第2世代バーチャルエクステリアミラーは折り畳みも可能に
アウディA6スポーツバックe-tronとA6アバントe-tronは、電気自動車(BEV)専用プラットフォームのPPE(プレミアム・プラットフォーム・エレクトリック)を採用した、プレミアムアッパーミッドサイズのクルマである。PPEはポルシェと共同開発したプラットフォームで、システム電圧は800V。ポルシェ側ではマカン・エレクトリックが採用。アウディではミッドサイズSUVのQ6 e-tronがすでに採用しており、A6 e-tronはアウディブランドとしては2例目となる。
ボディサイズは全長4930mm、全幅1925mm、全高は1470mm、ホイールベースは2950mmである。グロスで100kWh、ネットで94.9kWhのバッテリーを床下に搭載していることを考えれば、スポーツバックを名乗るにふさわしい低い全高を実現している。ただし、路面側にボディを延長してボリュームを稼いでいるようで、デザイン面で頑張ってはいるものの、厚みを感じるプロポーションだ。


筆者は撮影時に床下を覗き込むのをルーティンにしているのだが、A6スポーツバックe-tronの床下を覗き込んでみると、地面とフロアの間隔がかなり狭いのがわかる。そして床下は徹底的にフラット。空気抵抗の低減には有利に違いなく、その他の工夫もあってスポーツバックのCd値(空気抵抗係数)は0.21である(車両の空気抵抗は空気抵抗係数×前面投影面積で求められる)。「アウディ史上最も優れた空力性能」とのことだ。1982年のアウディ100がCd値0.30で、当時「世界最高の空力性能を達成」したことを考えると、隔世の感がある(実際、30年以上経過しているわけだが)。


航続距離の進化も著しい。アウディが同ブランド初のe-tronを日本で発売したのは2020年のことだった。このクルマはグロスで95kWh、ネットで86.5kWhのバッテリー容量を備えながら、WLTCモードによる一充電航続距離は405kmだった。それが、2021年のe-tron GT系では534kmに伸び、2022年のQ4 e-tron系では613kmになって、2023年のQ8 e-tron系(初代e-tronの進化版)は619kmになり、PPE初適用のQ6 e-tron系は731kmにまでなった(レンジプラスパッケージ装着車)。
そしてなんと、A6スポーツバックe-tronパフォーマンスにオプションのレンジプラスパッケージを装着した場合は、国内で販売するBEVの中で最長の数字となり(アウディ調べ)、一充電走行距離は846kmとなる。5年で倍以上に航続距離が伸びた計算。kWhあたりに換算すると8.9km/kWhだ。エンジン車でいえば感覚的には30km/L級の驚異的な電費である。

レンジプラスパッケージは新世代のバーチャルエクステリアミラーとアダプティブエアサスペンションの組み合わせ。バーチャルエクステリアミラーとはデジタルのアウターミラーのことである。鏡を使った物理ミラーの代わりにカメラで捉えた映像を車内のディスプレイに表示する仕組み。ミラー本体がコンパクトになるのでそのぶん空気抵抗が小さくなり、航続距離の伸長に貢献するというわけだ。
第1世代は2020年のe-tronで初適用された。日本のみならず世界で改善要望があったといい、どんな内容かといえば「格納機能がほしい」とのこと。バーチャルエクステリアミラーはそもそも物理ミラーに対して張り出しが2cm小さく折りたたむ必要はないのだが、出っ張っているように見えるのがイヤなのだろう。第2世代では折りたためるようになった。さらに、室内側ではカメラで捉えた映像を映すディスプレイの位置を第1世代より上方にし、視認性を向上させている。

アダプティブエアサスペンションは、乗り心地と操縦安定性を両立させるだけではなく、車速や好みに応じて4段階に車高を調節する機能を備えている。高速走行時は車体を20mm下げることで空気抵抗を低減。これによりエネルギー消費が抑えられ、航続距離の伸長に寄与する。

レンジプラスパッケージを装着していない素のA6スポーツバックe-tronパフォーマンスの一充電走行距離は769km、そのアバント版は734kmとなる。それでも、エンジン車並みの航続可能距離だ。
車名にパフォーマンス(performance)が付いているモデルは1基のモーターをリヤに搭載する後輪駆動。最高出力は280kW、最大トルクは580Nmである。S6スポーツバックe-tronとS6アバントe-tronはフロントにもモーター(最高出力140kW、最大トルク275Nm)を搭載したクワトロ(quattro)となる。機械的なつながりは持たないが四輪駆動だ。システム最高出力は405kW(ローンチコントロール時)となる。0-100km/h加速はシングルモーター仕様の5.4秒に対し、ツインモーター仕様は3.9秒でクリアする。

試乗車はスポーツバックe-tronパフォーマンス(つまりシングルモーターの後輪駆動)だった。レンジプラスパッケージを装着していない代わりに、バーチャルエクステリアミラーを単体でオプション装着(27万円)していた。さらに、S lineパッケージ、テクノロジーパッケージ、ラグジュアリーパッケージなどオプション満載で、オプション総額は263万円である。
バーチャルエクステリアミラーはまあ、初代よりは確かに見やすくなり、慣れは必要ではあるものの、バックで駐車枠に停める際も、ほぼ違和感なく行なうことができた。格納機能は見た目のスッキリ感が増し、周囲に対して「ワタシ、気を使ってます」感が表現できて好印象だ。
静かでスムーズだし、室内は先進的かつラグジュアリーなムードで満たされている。シングルモーターといえどもアクセルペダルをべた踏みしたときの加速は強烈で、シビック・タイプRの0-100km/h加速が5.7秒と記せば、5.4秒のシングルモーター仕様でも充分に速いことが理解できるだろうか。しかも、爆音は発しない。ただ静かに、そして速い。


モーターの発電機能を用いた回生ブレーキの制御は3パターンが用意されている。Dレンジ選択時はステアリングホイールのパドルによってコースティング(回生なし)、やや強い減速(弱回生、0.6m/s2)、強い減速(強回生、1.5m/s2)の3段階に調節することが可能。Bレンジを選ぶとさらに強い減速(2.5m/s2)を行なうようになる。
Dレンジでは停止間際にクリープに移行し、停止する際はブレーキペダルを踏む必要があるが、Bレンジはワンペダルドライブの制御となり、アクセルペダルの戻し側で完全停止まで持ち込むことができる。クリープはしない。また、ディスプレイ上のメニュー操作で自動減速機能を選択した場合は、車載カメラが前方の情報を監視し、状況に応じて自動減速(-0〜1.5m/s2)するようになる。

ドライブセレクトはバランスド(Balanced)がデフォルト。他のモードを選んでもシステムをオフにするとリセットされ、次に起動した際はバランスドに戻る。その他、ダイナミック、コンフォート、エフィシェンシーのモードがあり、モードごとに出力特性やダンパーの設定などが切り替わる。効率を重視してクレバーに乗るのもいいし、ハイパワーな特性を引き出してダイナミックに乗るのもいい。A6 e-tronはさまざまな楽しみ方に応えてくれるBEVだ。

| グレード | アウディA6 Sportback e-tron performance (エアサス仕様) | ||
| 全長 | 4930mm | ||
| 全幅 | 1925mm | ||
| 全高 | 1470mm | ||
| ホイールベース | 2950mm | ||
| 室内長 | ー | ||
| 室内幅 | ー | ||
| 室内高 | ー | ||
| 乗員人数 | 5名 | ||
| 最小回転半径 | 5.7m | ||
| 最低地上高 | ー | ||
| 車両重量 | 2230kg | ||
| 駆動方式 | RWD | ||
| システム最高出力 | 270kW | ||
| システム最大トルク | 565Nm | ||
| バッテリー種類 | リチウムイオン電池 | ||
| バッテリー総電圧 | 662V | ||
| バッテリー総電力量 | 100kWh | ||
| 一充電走行距離(WLTPモード) | 769km | ||
| サスペンション | 前:5リンク式マルチリンク 後:5リンク式マルチリンク | ||
| タイヤサイズ | 前:225/55R19 後:245/50R19 | ||
| 価格 | 981万円 | ||





