ACCとはどんな機能?
今や、クルマではおなじみとなったACC。これは、今どきのクルマに乗る人ならご存じの通り、高速道路などで、アクセルを操作しなくても設定速度での巡航ができ、先行車両に追いつくと一定の車間を保って追従走行をしてくれる機能だ。
バイクにも、以前からアクセル操作なしに設定速度を維持して走行する「クルーズコントロール」機能を備えるモデルはあった。だが、前車を自動で追従する機能までは装備されていなかったため、前車に追いついた際は、ライダーの操作を必要とした。それが、最近のモデルは、レーダーセンサーの搭載により、クルマと同じように車間距離を自動で維持できるACCも可能に。長距離ツーリングなどで、さらなる疲労軽減や安全性向上などに貢献する。

トレーサー9GT+ Y-AMTの最新機能を紹介
では、実際に、バイクのACCはどんな機能を持つのだろう? 最新機能を採用するヤマハ「トレーサー9GT+ Y-AMT」を例に紹介しよう。

このモデルは、888cc・3気筒エンジンを搭載する「トレーサー9GT」に、先行車を追従走行する「ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)」など、先進の運転支援システムを追加した上級バージョンだ。2025年モデルで電子制御シフト機構「Y-AMT」を採用したことで、車名を従来のトレーサー9GT+からトレーサー9GT+ Y-AMTに変更している。
ACCの主な機能は、まず、車体に装備したミリ波レーダーにより、前車の有無や車間を検知。その情報を元に、状況に応じて、定速巡航はもちろん、前車との車間が近い場合は減速、離れた場合は設定速度まで加速するといった制御を自動的で行う。なお、ACCは約30km/h以上(使用するギアによって異なる)で走行中に作動。追従走行時の車間設定は4段階から選択可能だ。
また、コーナーなどで車体の旋回を検知すると、車速の上昇を抑えたり、先行車がいる場合は追従加速度も制限する「旋回アシスト機能」も採用。コーナリング時の安全性にも貢献する。
加えて、ライダーが追い越し車線側へウインカーを出し、車両が追い越し状態にあると判断すると、通常の車速回復時よりもスムーズに加速する「追い越しアシスト機能」も装備。これらさまざまなACCの機能により、ツーリング時などでライダーの疲労軽減に貢献してくれる。

トレーサー9GT+ Y-AMTでは、さらに、「レーダー連携UBS(ユニファイドブレーキシステム)」も搭載。UBSとは、ヤマハ独自の前後連動ブレーキ機構で、後輪ブレーキを操作すると、前輪にもほどよく制動力を配分して、良好なブレーキフィーリングをもたらすことが特徴だ。しかも、この機能とミリ波レーダー、高機能6軸「IMU」などをマッチングさせることで、前走車との車間が近く衝突の恐れがあるにも関わらず、ライダーのブレーキ入力が不足している場合、自動でブレーキ力をアシストする機能も採用。衝突回避のための操作を手助けする先進機能も装備する。
なお、ほかにも2025年モデルでは、新たに車体後方にもミリ派レーダーを追加。後方から接近してくる車両を検知しミラー内に表示する「BSD(ブラインド・スポット・ディテクション)」なども新採用している。
ちなみに、このモデルには、前述の通り、新しく電子制御シフト機構「Y-AMT」を搭載。これは、クラッチレバーやシフトペダルを廃し、ハンドルに装備したシフトレバーでの変速操作を可能とする新開発の自動変速トランスミッションだ。

主な機能では、パドルシフトで手動変速できるMTモードと、フルオートで変速するATモードの両方を用意。とくに、ACCとの関係では、ATモードとACCの作動時に、定速走行中のギア選択のほか、車速の増減によってもY-AMTが自動的な変速を実施。これにより、一般的な四輪のオートマチック車と同様に、追従走行中にシフトアップとダウン、もしくはその維持をシステムに託すことができる二輪車世界初の制御も採用している。
クルマのような渋滞追従機能がない
このように、まるで4輪車並みに高機能なのがトレーサー9GT+ Y-AMTのACCだ。だが、注意したいのは、最新のクルマに搭載されている「渋滞追従(または全車速追従)」機能付きではないこと。これは、例えば、ACC作動時に、渋滞などで前車が停止すると自車も自動で停止。前車が再び発進すると、ドライバーの操作などで前車追従を再開するという機能のことだ。
一方、トレーサー9GT+ Y-AMTのACCでは、設定できる巡航速度は、最低速度30~50km/h(ギヤによって異なる)で、最高速度160km/h。また、たとえば、ギヤが1速や2速のとき、速度が25km/h以下に低下すると自動停止するようになっている(これもギアによって最低速度は変わる)。そのため、渋滞などで前車が停車すると、後続のバイクに乗るライダーはブレーキ操作を必要とするのだ。
また、レーダー連携UBSの対応速度範囲は30~150km/hで、UBS自体の機能は、一般道などでACCを使っていない時には、ライダーがブレーキ操作を行わないと作動しないようになっている。

これらの理由について、ヤマハの開発者は「ブレーキをかけていないのに、バイクが勝手にブレーキをかけてしまうと、ライダーは予期しない制動により体が前のめりになってしまい、最悪の時は前方へ飛び出してしまう危険性がある」ためだという。特に、コーナリング中の予期せぬブレーキは、ライダーにとって危険度が増すといえる。加減速で重心が前後に移動するバイクでは、4輪で走るクルマほど安定性が高くないためだ。
そして、こうした設定は、ほかのACC機能を持つ多くのモデルも同様。たとえば、カワサキ「ニンジャH2 SX SE」では、ギヤごとに設定された一定の速度以下になるとシステムを解除する仕組みを採用。つまり、渋滞などで前車が止まり、自車も停車する時にはライダー自身のブレーキ操作が必要ということだ。

そして、この点でいえば、ACC機能を備える欧州メーカー製モデルも同様。たとえば、ドゥカティ「ムルティストラーダV4S/Sスポーツ」、BMW「R1300GS・ツーリング」なども、基本的には停止時にはACCの機能が解除されるため、ライダーのブレーキ操作などが必須となる。


KTMから自動停止機能付きも登場
そんなバイク用ACCだが、KTM「1390スーパーアドベンチャーS EVO」が、2025年モデルで完全自動停止も実施するACCを採用し注目を集めている。
オンロードとオフロードの両方で高い走破性を誇るアドベンチャーモデルの「1290スーパーアドベンチャーS」をベースに、排気量を1350ccに拡大し、パワーアップなどを施したのがこのモデル。大きなトピックは、クラッチ操作を自動化した「KTM AMT」を採用すること。クラッチレバーを装備しておらず、左スイッチボックスには指先でシフト操作できるスイッチを備えることで、任意の変速操作も可能とすることなどが特徴だ。
また、先代モデルでも採用していたボッシュ製ACCは、ブレーキアシスト、衝突警告、距離警告を備えるなどで機能をアップ。加えて、KTM AMTとの連携で、追従する前車の停車に合わせた自動停車と再始動も実現。まるで、4輪車の渋滞追従機能付きACCのように、ライディング時の操作を極限まで自動化し、疲労感のないツーリングを実現できるようになった。

このように、クルマの機能進化に呼応するかのように、バイクの場合も、ACCなどの先進運転支援システムは徐々にアップデートがなされてきている。こうした技術進歩により、近い将来、バイク事故が大きく減少する世界が到来することに期待したい。