広州汽車は中国の国有自動車大手メーカー。彼の地ではトヨタやホンダとも合弁事業を行なう

あの「AION(アイオン) 」が、日本で展示・試乗会を行った!…と聞いても、AIONがどんなブランドなのかピンと来る人は少ないだろう。アイオンは、中国の国有大手自動車メーカーである広州汽車集団(GAC)が展開する電気自動車のブランドだ。

中国の国有大手自動車メーカーである広州汽車(GAC=Guangzhou Automobile Group Co., Ltd.)。

広州汽車は、中国の国有自動車メーカーの一つであり、北京汽車(BAIC)、上海汽車(SAIC)、東風汽車、長安汽車などと並ぶ大手である。中国の自動車メーカーというと、日本ではBYDがおなじみになりつつあるが、BYDは民営という大きな違いがある。また広州汽車は、トヨタやホンダの合弁事業パートナーとして車両を生産してきた実績を持つ。

現在、広州汽車は3つの主要ブランドを展開している。全モデルがEVの専門ブランド「アイオン」、高性能スポーツカーやスーパーカーに特化した高級ブランド「Hyper」、そして従来からの「GAC Motor(伝祺/Trumpchi)」である。

8月から10月にかけて、ガリバーWOW! TOWN大宮とガリバーWOW! TOWN幕張で展示・試乗イベントを行ったのは、「アイオン Y プラス」だ。ファミリー層を意識したSUVで、サイズは全長4535mm、全幅1870mm、全高1650mm。日産アリアに近い大きさのボディには、約61.5kWhのLFP(リン酸鉄リチウムイオン)バッテリーを搭載し、CLTC基準で航続距離490kmを実現している。

アイオン Y プラス。近未来的なフォルムが目を惹く。
広いグラスエリアで、開放感ある室内を演出する。ドアハンドルは格納式。
ランプのデザインに凝っているあたりは中国車らしいところだ。

アイオン Y プラスの最大の特徴は後部座席の広さ。身長190cmの乗員でも快適に着座できる室内空間という謳い文句に偽りはなく、後席スペースは広々。中国ではタクシー用途でよく使われており、筆者も上海モーターショーの取材で訪中した際、何度か利用したことがある。荷物も多い移動だったため、後席にゆとりがあるAION Y Plusに出くわしたときは「ラッキー!」と思ったものだ。

アイオン Y プラスの後席。フロアがフラットで、足元スペースは広々している。
アイオン Y プラスの前席。サポートはタイトではなく、ゆったりとした座り心地だ。

というわけで、後席に座った経験のあるアイオン Y プラスだが、実際にステアリングを握ったのは今回が初めて。アクセルを踏み込むと、150kWの最高出力を擁するモーターが前輪を駆動する。その加速は、EVらしくスムーズでパワフルなもの。加速力のインフレ化が激しい最近のEVの中では穏やかな部類だが、交通をリードするには十分以上の速さだ。

中国車といえば、車内のエンターテインメント化が著しい。物理ボタンを減らしてすっきりとしたインパネに大きなスクリーン、というのが王道だが、アイオン Y プラスもその例に漏れず、中央には14.6インチのタッチスクリーンを配置。ドライバーの正面に位置する液晶メーターも10.25インチと大型で、視認性は上々だ。

水平基調のダッシュボードに大型液晶モニターの組み合わせ。インパネも最近の中国車のスタンダードと言えるデザインだ。

走行モードは4種類を備える。アクセルオフでほぼ停止まで減速する「i-Pedal」モード、150kWモーターの性能を最大限に発揮する「Sport」モード、バランスを重視した「Normal」モード、そして効率重視の「Eco」モードである。バッテリーの最適温度である約25度を維持するため、加熱システムと冷却システムの両方を搭載する。

ドライブモードはセンターディスプレイから変更が可能。

また、車両の電力を外部機器に供給できるV2L機能(Vehicle to Load)を搭載。キャンプなど屋外シーンでコーヒーメーカーや調理器具の電源として使用できる。

2026年に法人販売、その2年後からは一般ユーザー向けの販売も計画!

そんなアイオン Y プラスだが、残念ながら日本での販売計画はない。しかし、GACは2026年から「アイオン UT」というコンパクトEVと「アイオン V」というSUVタイプのEVを法人向けに販売することを計画中で、さらに2028年頃には一般ユーザー向けにも販売を拡大させる意向だというのだ。今回のイベント会場には両車のポスターも貼られており、そこにはアイオン UTが330〜450万円、アイオン Vが500万円〜という価格も表記されていた。

会場に貼られていたアイオン UTのポスター。車両は4年/10万km、バッテリーは8年/20万kmの保証付きで330〜450万円という記載がある。
もう1枚のポスターはアイオン V。こちらは航続距離650km、メーカー希望小売価格(MSRP)は500万円〜と記載されている。全長約4.6m、全幅約1.85mのミドルクラスSUVだ。

そうしたGACの日本進出をサポートしているのが輸入車インポーターのMモビリティ社だ。同社はNIO(ニオ)の共同創設者であるジャック・チェン氏が代表を務めており、「EV導入やスマートシティのモビリティソリューション、フリートの電動化コンサルティングサービスに特化して、車両販売や輸入認証などといった事業」を展開しているという。今回、アイオン Y プラスが日本の公道を走行できるように必要な保安基準の適合作業も、Mモビリティ社が担当した。

ひょっとするとガリバーの販売店でもアイオン UTとアイオン Vを購入することができるようになるのかも!?と思って聞いてみたのだが、その計画はないそうだ。ガリバーを運営するIDOMは、政府が2035年までに乗用車の新車販売を電動車100%とする目標を掲げる中、ひとりでも多くのユーザーにEVに触れてもらうことに大きな意義があると考え、今回の展示・試乗会を行ったとのこと。

ガリバーWOW! TOWN幕張

10月~11月にかけて行なわれたジャパンモビリティショー2025では、BYDが軽自動車規格のEVを披露して大きな話題を集めたことが記憶に新しい。来年以降、GACの日本進出が実現すれば、また新たなEVの選択肢が増えることになる。その成り行きを見守りたいところだ。