日産再建のカギ「ハートビートモデル」の一端を担うNISMO

日産自動車と日産モータースポーツ&カスタマイズ(NMC)が発表したNISMOブランドの新戦略は、単なるスポーツグレード拡充の話ではない。NISMOを日産ブランド全体の価値を底上げする中核に据えるという、明確な意思が示されている。

今回の発表は、日産の経営再建計画「Re:Nissan」における商品戦略と強く連動している。同計画では、ブランドの情熱やDNAを体現する存在として「ハートビートモデル」を重視しており、NISMOはその象徴的役割を担う存在と位置づけられた。NMCは、EmotionとExcitementを生み出すことでNISMOの価値を高め、その結果として日産ブランド全体の魅力を引き上げることを使命に掲げている。

中核となるのがモータースポーツ事業だ。NMCは「Road to track, track to road」という考え方を改めて明確にし、SUPER GTやフォーミュラEといったトップカテゴリーで培った技術、思想、開発プロセスを市販車へと還元していく。レース活動は単なる宣伝手段ではなく、人と技術、クルマを鍛える場であるという日産の伝統的な思想が、ここで再確認された形だ。さらに、スーパー耐久シリーズや新たなレースカテゴリーへの挑戦を通じて、次世代スポーツモデルに繋がる技術基盤の構築も進められる。

フェアレディZをベースとしたカスタマー向けのレース車両「Nissan Z GT4」

加速するグローバルブランド戦略

このモータースポーツ活動と強く結びつくのが、NISMOロードカーの拡充を軸としたカスタマイズ事業である。現在、グローバルで5車種にとどまっているNISMOロードカーは、今後ラインアップを倍増させ、仕向地も拡大される計画だ。年間出荷台数は現状の約10万台規模から、2028年には約1.5倍へと引き上げられる見通しで、海外販売比率も約40%から約60%へと高める方針が示されている。NISMOが日本市場中心の存在から、よりグローバルなブランドへと進化していく方向性が読み取れる。

今回の戦略で特に注目すべきなのが、プロトタイプモデルを実際のレースに投入し、実戦で鍛えたうえで市販化を目指すという新たな開発アプローチである。これは、モータースポーツ事業とカスタマイズ事業をより密接に結びつける試みであり、レースカーとロードカーの開発現場における人材交流も含め、ハードとソフトの両面でレベルアップを図る狙いがある。従来以上に“レース由来”を実感できるNISMOロードカーが生まれる可能性を示すものと言える。

世界で注目が集まるレストア事業を拡大

レストア事業のメインは第2世代のGT-R(R32-R34)で約7万台生産された。

一方で、NMCは未来志向の取り組みだけでなく、過去の価値を磨き直すヘリテージ・レストア事業にも力を入れる。世界の自動車レストア市場は現在約5,000億円規模とされ、2032年には1.2兆円規模にまで成長すると予測されている。こうした市場環境を背景に、NMCは第二世代GT-R(R32〜R34型)を中心としたレストアおよびレストモッド事業、純正パーツ販売の対象車種や地域を拡大していく方針だ。単なる旧車再生ではなく、NISMOが培ってきた技術と思想を注ぎ込んだ“公式ヘリテージ”としての価値提供が狙いである。

NISMOファクトリーのショールームには様々な名エンジンが展示されている。

NMCの成り立ちを振り返ると、今回の戦略が一過性のものではないことがわかる。1936年に始まる日産のモータースポーツ活動を起点に、1984年のNISMOブランド誕生、1986年のオーテックジャパン設立を経て、2022年に両者が統合されNMCが誕生した。モータースポーツとカスタマイズ、そして市販車開発を横断的に担う現在の体制は、まさに今回の戦略を実行するために整えられてきたとも言える。

モータースポーツで鍛え、ロードカーで広げ、ヘリテージで深化させる。NISMOを軸に据えた日産の新戦略は、ブランド再生に向けた明確なシナリオを描き出している。その成果が、今後どのようなクルマとして具体化していくのか、注目は高まるばかりだ。