動化を2ステップで考えていることがわかる、カール・デッペン社長のスピーチであった。