スズキらしいユニバーサルデザインの電動パーソナルモビリティ

スズキは『ジャパンモビリティショー2025』(以下、JMS2025)に出展するにあたり、「By Your Side」をテーマとして、総合モビリティメーカーとしてユーザーに寄り添いつつ、身近で持続可能なモビリティの未来を提案した。

2026年度に量産化を目指している軽BEVのVision e-Skyをはじめ、往年の人気レジャーバイクをEVで復活させたコンセプトモデルのe-VanVan、ペダル付折り畳み電動モペッドのe-POなど、ブースに並ぶコンセプトカーや技術展示は、すべてこのテーマに沿ったものばかりだった。

そのような展示車両の中で筆者がもっとも注目したのが、SUZU-RIDE2だ。ワールドプレミアとなったこの電動パーソナルモビリティは、前回のJMS2023に出展したSUZU-CARGOのコンセプトを引き継ぎつつ全面的に刷新。

JMS2023に出展されたSUZU-RIDE。SUZU-RIDE2の前身となるモデルで収納用のリアボックスにシートが設けられるなど細部はかなり異なる。
SUZU-RIDEの派生モデルとして共にJMS2023で発表されたSUZU-CARGO。

市販化を視野に入れて開発されたプロトタイプで、電動キックボードと同じく定格出力0.60kW以下で、最高速度が時速20km/h以下などの基準を満たす「特定小型原動機付自転車」に分類されるひとり乗りの電動パーソナルモビリティだ。16歳以上であれば運転免許がなくても運転が可能なほか、ヘルメットの着用も努力義務となっている。

市販化を視野に入れて開発が進められている電動パーソナルモビリティのSUZU-RIDE2。

SUZU-RIDE2は取り回しの良さを考慮して全長1350mm×全幅600mm×全高1250mmと車体サイズはコンパクトにまとめられている。航続性能に関しては未発表だが、開発スタッフによると「自転車での移動範囲を念頭に置き、過不足ない性能になっている」という。

この車両のユニークなところは、最高速度を法規上の上限いっぱいとせずにあえて12km/hに抑えたことにある。また、走行モードを変更することで6km/hに速度性能を抑えることで、歩道の通行も適法として認められる。もっとも、この乗りものは速度性能を重視しておらず、「シティサイクル(いわゆる「ママチャリ」)のように誰もが便利に使える移動手段を目指し、意図的にスピードメーターは装着しなかった」(開発スタッフ談)そうだ。

SUZU-RIDE2はセニアカーの上位互換?

スズキではSUZU-RIDE2の開発コンセプトを「日常からレジャーまで幅広くカバーする次世代の小型EVであり、若年層を含めて幅広いユーザーの使用を想定して開発した」と説明していた。だが、車両の成り立ちを考えると、この種のパーソナルモビリティをもっとも必要としているのは地方や郊外に在住する高齢者だろう。

スズキが半世紀前から手掛けているセニアカー、すなわち「ハンドル型電動車いす」は、買い物や通院、散歩などの高齢者の日常生活のサポートを目的としており、公道上では歩行者として取り扱われるため運転免許不要で乗れるいっぽう、最高速度は6km/hに抑えられている。すなわち、セニアカーはあくまでも歩いて行ける範囲内での使用を前提としたパーソナルモビリティということになる。

セニアカー誕生40周年記念としてSUZU-RIDE2とともに展示されたセニアカー 。左が初代セニアカー(マイナーチェンジモデル)のET11、右が現行型のET4BD。

だが、インフラの整った都市部での使用はともかく、高齢化・過疎化・大型店の郊外進出が進んだ地方においては、高齢者がアシとするには現行のセニアカーでは些か能力が不足しつつある。

スズキによると展示にあたってET11はレストアを施したそうだ。

このような地域では自家用車の所有が必須となるわけだが、高齢ドライバーによる死亡事故の増加と、それに伴う社会的圧力として「高齢者による運転免許自主返納」を求める動き(筆者個人としては個人の運転能力や都合を考えず、年齢で一律に運転免許の返納を求めるのは重大な人権侵害であり、反対の立場を取る)が加速しており、近隣に店舗が少ない上に公共交通が貧弱な地方では高齢者を中心に「買い物難民」が社会問題化している。

行政はコミュニティバスや乗合タクシーなどの移動支援を行なってはいるが充分とは言えず、代替の移動手段がなければ、これらの地域に住む高齢者は日常生活すらままならない。そこで「By Your Side」をテーマとしたスズキは、この問題に正面から取り組むべくSUZU-RIDE2を開発し、JMS2025に出展したのだろう。

高齢化社会に必要なセニアカーと乗用車の間を埋める乗りもの

そのような筆者の見立てが正しいのか、SUZU-RIDE2の開発スタッフに質問したところ、彼は以下のように答えてくれた。

「SUZU-RIDE2は老若男女問わず幅広いユーザーの使用を想定して開発しましたが、なかでも重視しているのはご高齢のユーザーです。ご指摘の通り、地方ではマイカーが必須となっており、運転免許を自主返納した高齢者は『買い物難民』となりかねません。そこで徒歩圏内での移動を重視したセニアカーに対し、SUZU-RIDE2は特定小型原動機付自転車としたことで、運転免許を必要とせず、自転車や原付バイク並の移動範囲を持つ乗り物として提案させていただきました。すなわち、機能的にはセニアカーと自動車との間を埋める乗り物という考え方です。ですから、最高速度は法規上の上限いっぱいを狙うのではなく、12km/hまでに抑え、モード切り替えによって歩道の通行を可能にしました」

SUZU-RIDE2

なるほど、じつに素晴らしい提案である。高齢者の運転免許自主返納については賛否があるだろうが、ユーザーの選択肢を増やすという意味においては意義深いコンセプトモデルである。このあたりは半世紀に渡って高齢者用の移動手段であるセニアカーを作り続けてきたスズキの面目躍如と言ったところだろう。

SUZU-RIDE2

SUZU-RIDE2は現行型セニアカーと同じくサスペンションは四輪独立懸架方式を踏襲しているが、速度性能の向上と舗装の荒れた道路での走行を考慮しているのか、より容量の大きなサスペンションが装着されていた。

また、デザインも実用一辺倒のセニアカーに対し、若々しく洒落っ気があるところも良い。2025年を境に全員が後期高齢者(何度聞いてもあまり好きになれない言葉ではあるが……)になった団塊の世代は、一昔前の高齢者とは異なり、ライフスタイルも欧米化しており、歳をとってもジーンズやスカートを履き、その感性は老いてなお若々しい。そのような世代に乗ってもらうとすれば、これくらいポップで明るく、ざっくりとした道具感がなければ受け入れられないと思う。

SUZU-RIDE2

真のユニバーサルデザインを目指してさらなる改良を!

ただし、出展車両はプロトタイプということで、まだまだ改良の余地があるように思った。まず気になったのは乗車ポジションだ。筆者は身長170cm、体重90kg以上というメタボ体型なのだが、そのような人間が乗るとハンドルが近く、シートがやや狭く感じられた。同じく身長180cm以上の高身長の人間も同様に乗車ポジションの窮屈さを感じることだろう。

操舵は自転車やバイクのようなバーハンドルで行なう。バックミラーは左右2個装着されるが、スピードメーターなどは備わらない。左ハンドルにはウインカーとホーン、右ハンドルには電源と歩道モード、リバースのスイッチが備わる。

肥満の人間に「痩せろ」というのは簡単だが、それは靴に足を合わせろというようなものだ。年齢や性別、体形、障害の有無を問わず、あらゆる人が安全・安心・快適に利用できるようなユニバーサルデザインに対して、安易な自己責任論を振りかざすことは馴染まないだけではなく、重大な人権侵害に当たる。ともすれば、服用している薬の副作用により意に沿わず体重が増加することもある。開発メーカーがそのようなことを言うことはよもやないだろうが、外野の人間が個々人の事情を無視して一方的に無責任な言葉を吐いたり、それらの人々を切り捨てるが如き発言をすることは厳に慎むべきだろう。

シートは簡素な構造のものが備わる。スライドレールは備わらず、前後の調整はできないようだ。

そもそも標準体形外の人間は高齢化とともに足腰が悪くなることも多く、この種の電動パーソナルモビリティを頼る傾向がある。したがって、SUZU-RIDE2のような車両を開発する場合は、標準体型外の人間の存在を無視するべきではないのだ。そのように考えると、製品化にあたっては、老若男女問わず、あらゆる体形の人が快適に乗車できる真のユニバーサルデザインとする必要があるだろう。

そこで筆者が提案したいのが、前輪や操舵系を含むフロントセクションをメインフレームから切り離し、別体構造とすることである。その上で前輪部分を3段程度に長さが変えられる伸縮式とし、最大で20cmほどホイールベースを延長できるようにすることだ。これならスライドレールを使って調整するのと違って腰を屈める必要がなく、シートを後方にスライドさせることによって荷物と干渉したり、荷台容積を犠牲にする必要がない。

ペットボトルを収納可能なドリンクホルダーがハンドル下方に2個備わる。

SUZU-RIDE2はあくまでも個人の移動を前提とした電動パーソナルモビリティである。それならば不特定多数の乗車を考慮してホイールベースの長さを頻繁に伸縮させる必要はなく、オーナーの体形に合わせて購入時に販売店で調整できるような構造にすれば良い。具体的に言えば、長さを決めたらボルト&ナットで固定する方式で充分だ。

法律上、特定小型原動機付自転車の全長は190cm以下と定められているが、SUZU-RIDE2の全長は1350mmなので、20cm程度なら延長しても規定内に収まる。また、ホイールベースの延長により最小回転半径は若干大きくなるが、この程度なら使い勝手に及ぼす影響は少なく、充分に許容範囲だと筆者は考える。

また、シートはシートバックはそのままに座面だけ大型化し、シートバックから左右に伸縮調整するアームレストを設けることで、あらゆる体形の人に対応することが望ましい。

車道を安全に必要なのは被視認性の確保

ほかに改良の手を入れるとしたら、シート後方にロールバーを追加することだろう。とは言うものの、移動速度が遅く、転倒の危険性も少ないと思われるので、乗員保護を目的とした強度の高いものである必要はない。アルミ製のファッションバー的なもので充分だろう。装着する目的はふたつ。乗員が乗り降りする際のアシストと、ロールバー上方に灯火類を装着することによる被視認性の確保にある。

荷台に乗せられているぬいぐるみは『うんこドリル』でお馴染みのうんこ先生。スズキが研究する牛糞からバイオガス燃料とのコラボレーションだ。

まず前者だが、セニアカーで選ばれることが多いオプションにステッキホルダーがあるが、SUZU-RIDE2が製品化され、高齢者が使用する際には同じように装着されることが多くなるだろう。現行のセニアカーではステッキホルダーはシートバックに装着されるが、ロールバーにアタッチメントをつけてステッキホルダーを装着するほうがステッキを高く持ち上げずに済むし、収納してからシートに乗り込むまでの間、手すり代わりにロールケージを使用すれば転倒などのリスクを減らせると考えた。その場合、冬場に冷たい思いをしないことや、万が一よろめいて頭をぶつけても怪我をしないように、ロールバーにはウレタン製の保護パッドを巻くことが前提となるだろう。

後者については走行中に自動車、とくにトラックやバスなどの大型車からの被視認性の向上が必要になると考えた。SUZU-RIDE2の行動範囲はセニアカーよりも延びるわけで、歩道の整備が進んでいない地方では必然的に車道を走ることが多くなるだろう。その場合、懸念されるのが交通事故のリスクだ。地方の道路は信号が少なく、道が空いていることもあって平均速度が高く、また外灯などのインフラが整備されていないこともほとんどだ。

ミラーステーから分岐する緑色のポジションランプ。緑色のランプは法規上の制限色に当たらず、遠目にも目立つことから採用したという。

一応、SUZU-RIDE2は安全性を考慮して車体の前後に緑色のポジションランプが車体前後に配されているが、装着位置が低いことから大型車からの視認性がけっして良いとは言えない。関東以東では冬場は日が暮れるのが早く、17時前には辺りは真っ暗になってしまう。こうした地域での運用を考えると、買い物や通院などで帰宅が遅くなったときに、遠くからでもよく目立つことは安全を考えれば必須となる。

荷台にはバスケットが標準で備わり、車体後端にはウインカー兼ポジションランプが装備される。スイッチ操作したときのみウインカーとして機能するが、通常走行時はグリーンのランプが常時点灯している。

車両の高い位置、すなわちロールケージにポジション灯やストップランプ、ウインカーがあれば乗用車からの視認性向上はもちろん、目線の高い大型車に見落とされることも少なく、事故リスクを引き下げることができるはずだ。

それ以外にもロールバーは大型のウインドスクリーンと組み合わせることで、ビキニトップのような簡易なビニールルーフを装着することも可能になるだろう。これも年間を通して日常のアシとして使用するには必要な装備だ。

製品化に向けて大いに期待

フロントセクションはSUZU-RIDEのものを踏襲しているが、ヘッドランプやフロントキャリアの意匠は変更されている。

これからの高齢化社会を見据えたときに、SUZU-RIDE2は必要不可欠な車両となるだろう。もちろん、若い人がキックボードに代わる安全な移動手段として使用したり、敷地の広い工場などの便利な移動手段として活用したりと、その用途は幅広い。だが、この車両が製品化されてもっとも喜ぶのは、クルマの運転ができない地方の高齢者だろう。

シート下には荷物置きのスペースがあり、バイク用ネットを活用することで荷物を固定できる。写真はネット固定用のフック。欲を言えばシート前端に折りたたみ式のコンビニフックが欲しいところ。

おそらく、次回のJMS2027には市販化を前提に、より便利に、安全に使いやすく進化した上で、進化したSUZU-RIDE3がお披露目されることになるはずだ。その際には筆者が指摘した部分が改良されていることを期待したい。