近年、半導体市場は急速な成長を続けており、製品の微細化・高集積化が進む中で、製造現場ではわずかな静電気でも製品の破損や歩留まり低下といった課題が発生している。そのため、製造工程の各段階で使用される搬送資材にも、従来以上に高い帯電防止性能が求められている。また、工程内では内容物が確認できる透明ケースや、色分けによる識別が可能なカラーパーツへのニーズもあり、意匠性や良外観性も重要な要素となる。こうした背景から、従来は導電性フィラー※2を配合した制電ABS樹脂が主に使用されてきたが、帯電防止効果の持続性や成形品外観、カラーバリエーション対応などに制約があり、こうした課題を同時に解決できる新たな素材が求められていた。

東レは、ABS樹脂中に制電ポリマー※3の連続層ネットワーク※4を形成させることで帯電防止性を付与した、持続型制電ABS樹脂「トヨラックパレル」を上市し、半導体製造工程向けにも多く採用されている。今回の開発材は、制電ポリマーの分子構造設計の改良と、独自のポリマーアロイ技術によるミクロ単位での連続層制御を実現したことで、従来材の1/5以下となる表面抵抗率109Ω/sqを達成している。これにより、「トヨラックパレル」の高制電タイプとしてラインナップを更に拡充し、従来以上に幅広い用途や、より厳しい高制電要求にも対応可能となった。

【注釈】

  1. 表面抵抗率:薄い膜やシート状の材料の表面における電気抵抗の大きさを表す指標。単位は「オーム・パー・スクエア(Ω/sqまたはΩ/□)」で、この値が高いほど電気を通しにくく、静電気が発生しやすいことを表す。数値はASTM D257に準拠した測定値。
  2. 導電性フィラー:樹脂に導電性を付与する目的で添加され、主な導電フィラーとして粒子状のカーボンブラックや炭素繊維等が挙げられる。
  3. 制電ポリマー:ポリマー型の帯電防止剤。界面活性、導電フィラーの配合や表面処理では、長期間で脱着や剥離が生じ、帯電防止性能が低下する問題がある。