空力を意識したスタイリングに大刷新!
今回のショーで筆者がいちばん興味を惹かれたのが、20年の時を経て大幅な改良を受ける日野自動車の大型観光バス「セレガ」だった。
バスやトラックに詳しくはないものの、日野や三菱ふそう、いすゞなどのバスのホームページをときおり覗いてはいた。
日野がそのセレガの改良型を展示するというのである。見ない手はない。
特に子供たちはこういった乗りものが大好きだ。
本記事は新型セレガと現行セレガの変化点を、未来の子どもたちのために(本当は自分の趣味)、細かーいところまでお見せする。
半ば一種の偏向報道になることを、今回ばかりはお許し願いたい。

日野は、新型セレガの改良点として、外形デザイン刷新、安全性向上、燃費性能向上の3つをPRしている。
1.外形デザイン刷新 → 後述
2.安全性向上
・出会い頭警報、左折巻き込み警報、車線変更警報機能追加
・流体式リターダ
・可変配光型LEDランプ
・標識認識システム
3.燃費性能向上
・デザイン刷新による空力性能向上
・12段AMTの起用
・低燃費タイヤの採用(転がり抵抗低減)
本稿では新型を写真で見せるのが主眼なので、2と3は省略。
気をもんでいる読者のために、写真とともに新型セレガをさっさとお見せしよう。
まずは大きく変わった外観から。
●外観
・フロント
変わったのは車両の前後デザイン。
「風を受け流す抑揚ある艶やかな“ラウンディッシュデザイン”」がメーカーの謳い文句だ。
アングルが異なるのが申し訳ないが、新旧比較すると、サイドからフロントにかけて流れる、セレガの特徴であるシルバーJラインが、フロント先端でラウンディッシュ形状に変わったバンパーとなじむ形に変化した。
いうなれば、フロントに受けた風の通り道をJラインで可視化したイメージ。



フロントランプは可変配光型LEDになったこと、いま風にライン状の車幅灯になり、併せて輪郭も変えたからキリッとした目つきになった。
バンパー下角にはコーナーリングランプが追加されている。



・リヤ
従来、乗用車のようにルーフ後端だけで完結させていた空力処理を左右にまでまわり込ませ、上からランプ直上までのコの字型でフィン形状にした。
現行型はリヤガラスがサイドにサラウンドしているように見えるが、両端は黒のガーニッシュ。
新型は周囲がコの字になったことからガーニッシュのまわり込みをやめ、ほどほどサイズのガーニッシュにしてある。
というわけで、ガラス形状そのものは新旧同じだという。




同じといえば、日野のマークやナンバープレートが貼られるパネルや、その下のリバースランプが収まるパネルの2枚の形状は現行型と同じで変わっていないという。。
リヤランプはLED化され、サイドへのまわり込みが抑えられて結果的にタテ長スマートになった。


なお、ボディサイドは「まちがい探しレベル程度にしか変わっていない」というが、サイド最後端ガラスと隣り合うパネルは変わっているようだ。
●内装
内装は変化が少なく、主にカラーリングが変わったのだそうで、従来暗い色調だったのが明るいベージュ基調になった。
もっともバリエーションはいろいろあるだろうから、従来のものが新型でも継続するものがあると思う。
内装の項は、ふだん報じられることのない部分をたくさんの新型写真でお見せしていく。
・すべてはここから・・・ラウンディッシュエントランス
左サイド前端のドアを開けると、洒落たネーミングのラウンディッシュエントランスが乗員・乗客をお出迎え。
なるべく段差が小さくなるように設計されているが、感心したのは造りが住宅の階段と遜色ないことだ。
夜間の乗り降りを助ける照明も1段目ばかりか2段目にまで設置されるなど、乗り降りするひとへのやさしい配慮がある(これくらいのことは他社もしているだろうが。)。
夜間照明は、飾りの間接照明も含め、点消灯のタイミングを間違えなければいくらあってもいいと思っているほどだ。
いいぞ、セレガ!

・運転席
運転席だけ独立したスペースになっている。
これがミニバンや従来のフルキャブ1BOXなら「家族から疎外され、何だか運転手になったようでイヤだ」と嫌われるレイアウトだが、バスは本当に運転手だからこれでいいのだ。
計器盤は完全にドライバーオンリーの形状になっていて、ハンドル左右の操作部はドライバーを囲むようになっている。
本当に運転手だからこれでいいのだ。


・ハンドル
日野自動車はトヨタグループの会社。
だからハンドルもトヨタ車で見かけたような、そうでもないような形状になっている。
左右スポークにはオーディオやオートクルーズのスイッチがある。
そういえば高速道路で見かけるバスはオートクルーズで走っているのかな・・・

・ハンドル左のスイッチ群
乗用車では見慣れぬスイッチが。
車高調整やサスペンションのソフト/ハード、パワーステアリングのライト/ヘビーなどの切り替えスイッチのようだ。
ハンドルの重い・軽いの選択機能は乗用車にも転用してほしいものだ。

・ハンドル右のスイッチ群
上には車線逸脱警報などのスイッチが並ぶ。
下の空調パネルは、たぶんドライバー席用のものだろう。

・運転席右サイドのスイッチ群(上面)
ドライバー右にはひー、ふー、みー・・・3×8=24個ものスイッチスペースが。
何だかずらりと並べたバーモントカレーのルーを見る思いがする。
室内灯の照度調整や、前装飾灯、通路灯、ステップ灯、オーディオ機器、湯沸かし器(!)に冷蔵庫などのON/OFF・・・オーディオ以外は乗用車では見かけないスイッチがが並ぶ。
ここは走る・曲がる・止まるの性能とは関係ない、アクセサリー趣向デバイスのスイッチの置き場のようだ。
フル装備にするとここが全部スイッチで埋められるセレガが存在するのかどうかわからないが、これだけ並ぶとさぞ爽快な眺めだろう。
いっぽう、手探りで操作するのはまず不可能だ。

・運転席右サイドのスイッチ群(壁面)
ここにも空調スイッチが。おそらく客席の空調操作用だろう。
エアコンユニットは車両前方の天井に配される。
空調スイッチの後方には電動ミラー関連のスイッチが並んでいる。


・シフトダイヤル
ATシフトはダイヤル選択。
写真のN(ニュートラル)から押して左まわしでR(リバース)、右まわしでD(ドライブ)だ。

・これなーんだ?
運転席背後の窓際シートは乗客用だが、ドライバー用でもある。
どういう意味か?
ご注目は前方パネルの右半分。
下3分の2が開きそうな見てくれになっているが、すぐ向こうは運転席シートだし、もの入れではなさそうだ。
実はだね、これは目的地(観光先など)で乗客が出払って戻るまでの間、ドライバーが休息を得るためのオットマンになっているのだ。
手前に引いて水平に開き、シートに座ったドライバーがここに足を載っけて休むというわけ。

というわけで、承諾を得たうえで、日野自動車の説明員の方にご出演いただいた。
こう使うのよ。
↓



こういうのは聞かなきゃわかんないもんだね。
・バスガイドさん用シート
「ガイド専用席」のシールからわかるとおり、ここにはバスガイドさん用のシートが格納されている。
ひとつふたつ乗客シートが空いているならそちらに座るのだろうが、満員御礼フル乗車の場合はここに座ってくださいというわけだ。
いっちょ前にといっちゃあ何だが、ちゃんとELRの3点式ベルトがついている。



それにしても、ベルト付きでこれだけ薄くすることでスマートに格納できる椅子が造れるなら、3列シート車の3列めシートなんて、その腕前でいまよりもっと上手に造れてもよさそうだ。
・みなさま、本日は当観光バスをご利用いただきまして誠に・・・
とガイドさんが挨拶するためのマイクの操作パネル(ガイド席マイクジャック)。
音量の他、エコー量も調整できるようだから、エコーを最大にすれば、
「みなさま、さま、さま、さま・・・、本日は、じつは、じつは、じつは・・・」
となるのだろう。

・客室
次項に述べるシート表皮の変更や、カーテンや床の色も変えたというから室内全体が明るくなっている。
大人数を載せるだけに隅の隅までキャビンになっていて、当然床もフラット。
キャビン前後それぞれから撮った写真をお見せしよう。
手前から向こうに並ぶシートバックがドミノみたいだ。


・乗客シート
乗客シートは表皮と模様を新しくした模様(しゃれ)。
背後には後ろの席のひと用に、折り畳み式のドリンク置き場に荷物フック、ネット状の雑誌ラックがある。
昭和時代の観光バスなら、ここにはねじで留められた栓抜きと灰皿があったものだが、いまはガラス瓶の飲料は見かけないし、嫌煙の禁煙の時代だから、なくても文句は出ないのだろう。


・中から見るJライン
外観に見る、セレガだけのシルバーのJラインは、室内側からはこのように見える。
トリム上のタテの白いラインはただの飾り。
これがないとただトリミングになって重く見えるため、それを軽減するためにつけたらしい。
実用機能は特に与えられていない。

細かいなと思うのは、この斜めラインが無用の場合、レスオプションでJラインを省いた、ただのはめ殺し窓の仕様と、Jラインレスに加え、他の窓と同じく前後に互い違い開閉する窓の2種を用意していることだ。
その場合、特徴的なJラインはウエストライン下で終わることになる。
ただし、実際には乗客として長時間ここで過ごさないとわからないのだが、写真を撮るときに見た限り、意外と邪魔に感じることはなかった。
・天井のおもてなしセット
・・・というのは筆者の勝手な命名だが、「観光バスに乗っている!」という特別感を抱くのは、各シート頭上=荷物棚下面に設置された、空調吹出口とスポットランプ(メーカー呼称・読書灯)を目にしたときだろう。
ランプスイッチが併設されているが、これはボーイングやトライスターなどの旅客機のように、立ち上がらなくても点消灯できるよう、手元にスイッチがあるといいと思う。

・天井間接照明
前項おもてなしセットの通路側には照明が施されている。
「間接照明」とは光源が何かの陰に隠れ、見えないところから光だけがほのかに灯るのが定義なのだが、これは思いっきり目に見える配置になっている。
それはそれとして、このような照明は品よくほのかに照らしてくれるのがいい。
白よりは電球色のほうが暖かみがあっていいと思うのだが、やはり白が流行りなのかな。

・荷物棚
荷物棚は、乗客頭上で車両前後にシャキンッ! と一直線に伸びる、伸びる、伸びる!
くれぐれもまちがえて隣のひとの荷物を持ち出したり、スペースの奪い合いでケンカしないように。
要所要所に見えるのは、乗客全員に音声が届くように配されたスピーカーだ。


・モニター
昔のバスはブラウン管のテレビが天井側に備えられていたものだが(あんな重いもの、よく天井からぶら下げていたものだ)、いまどきそんなものは装備しない。
ましてやデジタル放送時代のいまなら、格納式の液晶モニターだ。
長距離走行中、老人会のじっちゃんばっちゃんがフル乗車なら「男はつらいよ」を流し、小学校のチビたちの遠足ならドラえもんの映画を見せるのだろう。
実際、夕方の高速道路で観光バスを横から追い抜くとき、窓を通して寅さんが映っているのを見たことがある。

これらを再生するオーディオユニット一式は、ラウンディッシュエントランス左サイド(要するに乗用車なら助手席正面グローブボックスの位置)にある。

・天井のふた付きもの入れ
さきのドライバー休憩席あたりの上方にはふた付きのもの入れがある。
たぶん乗務員用のものだろう。
防犯のためのキーも付いている。


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JMS2025記事としてはマニアックで、長めで写真の多い記事だったが、バスの細部なんてそう見られるもんじゃないと思い(読者のみなさんだけじゃなく、筆者も)、このように構成した次第。
お楽しみいただけただろうか?