新型XC90:先進性と温かみを両立したフラッグシップSUV

ボルボのフラッグシップSUV、新型XC90(Ultra T8プラグインハイブリッド)を2台をじっくりと見る機会を得ましたのでCMF観点からのレポートをさせていただきたいと思います。

今年3月にモデルチェンジしたこのXC90は、新世代の電気自動車モデルとのデザイン親和性を高めるアップデートがなされています。エクステリアは、フロントとリアがよりシャープになり、先進的な印象を強めました。ボディカラーには、新色のマルベリーレッドが追加されています。

インテリアは、前モデルの骨格を踏襲しながらも、水平基調のシンプルでしっかりとした佇まいを維持。リサイクル素材や再生可能素材を積極的に使用し、モダンかつ上質な空間へと進化しました。内装色には、ダークカラー1色とライトカラー2色が用意され、新色の「カルダモン」は、温かみと親しみやすさのある、わずかに赤みを帯びたライトベージュです。

ボルボに感じるデザイン哲学:普遍的な心地よさ

ボルボのCMFからは、一貫したデザインフィロソフィーの奥に、北欧特有の深遠なフィーリングが感じられます。特に、どんな空間でも「心地よさが基本」という人間の本能的な感覚を重視したインテリアには、強く惹きつけられます。これは、北欧の人々が大切にする「ラーゴム(Lagom)」・「ヒュッゲ(Hygge)」※1といった、心地よさやバランスを重んじる文化と共通しています。

近年、住宅、オフィス、そして車両という3つの異なるインテリア空間のトレンドは、表面的なデザインや素材を超え、空間に対する根本的な思想において一致する傾向にあります。かつては個別に進化していたこれらの分野が、互いに影響を与え合いながらも、より本質的な価値を共有し始めているのです。

しかし、ボルボはこうしたトレンドとは一線を画しているように見えます。最新のXC90を見ても、そのデザイン哲学は「そんなの当たり前だ」と語りかけてくるかのようです。車であれ家であれ、心地よく過ごすことの本質を知っているからこそ、時代やトレンドに左右されることのない、揺るぎない軸が存在しています。

肩肘張らない自然な佇まいで、余裕のある上質な空間を作り出すその姿勢は、まさにボルボならではの魅力と言えるでしょう。プラグインハイブリッドSUVの最上位モデルであるXC90は、その上質さもさることながら、決して華美に陥ることなく、謙虚で洗練された美しさを備えています。知的なバランス感覚に優れた一台として好感が持てます。

内装色はダーク系「チャコール」・ブライト系「ブロンド」のほかに新色「カルダモン」が新しく登場。

前モデルからさらにミニマリズムに徹したシンプルな造形デザインを、温かみとクリーンさ両方を際立たせる色と素材で表現しています。

チャコール×カルダモン内装(新色)
(画像のモデルはXC90 Plus B5 マイルドハイブリッド。今回紹介の2台とは別日に撮影した車両。)
※1 「ラーゴム」はスウェーデン語で、「多すぎず少なすぎず自分に合った量・物がよい、適度にちょうどよい」といったスウエーデンの哲学を表す言葉。「ヒュッゲ」はノルウェーおよびデンマーク語で「居心地がよく快適で陽気な気分」であることを表現する言葉。どちらも北欧の文化・ライフスタイルに深く根差した考え方といわれている。冬が長いスカンジナビア地域における、屋内での過ごし方にも反映されている。
チャコール×ブロンド内装 メリハリがあり、かつエレガントな上質空間。IPは明るい加飾でまとめ、ボリュームを軽くしている。うっすらと赤みを感じるシルバーメタリックのエクステリアカラー「ブライトダスク」との、高級感のある内外コンビネーション。

「チャコール×ブロンド」内装は、2方向のCMFイメージが展開されています。

1つは、チャコールのダークカラーの面積を多く使い、明暗のコントラストが明快なタイプで、エレガントであると同時に快活な若々しさも感じます。上質ですが気負いなく乗り込んでドライブを楽しめる親しみのある雰囲気です。部品分割がシンプルなので、コントラストの強い色使いにおいても気になる形状ラインが出ず、空間がスッキリとまとまります。

チャコール×ブロンド内装 明るくまとめたファブリックとウッドの加飾パネル。
左右方向に流れるウッドの加飾パネル(アッシュ材※2)。 凹凸のある、ドライでサラリとした手触りや、決して一定でない木目の流れが、逆にオーガニックな素材として満足感につながる。
※2 日本名「タモ」(トネリコ属)。 強度があり衝撃に強い。高級家具などに多く使われるほか、野球のバットの素材としても有名。
 
チャコール×ブロンド内装:クールな印象のライトグレーの内装色とダークなチャコールのアッパートリムとのコントラストで空間が引き締まる。

もう一つの「チャコール×ブロンド」内装はIPのアッパー部と加飾パネル、フロア以外はすべて「ブロンド」カラーを使用し、内装全体を丸ごと明るく仕上げています。ややクールなライトグレーをチャコールカラーで引き締めた設えは、先進感がありモダンな空間ですが、ウッドやファブリックを少量加えることで、ほっとする安心感と開放感が得られます。

前後方向に流れるウッドの加飾パネルはアッシュ材。シンプルな織りのファブリックパネルと合わせて、上質なくつろぎを演出している。
ファブリック張りのパネルは、パッセンジャーの目にストレスなくソフトな印象を与えるとともに、きちんとした仕立ての良さの安心感もある。

今回取材した2台の内装はどちらもナッパレザー※3仕様のシートですが、このほかにシート素材では、ボルボが推進するサステナビリティ(持続可能性)の取り組みの一環として、自然由来のバイオ素材であるレザーフリー表皮「ノルディコ」※4や、リサイクル繊維を使用した織物表皮材※5も、導入されています。また、IPのアッパー面(上面)はレザーフリーの再生素材が使われていますが、見た目と触感ともにその品質感は上質で、滑らかな面質と相まってより洗練されたIPパネルとしての存在感があります。このように持続可能な新しい素材を積極的に追加することでスカンジナビアの先進的な高級感を強めることに成功しています。

※3 ナッパレザー:とても柔らかくしなやかな質感を持つ高級皮革の名称。 現在も高級車のシートや内装に使用される事が多い。
※4 『ノルディコ』:ボルボが手掛けた、マイクロファイバー(超極細繊維)を組み合わせた本革に近い質感の表皮材。
※5 ボルボが手掛けた100%リサイクルポリエステルを使用した表皮材。
左:レザーフリー素材のIPアッパー
右:スエーデンオレフェス製クリスタルのシフトノブ

前モデルから継承されているクリスタル製のシフトノブは、シンプルモダンな内装の中で唯一煌びやかと言ってよい素材かもしれませんが、ダイヤモンドカットなどの装飾は施されておらず、それがかえってクリスタル独自の滑らかさとクールさが強調され、品格のある存在になっています。

エクステリアカラー新色 「マルベリーレッド」  ダーク系の新トレンド色として注目

エクステリアカラーでは、新色として「マルベリーレッド」が加わりました。スカンジナビアの秋をイメージしたというこの色は、深みのあるダークでエレガントなメタリックレッドです。 日陰では穏やかに黒みがかった表情を見せる一方、太陽光の下では赤みが際立ち、華やかで力強い輝きを放ちます。

このマルベリーレッドは、「チャコール×ブロンド」の内装との組み合わせが秀逸です。深みのあるダークレッドとクールで先進的な「ブロンド」内装色のコンビネーションは、適度な温かみと清涼感が絶妙に調和し、洗練された空間を演出しています。

マルベリーレッド 左:日陰 中央:太陽光 右:輝材粒子(陽光に強く反応して輝きが増し、華やかさが出る)

このところエクステリアカラーのトレンドとしてダークな色域での動きが鈍い中、このマルベリーレッドには新鮮さを覚えました。レッド系カラーの延長として考えてみると、パッと目を引く派手なレッドとは一線を画しています。穏やかで深みがあり、かつ華やかさ兼ね備えたドラマチックな色調は、まさしく上質なさを求める層に響くものです。このような重厚なボリューム感と華やかな彩度を両立させたダークカラーは、今後の上級ラインのモデルをはじめとして徐々に増加していくのではないでしょうか。

余談ですが、今年4月の上海モーターショーでは、これまで定番だった鮮やかなレッドやゴールドが減少し、ダークなレッド、またはその派生と思えるパープルが増加傾向にありました。このような事柄からも、レッド系色域のトレンドが今後変化していく兆候の一つと見てよいのかもしれません。

車内空間の重要性

今後、自動車のデザインは、車内でいかに心地よく過ごせるかという「車内での過ごし方」の重要性が増していくでしょう。限られた空間の価値をどう高めるかが、商品性を左右する大きなポイントとなるはずです。

そんな中、ボルボが提示する、人と室内空間の関係性に対する答えは、揺るぎないコンセプトとして既に高い商品価値を確立しています。それをユーザーに押し付けることなく、さらりとモダンなデザインとして表現している点に感銘を受けます。

これからは、インテリアデザインがエクステリアデザインに影響を与えるという、従来とは逆のプロセスが主流になるかもしれません。ボルボは、まさにそうした新しい車両デザインの大きなポイントをしっかりと掴んでいるブランドだと思います。

でも、個人的な好みで言わせてもらうと、スピーカーグリルの金属パターンは、次のモデルではもっと美しくてかっこいいデザインが見てみたいと思っています!