脱炭素社会の実現に向けて、EVをはじめとする電動車の普及・拡大が進む中、その中核を担うリチウムイオン電池の安定供給に向けたレアメタル資源の確保、とりわけ使用済みリチウムイオン電池のリサイクルによるリチウム資源の循環確立は、克服すべき重要な技術課題となっている。
従来廃電池のリサイクルでは、高価なニッケルやコバルトの回収が中心であり、リチウムの多くが廃棄されてきたが、近年、ニッケルやコバルトを含まないLFP(リン酸鉄リチウム)系電池の急速な普及に伴い、リチウム単体の回収ニーズが高まっている。本技術を適用することで、ニッケル・コバルト系電池に加え、LFP系電池を含む幅広いタイプのリチウムイオン電池から、効率的かつ高品質にリチウムを回収することが可能となり、リチウム回収の効率化による資源循環への貢献が期待される。
東レのNF膜は、これまで塩湖からのリチウム分離回収に活用されてきたが、使用済みリチウムイオン電池からの回収では、廃電池から金属成分を抽出した強酸性の硫酸浸出液をろ過する必要があり、従来の膜では強酸耐久性に課題があった。
そこで東レは、使用済みリチウムイオン電池を加熱処理して得られたブラックマス※2 の硫酸浸出液に対し、耐酸性を飛躍的に向上させた高耐久・高選択ナノろ過(NF)膜を用いてろ過処理を行うことで、リチウムを選択的に分離・回収する世界初の分離膜技術の提案と複数の実証を研究ラボスケールで進め、本技術で95%以上の収率で、リチウムを回収できることを確認した。

今回、東レは、環境省委託業務を通じて、有機合成化学・高分子化学・ナノテクノロジーの知見を融合させた高耐久・高選択ナノろ過(NF)膜エレメントの広幅化によるスケールアップに目途をつけた。このスケールアップにより、従来の水処理用途向けに展開しているエレメントと同サイズでのモジュール量産が可能となった。これにより、実用スケールでのリサイクルプロセスへの適用、そのための、顧客へのサンプル提供が可能となり、早期の市場投入と社会実装の加速が進められる。現在、日本を含む海外の国・地域への展開が視野に入れられ、供給体制の整備が加速されている。
【注釈】
- 高耐久・高選択ナノろ過膜:強固な耐酸性構造と1nm以下の精密な細孔構造の両立を実現した東レ独自の架橋高分子膜。1価イオンと多価イオンの選択分離が可能。
- ブラックマス:リチウムイオン電池のリサイクル過程で得られる黒色の粉体であり、リチウム、コバルト、ニッケル、マンガン、アルミニウム、鉄などが含まれている。
