開発の背景

物流業界は、日本の経済と暮らしを支える重要な社会基盤である。一方で、エネルギー消費量が大きい産業の一つであり、カーボンニュートラルの達成には長距離輸送を担う大型トラックの脱炭素化が不可欠である。その手段として、電気で駆動する電動トラックが注目されており、その普及は国策として加速されている。

電動大型トラックは、走行時にバッテリーを高出力で使用するため、従来よりも高いバッテリー冷却能力が求められる。また、バッテリー温度を精密に制御することで、バッテリー寿命を延ばすとともに、過酷な運行条件下でも高出力で安定稼働させ、走行性能を維持することが重要とされる。

デンソーは、この課題に対応するため、これまでのカーエアコン開発で培った高効率・高性能・小型化技術を生かし、サイズあたりの冷却性能で業界トップレベル※3を誇る、バッテリーの温度制御システムが新たに開発された。

今回開発した「バッテリー温調モジュール」は、バッテリーに冷温水を供給し、バッテリー内部の温度制御を行う製品であry。本製品は、バッテリーの温度制御に必要な複数の機能をモジュール化し、車両の空調システムとは独立して動作することで、バッテリーに特化した最適な温度制御が実現された。電動大型トラックの走行性能の向上やバッテリー寿命の延長に貢献する、国内初の製品である。

開発のポイント

空調システムと切り離した温度制御機能のモジュール化

ヒートポンプサイクル※4、ラジエーター※5、ヒーター、ポンプなどバッテリーの温度制御に必要な機能を、空調システムと切り離してモジュール化。これにより、車室内空調に影響を与えることなく、バッテリーに最適な温度制御(夏は冷却、冬は加温)を実現。

走行環境/シーンに合わせた省エネルギーな冷却制御

外気温度や冷却水の温度に応じて、ヒートポンプサイクルとラジエーターの使用を切り替える2つの冷却モードを搭載し、走行環境/シーンに応じた最適な温度制御を実現※6。さらに、ヒートポンプサイクルを使用する場面では、デンソー独自の高効率設計により、市場に流通する同等の冷却能力を持つバッテリー温調モジュールと比較して、20%以上高いCOP※7(エネルギー効率を示す成績係数)を達成。

コンパクト設計で性能とサイズを両立

ヒートポンプサイクル開発で培った高い放熱性能を持つ熱交換器などを活用することで、コンパクト設計を実現し、サイズあたりの冷却性能で業界トップレベルを達成。車両の実用性を支える高性能技術を省スペースで提供。

システム構成図

【注釈】

  1. 電動大型トラック : バッテリー電動大型トラック(BEV)、燃料電池大型トラック(FCV)、プラグインハイブリッド大型トラック(PHEV)等を含む
  2. 日野自動車、燃料電池大型トラック「日野プロフィア Z FCV」新発売 | ニュース・お知らせ | 日野自動車株式会社
  3. 2025年10月時点、自社調べ
  4. ヒートポンプサイクル : 冷媒を用いて熱を移動させる仕組み
  5. ラジエーター : 熱を外気に放出して温調水を冷却する装置
  6. ラジエーターは外気を活用することで省エネ冷却を行い、ヒートポンプは高負荷時の放熱に対応する。状況に応じた最適な冷却を行うことで、不要なエネルギー消費を抑えることができる
  7. COP(Coefficient of Performance) : 冷却能力(除熱量)を消費電力で割った値で、システムのエネルギー効率を示す成績係数。数値が大きいほど、同じ冷却性能をより少ない電力で達成できることを意味する