ディーゼルならではの魅力は健在

CX-30は、マツダのコンパクトクロスオーバーとして、2019年にデビューした。デビュー時は、SKYACTIV-G2.0(2.0Lガソリン)とSKYACTIV-D1.8(1.8Lディーゼル)、そしてかのSKYACTIV-X(2.0Lガソリン圧縮着火エンジン)の3つのパワートレーンが選べ、出イーゼル以外は6速MTも設定されていた。
それから幾度かの商品改良を受けて、現在は、e-SKYACTIV G2.0(2.0Lガソリン+マイルドハイブリッド)とSKYACTIV-D1.8(1.8Lディーゼル)で組み合わせるトランスミッションは6速ATのみとなっている。
久しぶりに借り出したCX-30は、1.8L直4ディーゼル搭載のXD Retro Sports Edition(2WD 価格344万8500円)である。

デビューから6年が経っても、エクステリアデザインは相変わらずスタイリッシュで美しい。サイズも
全長×全幅×全高:4395mm×1795mm×1540mm
ホイールベース:2655mm
で、街中での取り回しも優れている。やはりこのくらいのサイズがちょうどいい。1週間お借りして通勤、往復100km超の郊外ドライブなど400kmほど走ってみた。今回のテーマは、CX-30、どのくらい熟成しているか? ディーゼルエンジンは未だ魅力的か?の二点である。

まず、乗り込んでドアを閉めたときの音が違う。ボディ剛性が上がったことによるものだろうか。インテリアの質感も高い。Retro Sports Editionのシートは、合成皮革とレガーヌ(セーレン社の人工皮革。だからふたつの人工皮革を使っているということだ)の組み合わせ。テラコッタ/ブラックのカラーコーディネーションもなかなかシックだ。もちろん、電動(運転席)でシートヒーターは運転席/助手席に装備している。アクセルペダルはオルガン式だし、前を見ればHUD(ヘッドアップディスプレイ)も付いている。10.25インチのセンターディスプレイも大きくはないが、不足感はない。トラディショナルなメーター類は、相変わらず美しい。つまり、内外装ともまったく不満はない。ライバルのカローラクロスやヴェゼルと充分以上に戦える。
一方で、インフォテイメントは正直言ってやや手薄な印象だ。マツダコネクトは依然として使いにくい(オーナーになったら、慣れるのだろうが)。







トルキーな走り、優れた燃費

2010年代にあれだけ盛り上がったディーゼルエンジンも、世界的には2015年ディーゼルゲートで冷や水を浴びてだいぶ下火になっている。そんななかでマツダは、ディーゼルの進化・開発の手を緩めずにいる数少ないメーカーだ。その甲斐あって、最新作のSKYACTIV-D3.3(3.3L直6ディーゼル)は、現代最高のディーゼルユニットのひとつに仕上がっている。
CX-30に搭載するのは、SKYACTIV-D1.8。かつては、1.5Lのディーゼル(SKYACTIV-D1.5)も用意していたマツダだが、現在はD1.8が最小排気量のディーゼルだ。
2026年に国内デビューが予定されているCX-5では、ディーゼル(2.2LのSKYACTIV-D2.2)はラインアップから外れることになっている。ディーゼル推しのマツダも、大排気量以外はガソリンエンジン+フルハイブリッド(開発中のSKYACTIV-Zエンジンとマツダ独自のストロングハイブリッドシステム)への移行を進めていく。言い換えると、コンパクト~ミドルクラスでディーゼルエンジンを選べるのは、あと何年もないってことだ(たぶん)。


ディーゼルの美点は、トルキーで燃費のいい走りだ。低回転域で充分なトルクが出るので、高速巡航でのエンジン回転数は低く抑えることができ、結果、クルージング時の静粛性は高い。気になるアイドリング時のエンジン音は、特段うるさいってことはない。もちろん、ガソリン車やHEVと比べると音はするけれど。
高速道路での追い越しでは、アクセルペダルをほんの少し踏むだけで、気持ち良く加速し、滑らかに追い越しを終える。この感覚はディーゼルならではだ。筆者のマイカーでも7年間、ディーゼル車に乗っている(F30型BMW320d)から、ディーゼル贔屓なのは自白しておくが、同じCX-30のFWDモデルで、ガソリンより20%以上も燃費がいいだ。
今回、414.1km走行して、燃費は20.1km/Lだった。WLTCモード燃費が19.5km/Lだから、それ以上の数字である。
ちなみに、借り出したのは10月で、その後商品改良を受けてD1.8のWLTCモード燃費は
2WD:19.5km/L→20.2km/L
4WD:18.7km/L→19.2km/Lへと向上している。2019年のデビュー時は2WDが19.2km/L、4WDが18.4kmだったから、
2WD:19.2km/L→19.5km/L→20.2km/L
4WD:18.4km/L→18.7km/L→19.2km/L
それぞれ、4~5%も燃費が向上している。マツダが真面目にディーゼルエンジン開発を続けている証左のひとつだろう。
ネガがあるとしたら、エンジン音が魅力的ではないこと。絶対的な音量は低く抑えられているのだが、聞こえてくるサウンドが端的にいって気持ち良くない。個人の好みということもできるが、気になった。
2026年を迎えるいま、ディーゼルはアリ?

試乗した結果、CX-30がほぼモード燃費を出せる実力があることがわかった。では、選ぶべきはガソリンかディーゼルか、検証してみよう。
現在の燃費は
ディーゼルD1.8(FF 6AT)
燃費:WLTCモード 20.2km/L
市街地モード 16.4km/L
郊外モード 20.1km/L
高速道路モード 22.5km/L
ガソリンG.2.0(FF)
燃費:WLTCモード 16.2km/L
市街地モード 12.7km/L
郊外モード 16.7km/L
高速道路モード 18.0km/L
ガソリンと軽油の単位発熱量は
ガソリン 34.6GJ/kL
軽油 38.2GJ/kL
で軽油の方が大きい。
一方CO₂排出量は
ガソリン 2322g/L
軽油 2619g/L
である。
現在の(ガソリン税と軽油引取税の暫定税率が実質なくなった)燃料価格を
レギュラーガソリン価格 159円/L
軽油価格 146円/L
とする。これをベースに計算すると
■1km走るのにいくらかかるか?
G2.0(FWD 6AT)9.8円/km
D1.8(FWD 6AT)7.2円/km
■1km走るとCO₂排出量は?
G2.0(FWD 6AT)143.3g/km
D1.8(FWD 6AT)129.7g/km
となる。つまり、ディーゼルの方がどちらも優れているということだ。
今度は、ディーゼルとガソリンの価格差を考えてみる。CX-30では
e-SKYACTIV G2.0 20S Touring(FWD) 305万2500万円
D1.8 XD Drive Edition(FWD) 336万0500円
GとDの価格差は30万8000円程度だ(装備を詳細に比較したわけではないが)。
この価格差を燃料費で賄うとすると、118461km走らないといけない。つまり、12万kmを超えないとディーゼルエンジン代を回収できないということになる。月1000kmで10年だ。月1500kmで6年半。月間走行距離が1500kmくらいなら積極的にディーゼルを選択する価値が高いといえる。もちろん、燃費だけが選択要因ではない。筆者のようなディーゼル推しだったら、燃料代の差額でディーゼル代を賄えなくてもディーゼルを選ぶ。それだけディーゼルの走りは気持ちがいい。それに、輸入してきた原油を蒸留・精製すると一定割合で軽油ができる。これを有効に使うためにも、ディーゼルは依然としてアリだと思う。また、1タンク(51L)で1000km走れる”脚の長さ”も、ディーゼルを選ぶメリットだ。
とはいえ、普段は近所の買い物、往復20km程度の通勤で使うなら、ガソリンエンジン車を選んだ方が幸せになれそうだ、と付け加えておきます。

マツダCX-30 XD Retro Sports Edition(2WD)
全長×全幅×全高:4395mm×1795mm×1540mm
ホイールベース:2655mm
車重:1460kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式Rトーションビームアクスル式
駆動方式:FWD
エンジン
形式:1.8直列4気筒DOHCディーゼルターボ
型式:S8-DPTS型(SKYACTIV-D1.8)
排気量:1756cc
ボア×ストローク:79.0mm×89.6mm
圧縮比:14.8
最高出力:130ps(93kW)/4000pm
最大トルク:270Nm/1600-2600rpm
燃料:軽油
燃料タンク:51L
燃費:WLTCモード 19.5km/L
市街地モード 16.4km/L
郊外モード 19.5km/L
高速道路モード 21.3km/L
トランスミッション:6速AT
車両本体価格:344万8500円
