ドラッグ増加なしで空力効率+20%






フェラーリはレースで得た知見を市販車に還元するブランドだが、「296 スペチアーレ」ではその哲学が空力面でとくに明確に表現されている。296 スペチアーレは、ベースとなる296 GTB(以下、GTB)に対してダウンフォースを20%増加し、250km/hで435kgというダウンフォースを発生しながらドラッグ増加を伴わないという。
特筆すべきはその増加分が70%フロント、30%リヤから発生し、ターンイン性能とコーナリングスピードを両立したことだ。フロント部には、GTBベースのワンメイクレーシングカー「296 チャレンジ」から受け継いだ「エアロダンパー」を採用した。これによって加減速でフロントのライドハイトが変化しても、フロントのダウンフォースが安定しやすく、フロントグリップの安心感が増加した。他にも「296 GT3」からは、フロントボンネットサイド左右に備わるルーバーが導入され、タイヤハウス内の気圧を低減して、フロントリフトを抑えるという。
これらの空力はもはやレーシングカーに迫る領域である。そして空力面におけるGT3、フェラーリ・チャレンジの技術展用の他にもF1、WECといった複数カテゴリーからの技術的インスピレーションが、このモデルの開発に活かされている。
再設計されたリヤセクションとディフューザー



リヤセクションは航空機の翼断面を想起させる造形となっており、コーナリング中の安定性を向上。アンダーフロアは細部まで再設計され、とくに側方の絞り込み部を改良したという。「FXX-K」と296 チャレンジからアイデアが流用された、特徴的なリヤのサイドウイングが生むアップウォッシュと組み合わせ、リヤのダウンフォースを強化した。これにより、高速コーナー進入時でもリヤの接地感が明確に伝わり、ドライバーはより安心して限界域を試すことができる。
さらにGTBにも装備されるアクティブリヤスポイラーは、高速に作動するアクチュエーターを採用したことで、GTBでは「LD(低)」「HD(高)」の2モードに「MD(中)」を追加した。新たに追加されたMD=ミディアム・ダウンフォースは、高速域で横Gが小さい場面で効果を発揮し、296 スペチアーレのトップスピードはこのMDモードで達成されるという。
機能と美の共鳴点

296 スペチアーレのデザインは、チェントロ・スティーレとエンジニアリング部門が緊密に協働し、「造形と機能の境界を消す」ことを目的に進められたという。その結果誕生したのが、空力効率と美意識が高次元で融合したピュアスポーツなのである。
その走りはフェラーリが培ってきた技術と情熱のすべてを表現している。296スペチアーレは空力性能をそのものを芸術に昇華させた、フェラーリの新たな技術だ。
