プレリュードの走りをカレーで表すとどうなる?
自動車の試乗記では、「辛口」とか「マイルド」といった表現をすることがある。
乗り心地を別に「乗り味」と表現することもありますな。
そのクルマのキャラクターや乗り心地を、食べものに置き換えて表現しているのである。
筆者もある軽自動車の段差越えが硬かった感触を、「麻婆豆腐を作るとき、辛味の角を丸くするのに砂糖をひとつまみ入れるように、足まわりにちょい砂糖をまぶして突き上げ感を丸めてほしい」なんて書いたことがある。
しかし、食べものをクルマになぞらえる日が来るとは思わなかった。
タイトルに掲げたとおり、ホンダが飲食業に参入することを発表。
といっても、これはプレリュードの復活&発売を記念しての期間限定イベントで、12月4日(木)午後~7日(日)までの4日間、東京・渋谷のOPENBASE SHIBUYAで開催中だ。

ひとことでいうと、期間限定のカレー専門店。
その屋号たるや、車名「プレリュード」に引っ掛けた「プレリュー堂」を名乗る。
何だか古本屋か骨董品屋みたいな名だが、これが当たれば「アコー堂」「バラー堂」「クロスロー堂」「フリー堂」「ジェイ堂」「レジェン堂」と続けていくに違いない。
次のN-ONEのモデルチェンジでカレーイベント第2弾を考えるなら「N-壱番屋」にする手もある(わかるひとにだけわかればよろしい。)。
プレリュー堂の一般向けオープン直前、その「前奏曲」として、4日午前に先行取材会が奏でられた。

で、カレーとプレリュードがなぜつながるのか、誰もが疑問に思うことだろう。
この点、筆者も同じで、せいぜい「レ」と「ー」が共通であることくらいしか思いつかない。
新生プレリュードには、走り「味」をユーザー任意で切り替えることができる「ドライブモード」と、e:HEVの電気式無段変速機を疑似的に8段刻みにし、パドル操作でマニュアル風に走らせる「Honda S+ Shift」が搭載されている。
ドライブモードは、パワートレーンやステアリング、サスペンションなどの6項目を、「Mild」「Natural」「Responsive」「High」「Low」など、あらかじめホンダが組み合わせて3種のモードにパッケージしたもので、「GTモード」を標準に、すべての挙動がシャープになる「SPORTモード」、すべてを快適方向に振った「COMFORTモード」の3つがある。
これら3つのモードに「Honda S+ Shift」をONにすれば、3×2=6とおりの走り「味」・・・にひっかけ、プレリュー堂では、プレリュードの6つの走り味を多彩なスパイスで6つの味で表現したカレーを販売するのだ。

6種の味詳細
資料では、6つの味を次のように説明している。

まずはただのモード切替のカレーから。
1.GT スパイス
スイッチ操作をしない標準の走りのモードが「GT」。
したがって、カレーも後入れのスパイスなしの素の状態を「GT」と呼ぶ。
「トマトの酸味と、粗く挽いたクミンとコリアンダーの、立体感のあるフレッシュな香りで表現」したと。
まずは何もかけずに召し上がれ。
3.COMFORT スパイス
ハンドルは軽く、乗り心地はソフトに・・・すべてを快適性重視にした「COMFORT」がカレーになると、「ソフトで快適な乗り心地をカルダモンとフェンネル、シナモンで表現。甘い香りとスパイシーな風味を、上質さとリラックスした運転の特徴に見立てました。」となる。
ここまでがただのスイッチ切替によるカレーで、「Base Control」。
ここに「Honda S+ Shift」を加えた味のカレーが、次の3つから構成される「Honda S+ Shift」だ・・・だんだん何を書いているのかわからなくなってきた!
4.GT × Honda S+ Shift スパイス
バランス志向のGTに操作性を高めたモードをカレー化(何書いているのか、自分でもますますわからない。)。
「『GT』モードよりもさらにコリアンダーを強調し、柑橘系のフレーバーを引き立たせてそう快感をアップ。長距離でも快適さが続く乗り心地を表現。」。
5.SPORT × Honda S+ Shift スパイス
SPORTモードをマニュアルシフトで駆使し、「ワイルドな走りと、クルマとの一体感を感じるモード」は、見た目も味もピリリなチリペッパーで熱さを表す。
すなわち・・・
「ワイルドで魅惑的な昂(たかぶ)る走りの特徴を、花椒とチリペッパーを混ぜて表現。麻辣のようなやみつきになる辛さと、花椒の華やかな香りで刺激的に。」
6.COMFORT × Honda S+ Shift
「通常のCOMFORTモードよりも静かでなめらかな運転ができる」モードは、
「『COMFORT』よりもフェンネルの風味を強化。そう快感と甘苦い香りで、大事な人を隣に乗せて走るような上品でリラックスした乗り味を表現。」
筆者が気に入ったのは、1と3と5。
具は肉だけというシンプルなもので、おそらく豚バラブロックだが、「はぁ、専門家が作るカレーとはこういうものか」というのが感想。
味が深いのである。
ずっと前、インド人の経営するカレー屋さんに入ったことがあるが、それともひと味違うカレーだ。
筆者は、クルマなんぞ楽ちんするために乗るものだと思っているから、スポーツ志向のクルマも硬い乗り味も好まず、モード切替のあるクルマなら間違いなくCOMFORTを選ぶのだが、味覚もCOMFORT志向なのだろう、3のCOMFORTスパイスは、香りは強烈ではないからカレーの味わいを邪魔することなく、少しだけ風味を変えてくれたのがよかった。
ほのかに香るこのパウダー、そのまま部屋に置いて芳香剤に使ったらだめかな。
そして5のチリペッパーバージョン。
よく「辛いのが好き」というひとがいるが、筆者は辛いのが好きでも嫌いでもない。
好きな辛いものといったらせいぜい湖池屋の「カラムーチョ」くらいのもので、辛さに対しては中立である。
この、見るからに辛そうな「SPORT × Honda S+ Shift スパイス」パウダーをカレーにふりかけ、ひとさじ口にするや、口の中を強烈な辛さが一気に襲い、顔から汗が噴き出たものだ。
パリッとした辛みは花椒の効果だろうか。
おもしろかったのは、この非常にわかりやすい辛味が、すぐに水を口にしたら、「いまの何だったの」と思うほど瞬時に消滅して汗も引いたことだ。
たいていは、水を飲んだところでしばらくは辛味も汗も残るところだが、汗が引いたあとのすがすがしさが印象的だった。
「あらま、辛いのもいいじゃないの」と思ったのは初めてで、次も食べて見よっかなと思わせられた辛味だ。
辛いもの好きのひとの感覚がわかるような気がした。
想像に難くない一条さんの苦労
このカレーを監修したのは、スパイス料理研究家の一条もんこさん。
年間850食ものカレーを食べるという方で、ホンダの監修依頼で新型プレリュードに試乗し、各モードの走りの特徴を6つの味で楽しめるカレーを開発したと。
6つの味を口にして、一条さん苦労したろうなと思うのは、自身のテーマで味を構築しようとするのならまだしも、自動車の走り味をカレー味で表現なんていう要請に応えたことだ。
うかがえば、依頼を受けてから完成まで2か月かかったという。
そりゃそうだろう。
筆者は幼いころから料理番組が好きで、いろいろなものを作ったり、外で食べたものを再現したりするのだが(ひとにいうと「え~っ?」「信じられない」「そうは見えない」と口々に失敬な反応を示されるのがおもしろくないでいる)、やってわかるのは、料理には到達点はないということだ。
鶏のから揚げひとつ作るにしても、下味のためのしょう油、酒、しょうが、にんにくなど調味料の構成や配分、衣にする粉を小麦粉でいくか、片栗粉でいくか、混ぜるにしてもその比率をどうするか、揚げる油の温度は何度か、揚げ時間を何分にするか・・・各項目の量や時間を変えることによって出来上がりが異なる。
「1+1=2」のように答えはひとつじゃないし、自分がいいと思っても他人がダメといってきたらただの自己満足で終わる。
料理番組に出てくる土井善晴さんも、笠原将弘さんも、栗原心平さんも、大原千鶴さんも、辻調理師専門学校の先生方も、放送局の要請に沿ってよく考えるなあと思う。
ましてや一条さんの場合、素のカレーの他に5種のスパイス考案である。
プレリュードの走りを表現するのに、どのような5種にしようか。
それぞれに適したスパイスは何を使うか、それらの配合比率は?
その組み合わせは無限大なのだ。
6種の味の完成まで2か月なら、むしろ短いほうだと思う。
料理なんざあ化学と同じだ。
何かと何かを混ぜたり、熱を加えたりして化学反応させているだけで、実験材料がたまたま人間が口にできるものであるだけの話だ。
いくら専門家とはいえ、一条さんにとっては、まさに寝ても覚めてもカレーのことばっかりの2か月間で、スパイス研究家というよりは化学者か薬剤師の気分だったろう。
研究家でも専門家でもないくせに、なまじっか料理をするだけに、質問攻めをしてしまったが、6種のカレー味とともに、一条さんの苦労(想像だが)も印象に残った。
まあ、食べ物だけじゃなく、ものづくりに本気で取り組んでいるひとはみな同じだと思いますが。

【プレリュー堂 概要】
最後、プレリュー堂の概要は以下のとおり。
明日12月7日が最後なので、可能な方は行ってみるといい。
お値段は5種のスパイス付きで税込み500円。
いまどきこの内容でこの値段は安いほうで、他なら安くても800~1000円かも知れない。
・営業時間 : 2025年12月4日(木)~7日(日)
・営業時間 : 11:00 ~ 19:00
・入場料 : 無料(カレーは有料、一皿500円)
・支払方法 : クレジットカード、交通系電子マネー、QRコード決済
・場所 : OPENBASE SHIBUYA 1F
(150-0042 東京都渋谷区宇田川町14-13 宇田川町ビルディング)
・アクセス : JR渋谷駅 ハチ公口より徒歩8分
クルマでは行かないように。
周辺に時間止め駐車場はあるから別にクルマでもいいのだが、渋谷は特に駐車料金が高いので、お気を付けくださいますよう。











