インフィニティの現在地とQX80という存在

日産が1989年から展開している高級車ブランドの「インフィニティ」。北米市場を皮切りに、現在では中東やアジア、ヨーロッパにも進出している。
かつてはセダンやクーペもラインナップしたが、現行モデルはすべてSUVに集約。車名は頭に「QX」が付いて、後に続く数字の大きさで車格を表すネーミングルールが採用されている。
その中でフラッグシップモデルに位置付けられるフルサイズSUVが、今回レポートする「QX80」。プラットフォームは日本導入が予定されている日産の「パトロール」や、その北米仕様である「アルマーダ」などと共有しており、インフィニティらしい高級感溢れる内外装と最新テクノロジーが盛り込まれている。

“Artistry in Motion”が生んだ圧倒的な佇まい
現行のQX80が正式発表されたのは2024年3月。インフィニティにとって最新のデザイン言語である“Artistry in Motion”が採用された。「動く芸術」や「動きの美学」といった意味合いで、クルマが止まっている状態でも動きが感じられるようなデザインが特徴。兄弟車であるパトロールやアルマーダが、卓越したクロカン性能とタフなイメージを訴求しているのに対して、QX80は富裕層が求めるエレガンスとステータス性を重視している印象だ。

実際、試乗のためにお借りしたQX80は行く先々で大変好評で、その中にはQX80を購入できるだけの財力を持った富裕層も含まれている。宿泊先のエントランスに停車した時、たまたま居合わせた見知らぬ人が顔を輝かせ、“What a beautiful truck!”と言ったことも印象深い。フロントしか見えなかったから「トラック」と言ったのか、その人が普段からSUVも「トラック」と呼んでいるのかは定かではないが、見るものをハッとさせる美しさがQX80にあることを実感することができた。

パトロール/アルマーダと共通する骨格、異なるキャラクター
QX80のボディサイズはカタログ値をメートル法に換算して、全長が5364mm、全幅(ミラーtoミラー)が2349mm、全高は仕様により1945mmもしくは1978mm。ホイールベースは3073mmとなっている。
ボディ・オン・フレーム構造と前後ダブルウィッシュボーンのサスペンションを採用し、車高を調整する電子制御エアサスペンションと、減衰力をアクティブに制御するダイナミック・デジタル・サスペンションを標準装備。フレームのねじり剛性は従来型と比べて25%、横方向の剛性は57%向上され、巨体でありながらシャキッとした乗り味を実現させた。

V8からV6ツインターボへ──パワートレインの転換
エンジンはVR35DDTT型の3.5L V6ツインターボ。従来は5.6LのV8を搭載していたが、最高出力と最大トルクは大幅に向上しており、それぞれ456ps/5600rpm、700Nm/3600rpmを発揮。9速ATが組み合わせられ、駆動方式は4WDを基本としながら、一部グレードにはFRも設定されている。燃費のカタログ値は街乗りやハイウェイなど複合的条件で試算したコンバインモードで17mpg(約7.22km/L)だ。

今回試乗したのは「AUTOGRAPH」という最上級グレードで、22インチのホイールを標準装備。タイヤはブリヂストンのALENZA SPORT A/Sで、サイズは275/50R22。「A/S」はオールシーズンの意味で、トレッドには細かいサイプが刻まれている。

インテリアもまた豪華絢爛といった印象で、デザインには日本の「雅(MIYABI)」から受けたインスピレーションも反映されている。特に「AUTOGRAPH」の場合はセミアニリンレザーを使った上質感が加わり、試乗車は内装色がバーガンディということもあって、なおさら優雅な印象だ。

そしてメーターとセンターディスプレイには、それぞれ14.3インチのディスプレイを採用し、車載OSにはGoogleが提供するGoogle buit-inを搭載。センターコンソールにもエアコンやシート、車両設定を一括操作できる9インチのタッチスクリーンが備わり、先進的なUIを実現させている。

最近は日本でもGoogle搭載の新型車が増えてきているが、ナビゲーションの目的地設定はもちろん、エアコンの温度設定など、各種操作を音声アシスタントで完結できるところは、本当に便利。ナビゲーションの音声認識機能はもっと昔からあったとはいえ、Googleの精度の高さや初めてでも直感的に使えるユーザビリティは圧倒的だ。比喩的な意味ではなく、人とクルマ(AI)が文字通り「対話」しながらドライブをする時代ってこういう感じなのかな?とイメージさせてくれる。
後席まで主役──3列シートとショーファードリブンの思想
シートレイアウトは3列7人乗り。「AUTOGRAPH」以外のグレードはオプションのセカンドベンチシートで8人乗りを選択することもできる。


フロントシートにはシートヒーターとシートベンチレーション、マッサージ機能などを装備。アメリカの高級オーディオブランドであるKlipschのプレミアムオーディオも備わり、ヘッドレストスピーカーのおかげでナビゲーションのルートガイドも聞き取りやすい。
スマートフォンのワイヤレス充電器は、スマートフォンを立てかけるように置くだけでOK。後方にはUSB-Cのソケットも備わる。


また、「AUTOGRAPH」はセンターコンソールに冷蔵庫、セカンドシートにタッチスクリーンを標準装備。手元で空調やシート調整、シートヒーターおよびシートベンチレーションなどの操作が可能で、マッサージ機能も備わっている。これは後席側にVIPが座るショーファードリブンも想定した仕様設定と言えるだろう。


サードシートも成人男性が快適に座れる空間を確保。電動リクライニングが備わり、「AUTOGRAPH」にはシートヒーターも装備されている。
引き続き、後編では試乗インプレッションや荷室の使い勝手についてレポートする。

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