ナット締め付け&タイヤ溝管理のお助けマン
筆者は自前のクルマのタイヤローテーションやスタッドレスタイヤへの付け替えは自分で行なうことにしている。
ナットは対角線順に、トルクレンチにて1輪ごと、いちいち声を出しながら「いち・・・」カチャ! 「にぃ・・・」カチャ!「さん・・・」カチャ!・・・と5つ締め、4輪交換した後にもういちどクルマのまわりを1周しながらまた声に出し、確認の意味で5×4=20のナットを締め上げる。
規定トルクで締めた後にまた締めるのは確か良くないはずだが、しっかり確認したつもりが思いちがいをしていて1本でも締め忘れていたら惨事を招く。
スタッドレスタイヤへの交換後のナット締め忘れでタイヤが走行中に外れた事故が起きたのも遠い過去のことではない。
タイヤ交換のDIY派だけじゃなく、整備業界に身を置くプロの中にだって「おろ、ちゃんと締めたっけ?」と不安を抱くひとはいるだろう。
それを示したのが冒頭の4コマ漫画であり、この不安をいくらか解消してくれるのが、工具メーカーとして名高いKTC(京都機械工具)が提案する「e-整備 TIRE」だ。
本当なら、製品なり説明パネルなりをトップ画像に掲げるのだが、ヘタしたら通報されそうな内容の4コマ漫画を載せたのは、KTCの方の希望によるものだ。
心配どおりのことになったら大変なことになることを、KTCは大まじめに懸念しているのだ(夜道をほぼ全裸でかけまわることじゃなく、ナットの締め忘れを。)。

「e-整備 TIRE」は、タイヤのナット締め作業一連と溝深さ管理をアシストしてくれるデバイスで、それぞれ送信機と端末(タブレット、スマートホンなど)に入れるアプリケーションソフトの2つから成り立っている。
1.ホイールナット締め付け
これはタイヤ取り付け作業に於いて、ナットがクルマごとに決められている規定トルク値どおりに締められているかを監視&端末アプリに送信して表示するばかりか、作業年月日とともに記憶してくれるというものだ。
このデバイスを使ってナット締めをする場合、作業順序は以下のようになる。
ひとつひとつ説明する。
1.アプリにこれからナット締めする車種を認識させ、画面に表示された車両型式、ホイール穴数、規定トルクを確認する。
まず、端末機のカメラで、これから面倒を見る車両のナンバープレートを撮って車両を認識する。
なぜ、ナンバープレートを撮るだけで車両型式やホイール穴数、規定トルクがわかるのか。
撮影すると同時に、アプリはKTCが作成しておいたクラウド上のデータベース(車検証情報)と照合し、このナンバーの車両が何であり、そのクルマの車両型式、ホイール穴数、規定トルクを入手するからだ。

KTCのブースでの実演に使われていたこのクルマ(実際にはナンバープレートの写真。KTCの社用車なのだそうな。)の型式は6AA-AYH30W・・・すなわちアルファードで、ホイール穴数は5つ、規定トルクは103.0Nmとアプリは教えてくれている。
2.アプリが指定する目標トルク範囲(規定トルク値~規定値+10%)にてトルクレンチで締め付ける。
1の内容が合っていることを確認して「次へ」を押すと、タイヤ位置を模した4分割画面が表示される。
前画面で測定順序は「右回り」だったので、右上から時計まわりに「1(右前輪)」「2(右後輪)」「3(左後輪)」「4(左前輪)」となる。
これは任意で「左回り」にもできる。

前画面で指定していた「103.0~113.0Nm」の範囲で締めるよう作業開始。
作業でかかるトルクは、トルクレンチに取り付けた専用の測定機「TORQULE」からオンタイムでBluetooth送信されて画面に数値で示されると同時に、下から上昇するグレーのシェード(のアニメーション)ででも表される。



バックで下から順に黄色、緑、ピンクで彩られたカラーリングはただの模様ではなく、ちゃんと意味がある。
中央の緑は、目標トルク値(ここでは103.0~113.0Nm)の範囲を示し、その下の黄色がトルク不足、上のピンクはオーバートルクを表す。
つまり締め付けに応じて上がってくるグレーシェードが緑の範囲内にまで到達したときに手を止めれば規定トルクで締まったことになるわけだ。





右前輪すべてのナット締めが終わったら右後輪、左後輪、左前輪と1周するわけだが、残念ながら、この「e-整備 tire」は、各タイヤの各ナットを個別には認識しない。
端末画面に表示される数字がどのナットを示しているかは作業者が記憶しておくしかない。
2.タイヤ溝測定
もうひとつ、「e-整備 TIRE」には、タイヤトレッド面の溝深さの測定機能がある。

前項ナット締めと同じく、車両情報を受信したら、端末とBluetooth接続する測定器「TRASAS」で得た溝深さを端末に送信。
さきのタイヤ圧測定と同様、車両を1周しながら各タイヤのトレッド面の車両外側、中央、内側の順で得た数値を、本体の液晶表示すると同時に端末にも送信して表示&記録する。

画面上では深さが充分なら緑、普通状態が黄色、交換どきなら赤の3色で示される。

車種や穴数は見ればわかるが、規定トルクは車両の取扱説明書を見なければわからない。
不特定多数のクルマを、時間に追われながら面倒見しなければならない整備士にとって、取扱説明書のページめくりの時間が無くなることのメリットは小さくない。
だいたい、そのクルマが中古で買われたものだったり、無頓着なユーザーのものだったりしたら取扱説明書がない場合もある。
そのときは整備解説書などを引っ張り出さなければならず、これまたかけなくてもいい時間を費やすことになる。
「e-整備」が売りにする最大のポイントは、ナンバープレートの一発撮影で、クラウドから車両情報が得られることで、これはメーカー系列の販社も去ることながら、どこのメーカーのクルマが入庫するかわからない、町のおやじ(という感じの人も最近は少なくなった)が経営する整備工場にこそメリットが大きい。
多くても2~3台持ちがせいぜいな一般家庭ではありがたみが少ないということから、「e-整備 TIRE」はあくまでもプロユース=整備業界に向けており、一般向けユースは想定していない。
タイヤの空気圧調整やローテーション、交換を自前で行ない、その作業日を紙に書いて記録している筆者が「e-整備 TIRE」の説明を聞いて便利だと思ったのは、タイヤ圧なら締め付けトルク値、溝測定ならその深さを作業時に端末表示して可視化(間接的に)すると同時に、その作業や測定の年月日をアプリが記憶してくれることだ。
どうせならそのときの積算距離計の数字も自動で記録してくれればいいと思うのだが、それには車両と端末が通信できる必要があり、さすがにKTC単独ではできない。
まあ、別に記録簿に記載するか、あるいはアプリの中に「備考欄」を設け、タッチ入力で任意に記録できるようにすればいいかも知れない。

単体で使う「TRASAS」はともかく、専用のトルクレンチが要る気がするトルク管理は、「TORQULE」を追加するだけですみ、いま使っているトルクレンチはそのまま使えるのもいい。
いっぽう、アプリに関していえば、トルク値管理も溝管理も、アプリで指示した「右回り」「左回り」のとおりに測定していることが前提であることに注意!
「右回り」なのに左回りで作業したり、あるいは気の向くままの順序で作業しても、アプリは作業者が「右回り」で作業していると思い込んで記録する。
「次は右後輪なのに、アンタ、いま測ってるの、左後輪じゃないの」なんていう指摘はしてこないし、そこまで求めるべきじゃないだろう。
あくまでも作業者は画面の指示どおりに動いていることが大前提での「e-整備 TIRE」だ。
「e-整備 TIRE」がプロ整備士向けなのは前述したが、測定した値がスマートホンなりタブレットなりに自動で飛ばしてくれる機能は、クルマ1台持ちのひとにもメリットがあると思う。
規定トルクなどは自分で入力するから、数値のオンタイム送信&記録や作業年月日だけ管理してくれる、一般DIY派向け「e-整備 TIRE」があってもよさそうだ。
そうすれば、プロのみならず、今日車庫で作業したことを思い返して、冒頭の4コマ漫画のようなことをしてしまうことはなくなるだろう。















