EVブームの終わりと踊り場に立つ2025年

VWグループも急速な「EVシフト」によって業績が悪化(写真はOliver Blime CEO)。
VWグループも急速な「EVシフト」によって業績が悪化(写真はオリバー・ブルーメ CEO)。

世界中の政府が補助金と規制で電動化をあおり、自動車メーカーは巨額投資を約束し、サプライヤーは電動コンポーネントの技術発表に奔走する。業界全体が「EVこそ唯一の正解」と信じ込んだ結果、その揺り戻しがはっきりと見え始めたのが2025年でした。

BEV(純電気自動車)の販売台数そのものは増え続けているものの、成長曲線は明らかに鈍化し、需要は“踊り場”にさしかかりました。高価なバッテリーの開発と専用工場の建設に多額の資金を投じたにもかかわらず、想定ほどBEVが売れない……。その裏で、利益を生んできた内燃機関搭載モデルは、規制と自らの方針によって絞り込んでしまった。

結果として、欧州を中心にOEMやサプライヤーの業績は圧迫され、投資計画の見直しや人員の削減が日常的なニュースになっています。

ドイツ自動車業界:EU政府の「2035年ICE禁止」に対立姿勢

ドイツの大手サプライヤー、マーレのアルント・フランツCEOは、ハイブリッドやレンジエクステンダーなど「効率の良いICE」の重要性を強調。
ドイツの大手サプライヤー、マーレのアルント・フランツCEOは、ハイブリッドやレンジエクステンダーなど「効率の良いICE」の重要性を強調。

この状況に対する不満は政策に矛先を向け始めています。象徴的なのが、EUが掲げる「2035年にICEを搭載する新車の販売を禁止する」という方針に対するドイツ自動車業界の姿勢です。大手サプライヤー、MAHLE(マーレ)のアルント・フランツCEOは、同社が開催した“テックデイ”の場でハイブリッドやレンジエクステンダーの重要性を強調しつつ、「法律には(電動化一辺倒ではなく) “技術的な中立性” が必要だ」と訴えました。

また、eFuelなどの再生可能燃料を用いることで、ICEの“カーボンニュートラル”を実現できると強調。こうした技術が選択肢から外されれば、現在行っている莫大な開発投資をストップせざるを得ず、欧州全体で20万人規模の雇用が失われる可能性があるという試算も示しました。

一部のドイツ人記者からは、「ブリュッセル(欧州政府)への批判?」との質問が飛ぶほど、 “歯切れの良い” フランツCEOのコメントが印象的でした。

(追記:12月16日、2030年からの内燃機関搭載車両の販売禁止をEUは事実上撤回した。アメリカの経済ニュースメディア “ブルームバーグ”は、「方針転換の裏では、ステランティスやメルセデス・ベンツなど自動車メーカーの強烈なロビー活動があった」と説明している。)

アメリカ:「恣意的な燃費規制」から脱却しEV一辺倒から距離を取る

アメリカではトランプ政権が燃費規制を緩和する方針だと伝えられる。
アメリカではトランプ政権が燃費規制を緩和する方針だと伝えられる。

アメリカでは、トランプ政権がバイデン前大統領時代の燃費規制を大幅に修正しようとしています。メーカごとの平均燃費(※1)を2031年に50.4mpg(約21km/L)とする目標値を、34.5mpg(約14〜15km/L)に引き下げると言われています。

同時にNHTSA(※2 道路交通安全局)は、この数値を「ガソリン車やディーゼル車など燃料を燃やす車だけで達成可能な水準でなければならない」と法解釈を実質的に改めることを表明しました。バイデン政権下で可能だった「BEVを大量に売ることで平均燃費を引き上げる」という恣意的なやり方を “リセット”(※3)する方針です。

自動車メーカーにとって、BEVを増やさざるを得ないプレッシャーは弱まります。利幅の大きいピックアップトラックやSUVのガソリン車やハイブリッド車が、再び“稼ぎ頭”として見直されることになるでしょう。

AMGのV8回帰が示す「感性価値」の復権

直4プラグインハイブリッドからV8エンジンへの回帰が噂されるAMG。
直4プラグインハイブリッドからV8エンジンへの回帰が噂されるAMG。

規制や投資といった政治・経済的な話とは別に、「クルマは感性のプロダクトである」という現実も無視できません。メルセデスAMGが4気筒エンジン+PHEVの「63」系で苦戦し、V8エンジンへの回帰に舵を切り始めているのは、その象徴です。スペックとしては4気筒PHEVが高性能であっても、「高価なAMGで4気筒は味気ない」「音とフィールが物足りない」というコアユーザーの違和感は消えません。これからのプレミアムスポーツの世界では、V8+電動化という“官能と効率の両立”を狙ったパッケージが、再び主流のひとつとして浮上してくるでしょう。

「電動化かICEか」ではなく、「用途別の最適化」という答え

クルマのパワーユニットも、「適材適所」の考え方が必要だろう(写真はマーレのレンジエクステンダーユニット)。
クルマのパワーユニットも、「適材適所」の考え方が必要だろう(写真はマーレのレンジエクステンダーユニット)。

こうして世界の動きを俯瞰すると、「電動化か、内燃機関か」という二者択一の議論自体は、すでに時代遅れであることが見えてきます。

都市圏で短距離移動が中心のコンパクトカーならBEVが理にかなっている一方で、長距離移動が多いユーザーにはハイブリッドやPHEV、レンジエクステンダーが現実的な選択肢になります。小型商用車のフリートでは、夜間充電が可能な都市部でBEVの採用が進み、寒冷地や地方ではディーゼル+再生可能燃料やハイブリッドの価値が残る。大型トラックの世界では、地域ごとに燃料電池、高効率ディーゼル、水素やバイオ燃料など複数のソリューションが並立するでしょう。

重要なのは、用途ごとに最も効率の良いパワートレインを選ぶ、という発想への転換です。乗用車、商用車、スポーツカーなど、それぞれの役割と使われ方に応じて、ICE、ハイブリッド、PHEV、BEV、レンジエクステンダーを組み合わせる──、マーレが掲げる「Technology Diversity(技術の多様性)」は、まさにその方向性を言語化したものと言えます。

2026年は「戦略的電動化」へ

トヨタは、かねてからた「マルチパスウェイ」戦略を訴えてきた。
トヨタは、かねてから「マルチパスウェイ」戦略を訴えてきた。

2026年は、こうした考え方が業界の共通認識として固まっていく年になるはずです。クルマの電動化そのものは後戻りしないでしょう。しかし、それを一律に、急進的に、感性を無視し、そして政治がインセンティブで強引に推し進めるやり方は決して持続可能ではありません。

代わって浮かび上がるのは、合理性と冷静さを取り戻した「戦略的電動化」です。環境問題とあわせ、ユーザーの生活と感性、産業の競争力、そして雇用を含めたトータルの最適解を探るフェーズへと、世界の自動車業界は歩みを進めるでしょう。

自動車産業は既に正気を取り戻しつつあります。課題は、各国の政治・行政が “様々な思惑” を排し、理性的な姿勢に変われるかどうかにかかっているのではないでしょうか。


※1CAFE: Corporate Average Fuel Economyの略。自動車メーカーごとの販売車両全体における平均燃費。

※2 NHTSA: National Highway Traffic Safety Administrationの略。日本の運輸省に相当する “Department of Transportation” に属する。

※3 “Resetting the Corporate Average Fuel Economy Program” (「CAFEプログラムのリセット」に関する法解釈)を6月11日に公開。