50年前400万円で購入した「アストンマーティン DB5」をレストアしたら今や2億円？
朽ち果てた「アストンマーティン DB5」をアストンが本気でレストア
1965 Aston Martin DB5
19歳の溶接工が夢見た「DB5」
ウェールズ出身のジョン・ウィリアムズは、溶接工として働き、自身のガレージを経営する。1972年、18歳だった彼は「夢のクルマ」アストンマーティン DB5の購入を目標を掲げた。1年あまり倹約を続け、残業を繰り返しながらコツコツと900ポンド（現在の価値で約1万5000ポンド＝約370万円）を貯め、19歳になった1973年9月、北ウェールズの自宅からロンドンまで長距離列車に乗り、1965年式DB5を見に向かった。
ヴァンテージ仕様エンジン、ウェーバー製キャブレター、ワイヤーホイール、電動パワーウィンドウ。これらを備えたDB5は、まさにジョンが求めていた存在だった。彼はなけなしの900ポンドをその場で支払い、ウェールズにDB5を持ち帰った。その後、DB5を4年以上も日常の足として使い、1977年に中東での仕事を得たとき、自宅のガレージへと仕舞い込んだ。
「その後は人生の様々な時を過ごしました。『購入したい』という申し出もありましたし、私自身、お金が必要な時もありました。でも、我慢したのです。妻のスーが言った通り、『もう二度と手に入らない存在』でしたから……」と、ジョンは振り返る。
「近所の子どもたちが遊びに来て、クルマの上で遊んでいました。ボンネットで飛び跳ねたりしてね。ある子なんて、マフラーに乗っかって、折ってしまいましたから（笑）」と、妻のスーは懐かしそうに目を細める。
「時が経つにつれ、レストアすることが目標になりました。どうしても、もう一度運転したかったのです。ガレージを経営する人間として、あの状態にしてしまったことを恥ずかしく思っていました。苦労して買ったのだから、なんとか前の姿にもどしてやりたかったのです」と、ジョン。
2022年から3年を要したレストア作業
ウィリアムズ夫妻はニューポートパグネルのアストンマーティン・ワークスを訪れる。アストンマーティンのヒストリックカー部門の拠点であり、レストア部門の作業は2022年末からスタートした。ここは50年以上にわたって1万3000台以上のアストンマーティンが製造されてきた場所でもある。
それから約3年、夫妻は完成したDB5と対面するため、再びニューポートパグネルを訪れた。レストア作業中も、定期的にレストアの進捗を見守りに行っていたという。
夫妻の個体は、DB5の中でも最も人気の高い仕様として広く認められている。1965年式の右ハンドル、希少なヴァンテージ・エンジンを搭載、エクステリアカラーは今でも最も人気の高い「シルバーバーチ」。初代オーナーはサリー州セント・ジョージズ・ヒル地区在住していた。そこは当時、ビートルズのジョン・レノンとリンゴ・スターをはじめ、多くの著名人が暮らす高級住宅街だった。
1963年から1965年にかけて製造された1022台のDB5のうち、サルーンは887台のみ。そしてその中で、シルバーバーチのボディカラー、高出力ヴァンテージ・エンジン、右ハンドルという組み合わせで出荷されたのは、わずか39台。まさに「世界で最も有名なクルマ」の中でも、特に希少で魅力的な1台だと言えるだろう。
50年前の姿が蘇った大切な愛車
DB5を美しく甦らせたアストンマーティン・ワークスのポール・スパイアーズ社長は、次のように語る。
「これは本当に素敵な物語です。ウィリアムズ夫妻がこのクルマを、かつて製造された場所へと戻し、私たちにレストアを任せてくれたことを嬉しく思います。正直、ここに来た段階では、かなり深刻な状態でしたが、挑戦は大歓迎です。我々には新車以上に仕上げる技能や専門性があると確信していました」
「シャシー、パネル、塗装、トリムなど、各工房において合計2500時間以上の作業を行い、社内パーツ部門の重要な支援も受けて、ついに完成に至りました。私の目から見ても、驚くほど美しい仕上がりです」
仕様とヒストリーを考えると、もし市場に出せば100万ポンド（約2億円）の価値があることを、スパイアーズは明かす。
「ニューポートパグネルにアストンマーティンが拠点を構えて70周年となる2025年、ウィリアムズ氏のようなオーナーと出会えたことは、本当に励みになります。半世紀以上所有してきたクルマが、これほど丁寧にレストアされる様子を、見届けられたことは夫妻にとっても感慨深いでしょう。チーム全員が、この新しいDB5で末長く幸せなドライブを楽しんでいただけることを願っています」
数日前、フルレストアされたDB5と初対面したジョンは、静かに喜びを噛み締めた。
「本当に長かったです。長い時間がかかりました。でも、それだけの価値があります、本当に素晴らしい仕上がりです。このクルマを運転するのはおそらく50年ぶりになるでしょう。本当に信じらません。可愛い子供が戻ってきて、一緒に走れるようになったんです……、昔の栄光そのままに」
