ゲームを変える「ノイエクラッセ」とは?

BMW新型iX3

オリバー・ハイルマーは昨年3月、都内で開催された新型ミニクーパーの発表会に登壇していた。今回は新型BEVのiX3と共に来日。というのも昨年10月1日付けで、ノイエクラッセのデザインディレクターに異動したからだ。BMW Mのデザイン責任者も兼任している。そんな彼にモビショーの会場でインタビューした

BMWデザインでは従来、トップのエイドリアン・ファン・ホーイドンクの下に二人のディレクターがいて、小型〜中型と中型〜大型というように車格で担当を分けていた。ノイエクラッセのデザインディレクターというのは、新設のポジションなのだろうか?

Oliver Heimer(オリバー・ハイルマー)Head of Design, BMW Compact Class, Neue Klasse and BMW M
独フォルツハイム大学でデザインを学んで2000年にBMW入社。16年から米国デザイン拠点のトップを務めると共に、17年からミニのデザイン統括を兼務。24年10月からノイエクラッセとBMW Mのデザインを統括している。

「実質的に変わりはない。私は言ってみればX4ぐらいまでのデザインを監督し、それより上の車種は同僚が見る。ただ、我々がiX3やi3を始めた頃から、エイドリアンは私にノイエクラッセを担当してくれと言っていたんだ」

同僚とはボルボやポールスターを経て、昨年春にBMWに移籍したマキシミリアン・ミッソーニのこと。i3は来年にも登場する3シリーズ級のBEVである。

BMW新型iX3のプレゼンテーションを行なうオリバー・ハイルマー氏。

「いつの日にかノイエクラッセとは言わない日が来るだろう。ノイエクラッセはBMWファミリーの全体に波及するものだからね。今はその始まりの大事な時期だが、いずれはすべてがノイエクラッセになる」

つまりハイルマーさんは、全車をノイエクラッセにしていく転換期のデザインを統括する立場?

「その通りだ。それを実際にどうスタートさせるか? 新しいマインドセットを持たねばならない。そこで『一緒にゲームを変えよう!』という社内スローガンを作った。これは今の我々の働き方をまさに表現している」

「より協調的な働き方にすることで、プロセスがリニアになり、摩擦が減り、完璧な製品に向けた目標に共通認識が生まれる。新製品を開発するなかでそれがニューノーマルになってきたのは、素晴らしいことだ」

BMW新型iX3

ノイエクラッセはマインドセットなのか?

2年前のモビショーに展示されたビジョン・ノイエクラッセは、3シリーズ・サイズのBEVという姿を使ってノイエクラッセの方向性を示すコンセプトカーだった。それゆえ当時はノイエクラッセはコンパクト系BEVを意味するものと解釈されがちだったが、実は違ったのだ。

ジャパンモビリティショー2023の会場で、アジア初公開となったEVコンセプトモデル「BMW Vision Neue Klasse(ビジョン ノイエクラッセ)」

今回のモビショーのプレスカンファレンスで、BMWの開発担当取締役のヨアキム・ポストはこう語っていた。「2027年末までにノイエクラッセのDNAを持つ40車種を送り出す」

ノイエクラッセは3/4シリーズ以下の小型車に限るわけでも、BEVに限るわけでもない。では、ノイエクラッセの定義とは何なのか? 新しいプラットフォーム? 新しいE&Eアーキテクチャー?

BMW新型iX3

「私としてはむしろマインドセット(考え方の基本的な枠組み)だと言いたい」とハイルマー。「おっしゃるようにノイエクラッセは新しいテクノロジーを意味する言葉でもあるが、パワートレインのタイプは関係なく、今後のBMW各車がノイエクラッセのマインドセットを体現していく。これは明確だ」

「マインドセットをシフトしたことで、デザインや開発のチームが必要なことだけに集中できるようになった。そして、これがまったく新しいアプローチなのだと会社の全員が認識できるように、ノイエクラッセと名付けたのだ。」

ハイルマーがそう語る隣りで、BMW本社の広報担当者がスマホで一枚の写真を見せてくれた。1962年に発売され、「ノイエクラッセ」と呼ばれたBMW1500。小さなイセッタと大型の501の間に生まれた、まさにニュークラスであり、72年の初代5シリーズや75年の初代3シリーズの原点になったセダンだ。

1962年に発売されたBMW1500

「60年代のノイエクラッセがいかに重要だったかは誰もが理解している。あれはBMWにとってゲームチェンジャーだった」とハイルマー。「誰もが知っている北極星を指差して、この方向だと言う。それが今回のノイエクラッセのアプローチだ」

パノラミックビジョンという発明

BMW パノラミック  iDrive

マインドセットについてはわかったが、もう少し具体的なことを聞きたい。ノイエクラッセと呼ばれるクルマに不可欠なものは何だろう? 例えばウインドシールド下端の幅一杯に情報を表示する「パノラミック・ビジョン」は、どのノイエクラッセ・カーにも装備される?

「イエス、もちろんだ」とハイルマー。「そのためインテリアのレイアウトを新しくした。パノラミック・ビジョンは次世代のパーフェクトなヘッドアップディスプレイであり、それに、傾いた(平行四辺形の)センターディスプレイと小径ステアリングホイールを組み合わせている。インテリアをより軽やかに、エアリーに、スペーシャスにするという意味でも、これは重要な方向性だ」

BMW パノラミック ビジョン

2年前のビジョン・ノイエクラッセにもパノラミック・ビジョンが搭載されており、筆者はBMWデザインのトップであるエイドリアン・ファン・ホーイドンクにその意図を聞いていた。要約すると・・。

運転中の視線移動を減らすために、情報を高い位置に表示したい。情報を乗員すべてが共有できるようにしたい。そこでウインドシールド下端にワイドなディスプレイを設けることを考えたのだが、これはドライバーにとってはステアリングの上から見る高さだ。

ステアリングの内側からディスプレイを見る必要がなくなったので、ステアリングはスイッチの操作性を優先して縦方向の2本スポークにした。9時15分の位置でステアリングを握ったまま、ステアリング・スイッチを無理なく操作できる・・。

ただ、窓下にワイドなディスプレイを備える例は、すでに中国車にある。アヴァター(Avatr)とシャオミ(Xiaomi)だ。2023年のアヴァター12はディスプレイを直接見る方式だが、シャオミが今年7月に発表したSU7は、BMWのパノラミック・ビジョンと同様に、ウインドシールドのガラスに投影した虚像を見る方式だ。ハイルマーはこう答える。

アヴァター(Avatr)のインテリア
シャオミ(Xiaomi)のインテリア

「パノラミック・ビジョンはBMWの発明であり、もちろんパテントを取得済みだ。競合他社がキャッチアップしようとしているのは承知しているが、我々の大きなアドバンテージは表示のクオリティであり、パーソナライゼーションのレベルにある。あなたが欲しい情報をそこに出すことができるのだからね」

エクステリアデザインにもノイエクラッセとしての進化がある

BMW新型iX3

「サーフェス・トリートメント(造形の玉成)が大事なのは常識だが、曲面や、曲面のなかでの(勢いの)加速に注力した。フォルムの要素を減らしていこうとすれば、そうしたディテールにより焦点を当てる必要があるのだ」

iX3を見ると、線の要素が少なくてシンプルだし、ひとつ一つの面が引き締まっている。ただ、その傾向は現行X2ですでに感じられていたのだが・・。

BMW新型X2

「そこに気付いていたとは興味深いね。要素を減らす試みは、実は(2021年の)iXから始まっていた。メインのテーマを大事にして、それ以外の要素を減らそうというムードは当時からあったのだが、一夜にしてすべてを変えることはできない」とハイルマー。

「市場からのフィードバックを聞きながら、少しずつシンプルで穏やかなフォルムにしてきた。何かを変えるにはいつも、タイミングというものがある。ノイエクラッセを送り出す今こそ、完全に変えるタイミングだ」

「フロントエンドのレイアウトはノイエクラッセのアプローチをベースに変えていく」とのこと。言い換えれば、必要なものだけで構成するということだろう。iX3は中央に縦長のキドニーグリルがあり、ヘッドランプからそこに向けてライン状のDRLを配している。デザイン意図のないものでスペースを埋めるようなことはしていない。

「ただし、クルマのキャラクターに応じて構成が変わる。iX3は縦長のキドニーだが、i3はもっと水平基調になるし、例えばスポーティクーペではまた違うキドニーをお見せすることになるだろう」

次期3シリーズとi3はよく似ている?

ここで、ちょっと踏み込んだ質問を投げかけてみた。ノイエクラッセというマインドセットのなかで、例えばICEの次期型3シリーズとBEVのi3デザインを、どう差異化するのだろう?

「そうした差異化は必要ないと考えている。機能の視点では違いが出る。例えば直6エンジンを積む必要があれば、プロポーションが違ってくる。ハイパフォーマンスカーはフロントのエアインテークが大きくなるだろう。しかしデザインで表現するキャラクターに関しては、3シリーズはパワートレインに関わらず3シリーズだ」

BMW 3シリーズ 次期型 予想CG

「これはすでに実証されている戦略だ。例えばi5と5シリーズのスタイリングは、小さな要素は違うだけ。それで成功している」とハイルマー。それはもちろん承知の上だが、海外の報道によれば、次世代のICEの3シリーズは現行型の進化版的なデザインになると言われていて・・。

彼は「ノー」と即答。「ICEもノイエクラッセになる。これ以上は話せないからお楽しみに」と告げながらも、こう続けた。

「社内でこんなことがあった。社員のなかに、(ICEとBEVの)違いに気付かない人がいたのだ。経験ある人たちなのにね。彼らは(どちらも)新しいけれどBMWらしい、と語っていた。だから、あえて差異化しないという戦略は、ノイエクラッセでも機能している。BEVではパッケージングの利点を活かして後席のレッグルームを増やしたので、そういう違いはあるけどね」

で、その来るべきi3/3シリーズのデザインは2年前のビジョン・ノイエクラッセに近い?

「とても近いよ。発表されたときにわかるはずだ。そこは確信している」