VG30DET×5速MTで武装!
サイレン音ともに背後に迫るドリフトパトカー
フルカウンター状態のままコーナーから飛び出してきたのは、赤いパトランプを回す覆面パトカー仕様のY31セドリック。すっかりセダンが衰退した令和の現在、覆面パトカーといえばクラウンが主流だが、昭和から平成にかけては、ミラーにセドリックが映っただけで思わず身構えてしまうほど、「覆面=セドリック」という時代が確かに存在していた。

「若い頃、交通違反で白黒パンダのY31セドリックに捕まったことがあるんですが、そのときに“格好いいな”と惹かれてしまって。それがきっかけでY31に魅了されました」。そう語るのは、交通機動隊員を彷彿とさせる衣装で美浜サーキットに登場してくれた中沖さんだ。
Y31を購入後、当初はノリでパトランプを載せて遊んでいたというが、刑事ドラマでパトカーが派手にドリフトするシーンを目にしたことで状況は一変。「よし、俺もY31でドリフトしてみよう」と本気の製作を決意したという。

ただし、購入時はドリフトを想定していなかったため、ベース車は非力なVG20Eを搭載するブロアム。最高出力125ps、最大トルク17kgmというNAエンジンでは、ドリフトどころかスポーティに走ることすら難しかった。そこでチューニングと並行して覆面パトカーとしての作り込みを進め、最終的にVG30DETと5速MTを換装した“ドリパト”が完成する。

Y31セドリックには3.0Lターボモデルも存在したが、それはシングルカムのVG30ET。どうせ換装するならポテンシャルの高いエンジンを、という判断から、エンジンハーネスを新規で引き直し、心臓部にはY31シーマに搭載されていたツインカムのVG30DETをチョイスした。

インタークーラーはワンオフ製作したパイピングを用いて、フロントバンパー開口部へ配置。コアはブラックアウト処理を施し、極力目立たないようバンパーとの一体感を重視している。

Y31セドリックはタクシー用途でも人気が高く、MT仕様が用意されていたことから、MT化自体は比較的容易だった。しかし2.0L・NA用の設計ではVG30DETの強大なトルクに耐えきれず、ミッションは消耗品状態。現在搭載されているものは、すでに4基目になるという。擦り切れたシフトブーツや純正シフトノブが、かえって覆面パトカーとしてのリアリティを高めている。

灰皿部分に装着されたブーストコントローラーの存在が霞むほど、インパネ周りはアマチュア無線機やサイレンアンプ、各種ステッカーによって覆面オーラ全開。製作当時はインターネットで情報を得ることが難しかったため、実際の覆面パトカーを見かけては細部をチェックし、リアリティを高めてきたという。

あくまで「完コピ」ではなく、パトカーの好きな要素を注入するスタンス。ルームミラーはダブル化されているが、マップライト付きのAピラーには補助ミラーを装着するなど、細部へのこだわりも抜かりない。


レーシングハーネスが浮いて見えるほど、車内には誘導灯や反射ベスト、ゼンリンの住宅地図といった小物が並び、徹底してパトカーらしさを演出。なお、ブロアムのリヤシートは電動タイプだが、軽量化を目的にグランツーリスモ用シートへ交換されている。

覆面パトカーとしてのリアリティを追求するなら鉄チン、もしくはホイールカバー仕上げが理想だが、今回はウエット路面だったこともあり、足元にはブロアム純正のアルミホイールを装着。当初は車高調を組んでいたが、大きくロールする姿にこだわり、現在はあえてノーマルサスペンションへと戻している。

フェンダーミラー化をはじめ、3ナンバーグレード用の前期バンパー、マークレスグリル、ボンネットオーナメントのスムージングなど、エクステリア演出も抜かりなしだ。

製作初期は車高調やハイグリップタイヤ、機械式LSDなどでスピードレンジを高めていったが、限界挙動を把握した現在は、少しずつノーマル回帰を進行中。それはドリフトの速さやしやすさを求めるためではなく、あくまで“パトカーのリアリティ”を追求するためだ。「大きくロールした状態で、コーナーから飛び出してくる姿が一番格好いい」と中沖さんは語る。

異色のアプローチで仕上げられたY31だが、「覆面仕様としては本気で作り込んでいないので、マニアには怒られそうですけど(笑)。でも、ドリフトしているスポーツカーを、パトカースタイルの愛車で追いかけるのが最高に楽しいんです」という言葉に、このクルマのすべてが詰まっている。
やりたいことを自由に、気ままに楽しむ…。そんな“昭和チューニング”の精神が、強く息づく一台だ。

