スバルらしい低重心の構えがイイ

車体パッケージングは人中心。理想の運転姿勢がとれるのはもちろんのこと、リヤ席を含め乗員スペースを犠牲にしない設計。フロントに加えてリヤに搭載するeアクスル(モーター+インバーター+減速機)は徹底的にコンパクトに設計し、低い位置に配置する。床下にリチウムイオンバッテリーを搭載するのはBEVの定番的レイアウトだが、パフォーマンスE STIコンセプトは低ハイトの円筒形セルを採用し、BEVでしか実現しえない低重心を実現する。

これにより、室内スペースを確保しながら全高を抑えることが可能で、従来のガソリン車に対して15%以上の低重心化が可能になるという。また、低ハイトのバッテリーのおかげで全高を低く抑えることができる。そのため空気抵抗の低減につながり、エネルギー効率が向上する。バッテリー容量を増やすのではなく、エネルギーを賢く使うことにより走りを磨く考えだ。

リチウムイオンバッテリーは正極材にリン酸鉄リチウム(LFP)ではなく、ニッケル、マンガン、コバルトを使う三元系をあえて選択した。その理由をスバルは、LFPに比べて高出力であること、長寿命であること、(同じ容量なら)軽量にできることの3点を挙げる。
長寿命を可能にするのは冷却システムだ。パフォーマンスE STIコンセプトは個々の円筒形セルの側面に冷却プレートが接するようにして直接冷却する方式を開発している。これによりセルを常に最適な温度に保ち、クルマのライフを通じて安定したパフォーマンスを発揮するという。
Dynamic Stiffness Concept(新車体動剛性コンセプト)
技術者のひとりは熱マネジメントについて次のように説明してくれた。
「熱マネジメントは重要です。室内の温調とバッテリーの温調はなるべくひとつにまとめて効率を上げたいと思っています。冷却水は重いので、いかに冷却回路を短くするかが重要。また、チラーからバッテリーパックまでのホースで熱を逃がしてしまうので、いかに短くするかがポイント。いかに短い配策でいけるかを最初に考えました」
このコメントを聞くだけでも、スバルが本気でパフォーマンスE STIコンセプト(あるいはその先の量産化)を本気で考えていることがうかがえる。

プラットフォームも新規に開発する。「Dynamic Stiffness Concept(新車体動剛性コンセプト)」を掲げ、軽量かつ高効率な車両を実現し、現行のスバルグローバルプラットフォーム(SGP)を超える動的質感、雑味のないしっかり感、ドライバーが意のままに操れる感覚を高次元で提供すべく開発を進めている。
車体剛性の新しい考え方は、「剛性が高いのに走りがしっくりこない」体験をするいっぽうで、「データ上は剛性が低いのに違和感がない」という正反対の体験をしたことに基づく。こうした体験とさまざまなデータ分析を組み合わせて導き出したのが、ダイナミックスティフネスコンセプト。より具体的には、エネルギーの流れ、伝達時間、周波数を設計対象として扱う新しい剛性思想だ。
「周波数はものすごく重要です。静的に硬い、柔らかいではなく、どういう時間でエネルギーが伝わるかが重要。例えば、フロントタイヤから入ったエネルギーが床下を通ってリヤタイヤに伝わる時間と、上屋を通って伝わる時間は違う。そこをうまくコントロールすることで、クルマ全体で力を伝えられるようになります。BEVで多いのが、上屋を通ってリヤタイヤに力が伝わった後にバッテリーパック経由の力が伝わるケース。これが違和感につながる。いかに同じタイミングでエネルギーが流れるかを、解析技術を駆使して作り込んでいます」
振動の固有値をチューニングすることで実現するので、板厚や板組を変えて(できるだけ重量増にならないようにし)コントロールすることになる。
サスペンションも新設計だ。フロントはハイマウントアッパーアーム(リンク)を持つダブルウィッシュボーン式。リヤはマルチリンク式だ。フロントにダブルウィッシュボーン式を採用することにより、サスペンションの転舵軸とタイヤの回転中心との距離、いわゆるマスオフセットを小さくすることができる。これにより、応答性向上を狙う。
リヤはSGPで採用するトレーリングリンクタイプのマルチリンクではなく、ラテラルリンクのみで構成するフルマルチリンク式を採用。大きな駆動力を伝えつつ重たいeアクスルを抱えることを考えた場合、加えて、バッテリーパックとの干渉を考え合わせると、トレーリングリンク式よりラテラルリンクタイプのほうが向いているとの判断だ。
AWDだが、メインは後輪


フロントとリヤのモーターは、リヤ基調をイメージしている。フロントは転舵の役割を持っているので、駆動力は少しリヤ側に寄せ、ヨーコントロールに使う思想を入れる。そのほうが気持ち良く走れるから、ということだ。
パフォーマンスE STIコンセプトは、ドライバーの思い通りにコントロールできるハイパワーAWDとすべく開発は行なわれた。
「BEVだからこそ、各社の個性が出ると思っています。我々は長年AWDを研究し、データ化して蓄積している。そのためBEVとの相性はいいと考えています。我々は一時期、スバルのAWDの良さは何だろうと必死になって分析したことがあります。全部わかったうえで作ってきたわけではなかった部分があったからです。分析した結果、AWDの良さを数値として持つことになった。それがBEVでも生きてくると考えています」
各輪にモーターを配置する4輪モーターはコストの観点から考えていないという。いっぽうで、後輪操舵は将来の拡張性を確保する観点で検討しているし、可能性はあるとの認識だ。
「我々スバルは本気」

では、空力面で目につくポイントを見ていこう。ボンネットフードのダクトは熱交換器の熱気抜きというより、純粋に空力的な効果を狙ったものだそう。フード内の空気を抜いてスムーズにルーフに流す意図。フロントバンパー両端には開口部があり、空気がフロントタイヤの側面に抜ける仕組み。いわゆるエアカーテンで、フロントタイヤ起因の乱流を整えてドラッグ(空気抵抗)を減らす狙い。ゴールドに輝くホイールカバーも空力的な効果を狙ったものだ。








床下はフラット。リヤバンパーは下側を意図的に後方まで延ばしているという。これにより車両後方で発生する(ドラッグの原因になる)渦の発生を防ぐ。リヤウイングが左右でつながっておらず切れているのは、ダウンフォースとドラッグのバランスを考えてのこと(ドラッグを減らしたい)。翼端板はヨー方向の安定性に寄与する役割を担う。
空力を重要視するならサイドミラーをデジタルにすれば? と質問すれば、「安全性の観点から考えていない」との返答。「我々は直接視界を大切にしたいと考えています。これはショーカーなので小さなミラーが付いていますが、物理ミラーは残していきたい。(デジタルミラーは)距離感がわからないので安心して走れませんから」

スバルの安全性に関する姿勢が伝わるエピソードである。パフォーマンスE STIコンセプトは、日々の運転で思わず笑顔がこぼれてしまうような、「Everyday Supercar」を目指しているという。「我々スバルは本気」という言葉を聞くと、このコンセプトカーを見る目が変わってくるというものだ。
