クルマの家電化ならぬ家電メーカーの自動車メーカー化

1990年代「目のつけどころが、シャープでしょ。」のキャッチコピーで、一躍ブランド価値を高めた家電メーカー「SHARP(シャープ)」。紆余曲折あって、2016年に台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下となったが、日本の家電市場においてシャープが一定のブランド力を持っていることは、多くが認めるところだろう。
そんな伝統ある家電メーカーが、自動車事業に参入することは自動車業界に関わる人ほどインパクトを感じるはずだ。
電気自動車の黎明期には「異業種からの参入が増える」という予想もあったが、現実的に家電メーカーが完成車を製造する設備を整えるのは現実的ではないというが業界人の見方だったからだ。
「EV時代には、家電メーカーが自動車メーカーになる」といった10年ほど前にはよく見かけた経済評論家の発言を、自動車評論家は冷笑していた節もある。
実際、ソニーとホンダののコラボレーションにおいては、商品企画やブランド力においてはソニー(家電メーカー)の知見を活かすとしても、製造自体はアメリカ・オハイオ州にあるホンダ(自動車メーカー)の工場が担うスキームになっている。
シャープがオリジナルの電気自動車を作るということは、業界的には「まさか!」といったレベルで、おおいに驚く話なのだ。
もっとも、すでに発表されているように、シャープが完全に独自のニューモデルを開発するという話ではない。
鴻海のBEVプラットフォームを活用、2027年度の事業化を予定

シャープが鴻海傘下であることは冒頭で触れたが、このBEVプロジェクトにおいても鴻海のリソースを活用している。具体的には、台湾にて70年以上の歴史を持つ裕隆汽車によって製造される、鴻海BEVプラットフォームをベースにしている。
そこにシャープらしい商品企画を乗せたのが、ジャパンモビリティショーに出展したコンセプトカー「LDK+」であり、コンセプトは「パーク・オブ・ユアホーム」となっている。
駐車中にユーザーベネフィットを生み出すということであり、具体的には、パーク(駐車)しているときに家(部屋)として使うことができる。
駐車中の価値を前面に押し出すという視点は新しいし、いかにも家電メーカーらしい切り口だと感じる。自動車メーカーであれば、どうしても「クルマは走ってナンボ」と考えがちであるからだ。
その意味でも、このコンセプトはまさに「シャープらしい、目のつけどころ」といえる。そうした新しい価値提案を評価するユーザーが一定以上いれば、ビジネスとしても成功すると感じる。
筆者がジャパンモビリティショーにおけるLDK+の展示を見たたときは運転席を反対方向に回転させて、後席の幅いっぱいといえるサイズのスクリーンを展開したホーム(カー?)シアター・モードとなっていた。
後ろ向きにした運転席の前にはテーブルも用意されており、映画鑑賞のような趣味の世界だけでなく、テレワークでの仕事部屋にも活用できそうな雰囲気だった。
たしかに、BEVであれば車両側の空調を使っていても排ガスは出ないし、戸建てで普通充電設備を用意していれば、車載バッテリーの消費を気にすることなく利用できる。プロジェクターやオーディオ、パソコンなどの家電との相性もいい。
まして都市部で増えている狭小住宅であれば、もうひとつの部屋としてマイカーを利用するメリットは大きい。まさに駐車中に価値を生み出すクルマであり、それは既存の自動車メーカーからは生まれづらいアイデアでもある。
ちなみに、コンセプトカーのスタイリングは決定したものではなく、あくまでも叩き台といった位置づけのよう。「パーク・オブ・ユアホーム」というコンセプトに則って、まだまだ進化する可能性は大きい。
なにしろ、シャープのBEVは2027年度に日本市場への投入が予定されている。事業化にあたっては、クルマ単体の完成度だけでなく、販売ネットワークの整備など課題も多いだろうが、「停まっているときに部屋になるクルマ」には少なからずニーズがあるだろうし、その実現に期待したい。
そして、量産する際には、Bピラーレスの開放感ある開口部についてはマストで残してほしいと思う。この開口部をテントとつなげることができれば、エアコンを効かせたオートキャンプといった楽しみ方もできそうだ。

