ルーキーイヤーの屈辱を力に変えろ!

小橋メソッド×ユーラス特製ER34が見せた2025年の進化!

2024年、ついに憧れ続けた父と同じD1GPの舞台に立った野村圭市選手。しかし期待とは裏腹に、結果は全戦予選落ち。トップカテゴリーの洗礼を痛烈に味わうシーズンとなった。

野村選手のマシンは、D1ライツ時代に使用していた2ドアER34をD1GP向けにアップデートしたもの。2021年まで父が駆っていた4ドアER34から乗り換え、自身の意思でゼロから作り上げた車両だ。すでにその時点でトップカテゴリーを見据え、2JZ-GTEを3.4L化し、シーケンシャルドグミッションを組み込んでいた。

D1GP参戦にあたり、FIA規定のロールケージ、リヤラジエター、クイックチェンジデフといった大掛かりなモディファイを実施。だがこれらは、あくまで“走れる状態”に整えただけに過ぎなかった。肝心の走行性能…とくに審査で点数に直結する角度・スピード・姿勢作りの領域は、D1ライツ時代の延長のままだった。

さらに、パワーアップに伴う車両負担増やステージごとのスピードレンジの高さも相まって、トラブルが頻発。ドライバーとしても、D1GP特有の戦い方・セットアップへの順応が追いつかず、未熟さを痛感する一年となった。

「自分のドリフトスタイルは、学生時代にチームオレンジの末永直登選手に基礎を教わったところから始まり、その後も多くの人のアドバイスを受けてきました。ただ、D1GPではまだ足りない部分が多かったですね」と野村選手は振り返る。

必要だったのは“殻を割る変化”だった。2024シーズンが終わる頃、野村選手はチームオレンジのエースであり、D1GP王者として知られる小橋正典選手に声をかけた。

「小橋さんは今FDJに出ているので、D1では俺の師匠になってほしい、とお願いしました。勝つための走らせ方を教えてもらいつつ、まだD1ライツの延長だったスカイラインを、オフシーズンの間に二人で徹底的に煮詰めていきました」。

冬には、チームオレンジが毎年2か月ほど行う氷上ドリフト特訓にも参加。ほとんどグリップのない路面で、タイヤに頼らず荷重移動とリヤサスのストロークでトラクションを生む“チームオレンジ流”の操作を、小橋選手から叩き込まれた。

ER34のフロントダブルウィッシュボーンはシルビアやJZX系と性格が異なると野村選手。ショートナックルは小橋選手がシルビア向けに設計したデータを元に作られ、合わせて逆関節を防ぎ最大切れ角をアップするラックの25mm前出し加工を行ない、理想に近い動きができるようになったそうだ。

ピロ化と同時にキャスター調整が可能になるユーラスのサードリンクピロブッシュも装着。現在のナックルセットでは、セルフステアを効かせすぎないためにも純正位置が最適だったという。

リヤスプリングの伸び縮みを強く意識し、バンプタッチするまでのストロークによってきっかけの姿勢変化やトラクションの掛かりをコントロールするチームオレンジのドリフトスタイルを実現するために、DG-5車高調の減衰特性も見直して新作を投入。バネレートはフロント12kg/mm、リヤ5kg/mm。

ロワアームの前側のみメンバー取り付け位置を下にオフセット。ストローク時のタイヤの動きが前傾になることで通常よりトラクションが掛かる方向になるという。

パワーユニットは、現代D1GPでRB26を戦わせるのが難しいことから、父・野村謙選手と同じく東名パワード3.6Lキットを組み込んだ2JZ-GTEを使用。ECUはリンク・フューリーを採用し、テックスモディファイがセットアップを担当する。最高出力810ps、最大トルク120kgmという強烈なスペックだ。

タービンは、プライベートで愛用していたことをきっかけにスポンサードが始まったMGBタービン(海外名MAMBA)。よりパワーを求め、昨年のエビス西以降は3584RSからG40-1150へサイズアップした。

JZエンジンで高回転を出力する際の泣き所であるベルト飛び対策には、テンショナーの外側にベルトのズレを防ぐ、かえしを追加したユーラスの発明グッズ『NEW輪(ニューリン)』を装着。

室内は、カットした純正ダッシュをベースにフルコンLINKの集中メーターとカーテックのスイッチパネルを配置したシンプルな構成。重量級のER34だけに、固定式シートレールにするだけでも約5kgの軽量化ができたという。

3ペダルは純正レイアウトのまま。クラッチのみ金属製のネットでカバーし、普段もそうだが特に雨天時の滑り防止に役立つとのこと。

タイヤは父と同じくダンロップを愛用。D1専用サイズのディレッツァβ02・285/35R18を前後通しで使用。フロントにも285を履くのは、265よりフィーリングが好みだからだ。

カラーリングは今シーズンから赤・黒・白のクスコカラーに変更。ただし、チーム九州のアイデンティティである野村選手考案のデザインパターンとゼッケンはしっかり継承している。

そして迎えた2025シーズンの開幕戦・奥伊吹。足回りを変更した直後で、ほぼシェイクダウン状態での実戦だったが、1本目から「これは行ける」と感じたという。雨で濡れつつ乾き始める難しいハーフウェットの中、安定した走りを披露し、自身初となる単走予選突破を果たした。

シーズン後半は再びマシントラブルに悩まされ、目立った戦績こそ残せていない。しかし、本人も周囲も「一皮むけた」と認めるほどの成長を遂げている。

父が果たせなかったシリーズタイトルを目指し、野村選手の挑戦は続く。

TEXT:Miro HASEGAWA (長谷川実路) /PHOTO:Miro HASEGAWA (長谷川実路) &Daisuke YAMAMOTO(山本大介)

「ハチロクでD1GPに挑み続けて25年!」軽量&高出力のバランスを追求する田所義文AE86