ドライサンプで低重心化と低ハイト化

4.0L V8ツインターボエンジンは、低重心化と低ハイト化を図るため、ドライサンプ潤滑方式を採用した。一般的なエンジンはクランクケースの下部にオイルパンを設けてここにオイルを溜め、ここからオイルを汲み上げて循環させる。いっぽう、ドライサンプはオイルパンを設けず、スカベンジポンプで強制的にオイルを回収して外付けのタンクにオイルを溜め、循環させる。ドライサンプはレーシングエンジンに一般的な潤滑方式で、GR GTもこれを採用した格好(レクサスLFAの4.8L V10自然吸気エンジンもドライサンプだった)。



エンジンのバンク角はV8エンジンとしては一般的な90度。クランクシャフトは軸方向で見た時にクランクピンが十字配置になるクロスプレーン・クランクシャフトを採用している。90度ごとの等間隔燃焼になるが、片バンクで見れば不等間隔燃焼になって排気の動的効果を利用するのに不利だし、脈動感のある独特の排気音になる。ただし振動バランスに優れるため、乗用車ではクロスプレーンを採用する例が多い。
いっぽう、V8の場合はクランクピンが180度位相で並ぶフラットプレーン・クランクシャフトの選択肢もある。この形式では等間隔で燃焼する片側4気筒の排気脈動を利用して性能を高めやすく、レーシングエンジンや一部のスポーツカー用エンジンで採用例が多い。ただし、振動に難がある。「全体のパッケージを考えて」という回答になるが、GR GTはどうも、振動を嫌ってクロスプレーンの採用に決めたようだ。
燃焼のコンセプトは現行量産エンジンの主力であるTNGAの考え方が出発点だそう。排ガスのクリーン化に効果があるため、燃焼室の中央にスパークプラグと直噴インジェクターを配置。吸気ポートにもインジェウターを配置したのは、始動性や排ガス性能、それにNV(振動・騒音)の観点からだという。吸排気にVVT(可変バルブタイミング機構)を適用したのは、排ガスと性能を両立するため。エンジンもやはり、「サーキットも走れて、日常も苦もなく走れる」をテーマに開発されている。




シリンダーボアにはライナーを鋳込まず、溶かした鉄を吹きつけて薄い膜を形成する溶射ボアを適用。やはり、レーシングエンジン由来の技術だ(量産エンジンにも適用例は多いが)。鋳鉄ライナーに比べて格段に薄くできるためボアピッチを攻めることができてエンジン全長の短縮に寄与するし、冷却水路への熱伝達効率が上がるため冷却効率は高くなる。
ターボチャージャーは一般的なタイプで、可変ベーンも電動コンプレッサーも採用していない。負圧式ではなく電動ウェイストゲートを採用したのは、制御性の高さを考えてのことだろう。インタークーラーは水冷に見えるがどうだろうか。



以上、パッケージングとパワートレーンを中心にGR GTを観察してみた。量産車開発で培ってきた技術と、レース車両&レースエンジン開発で培ってきた技術をベースに、スポーツカーづくりの秘伝のタレが調合された、スペシャルなクルマである。